87 / 138
第2章 見習い冒険者
2-36 探検の書
しおりを挟む
「さてと……リオ、ご飯を食べましょう? 今日はシチューとグラタンよ」
クリームシチューとリゴン水、野菜たっぷりのグラタンに長細いパンを置いたお盆を母が持ってきて、食席に座る。
「待ってました! もう、腹ペコだよ~」
「アハハ、ゆっくり食べなさい」
チーズの"じゅわ~"と焼ける音や焦げた香ばしい匂いと食欲をそそる匂いが部屋に広がる。
"ぐぅ~"と鳴る腹の後に俺は涎が我慢できず、熱々のご飯をゆっくり食べ進める。
「それで、リオ、聞いても良い?」
お互いにある程度食べ終えた時に母が改まった表情で俺に質問する。
「何度も言うけど、俺の意思は変わらないよ」
「それはもう良いわ……貴方の人生なんだから好きにしなさい。でも、ちゃんと帰ってくるんだよ?」
「母ちゃんらもね? 俺は、確かに弱いけど死ぬ危険は、母ちゃん達の方が高いんだからね?」
「あら? 未熟者の貴方がアタシらの心配? うふふ冗談よ。ありがとね。気をつけるわ」
俺の心配に生意気だと言わんばかりに挑発する母は、突然笑い、笑みをこぼした。
「それで、一体何のようなの?」
「リオは、いつアレを使えるようになったの?」
「(アレってなんだろう……多分、グレイウルフ戦での事だけど……母ちゃん達が知らなくて、俺がやった事と言えば……魔拳のことかなぁ?)」
「アレ? って……もしかして、"魔拳ー鉄"の事?」
母のアレと言う言葉に1つしか心当たりがない俺は、少し首を傾げながら質問に答える。
「そうよ。貴方が"魔拳"って呼んでいるモノは、魔力近接戦闘術・魔纏撃(まてんげき)って呼ばれているわ」
「魔纏撃? えっ? アレって……そんなに有名な技なの?」
「う~ん……有名と言われれば微妙なところね。この国から遠方にある遊戯国家ドネペジル発祥の格闘術だわ」
「遊戯国家? なんか、楽しそうな国だね!」
「(遊戯国家……遊戯国家? どっかで聞いたことあるなぁ……何処だっけ?)」
「その分、治安は最悪に近いからあまり期待しない方が良いわ。っと、そうじゃなくてね。魔纏撃は、使用は控えるようにね」
遊戯国家ドネペジルという国名に聞き覚えがあった俺であるが、どう言うタイミングで聞いたかと思い出そうと上の空になっている俺に母は、続けて注意を促す。
「分かっているけどさ……魔纏撃って訓練次第で制御とか出来ない物なのかなぁ? 母ちゃんは、何か知らない」
「そもそも、貴方は魔纏撃と付与魔法の違いは分かるかしら?」
「えっ? う~ん……そう言われると全然分かんないなぁ……違いってあるの?」
「(そもそも、この世界の付与魔法自体のちゃんとした定義なんて聞いたことがないから、俺の中のイメージの範疇でしか分かんないなぁ)」
「大きく分けて2つあるわ。1つ目は魔法体系に組み込まれているか否かで、2つ目は、1によって上限が決められているか否かの違いよ」
「うん? 全然分かんないけど……」
「(前言撤回。全然分かんないわ)」
母によって説明された2つの違いが全く理解出来なかった俺は、母の言葉を一言も逃さない様に意識を集中した。
「まず1つ目の魔法体系についてね。付与魔法は、少し特殊な魔法でね……。リオ、例えば火魔法を掌の上で使うと自分の手はどうなる?」
「自分の魔力とは言え少し、ずつ、焼ける……あっ!? そう言う事? いや、でも……まあ、良いや。兎も角、掌の上は焼かれるね」
魔法と言うか属性魔力の特性と属性魔力の耐性の関係性から考えた俺は、何となく母の言いたい事のニュアンスが理解出来た。
「その通りよ。魔纏撃はね、正にその性質を引き継いでいる訳よ。貴方の右拳が砕けた事は、何もグレイウルフの頭蓋骨が硬過ぎる訳でも、貴方の身体が弱い訳では無いわ」
「あ、じゃあ……やっぱり?」
「そうよ。土魔力は、身に纏わせれば、その箇所が脆くなる性質を持つわ。火なら燃えて火傷を負うとかね」
「じゃあ、付与魔法は?」
「その欠点が無くなり、自分と他者の魔力によって身体への危険は無く、強化を付与できるわ。逆に弱体化は、本来の属性魔力の性質をより顕著に引き出すわ。まあ、その分、習得難易度が高かったり、代償があったりするから"最強で万能な魔法"って訳でも無いわ」
魔纏撃は属性魔力の特性を引き継いだ強化方法で、付与魔法が魔法体系に落とし込んだ強化・弱体化方法だと説明する母だったが、俺に付与魔法にも欠点があると注意喚起した。
「代償か……ちなみにそれは?」
「付与魔法使いは、生涯で得意1属性のみしか攻撃・防御魔法を使えなくなるわ」
「うわぁ……それはそれで嫌だなぁ……」
「(まあ、魔法を補助として使う前衛であればこのリスクは無いようなモノだけど……習得が難しいなら話は別だな。後衛魔法使いで攻撃・防御の属性が1種に縛られる事は、技能に耐性がある時点でヤバいなぁ)」
この世界では、耐性も技能の内としてカウントされている。
俺自身も属性魔力の耐性技能を習得できる事実から考えると、より強い魔物には、俺と同じ様に属性魔力耐性があると俺は考察した。
「その辺りは、また今度にでもストールに聞いてみなさい。彼は、付与魔法を習得していて、アタシよりもよく知っているわ」
「分かった。その辺は、今度また聞いてみるよ」
「そうしてみて頂戴。それで……何の話だっけ?」
「母ちゃん、魔纏撃の制御方法についての話だよ」
「あ、そうそう! それで、制御法ね。結論から言うと魔纏撃は、制御は出来るわ」
話が脱線した事により何について話していたか忘れてしまった母は、俺に本題を伝えられると照れ笑いしながら説明をした。
「本当っ!? どうやって!?」
「まあ、これが制御と言って良いか微妙な線だけど……魔纏撃は、貴方が体験した通り自身の身体を壊してでも相手に攻撃を与える手段だわ。これは、制御の仕様が無い魔力の性質みたいなモノだわ」
「えっ? じゃあ、制御は無理なんじゃ……」
「だから、魔纏撃使い……有名な所だと火纏撃(かてんげき)流の一派は、魔力操作とそれに耐えられる強靭な肉体作りの末に"身体が痛みに耐えられる許容範囲"を拡大して、ある種の制御を可能にしているわ」
「痛みに耐えて……身体が壊れない限界を追求する流派かぁ……凄いな……」
脳筋過ぎる制御方法に俺は、絶句しつつも逆にその方法しかないかと心の中で納得し、自身の痛みの経験則からその手法を行う人達に尊敬した。
「魔纏撃の凄い所は、付与魔法と違って強化する上限が無い所にあるわ。貴方も身に覚えがあるでしょ?」
「あっ!? それで、あの威力の攻撃が出来たのかぁ……」
「付与魔法は、自分だけじゃ無く、他人や物に危険無しで魔法を付与出来る利便性があるけど、その反面に魔法の等級によって効果や時間に上限決められているわ」
「なるほど……だから、さっき母ちゃんは、"最強でも万能でも無い"みたいな事を言っていたのか……」
俺はグレイウルフ戦で放った最初の一撃と最後の一撃を思い出し、両方を比べて考察した。
「魔纏撃は、自分の身体と身に付けている道具の強化に特化していて、自身の命と引き換えに攻撃するみたいな事も可能だから、制御出来ていない内はあまりやって欲しくないのよ」
「ああ、そう……あ、なら、剣鉈や槍に使うのは良いんじゃないの? やった事はないけど、物語の魔剣みたいでカッコ良さそうだし」
「それも、限りなく無理に近いわ」
「えっ? 何で? 良い代替案だと思うけど……」
「確かに、貴方の言うやり方の魔纏撃はあるわ。でも、それは、魔力をよく通す物質の性質が有って初めて出来る芸当よ。貴方の武器は鉄製武器。普通の金属では、力押しで魔力を通せても、その魔力に武器が耐えられ無いわ」
「魔力を通す金属かぁ……ーー!? 迷宮産の金属!」
武器の耐久値が自身の魔力に耐えられない事が盲点だった俺は、今でも偶に行く祖母の店の手伝いでの経験を思い出した。
「あとは、魔物の骨や皮なんかも、それに当てはまるわ」
「そっか、そう言う事かぁ……確かに、魔纏撃、俺の場合は土纏撃(どてんげき)? になるのか? に頼ってばっかりは、かなり危ないのか……」
くどい様だが、俺の現状で魔纏撃は、自身の身体や道具が壊れる前提での最後の切り札である。
その一撃は、場合によっては魔法よりも強い必殺の一撃になるが、同時にそれで倒せなかった場合は万事休すになる事は明白である。
「分かってくれたかしら? 別に2度と使うなとは言わ無いわ。だからせめて、土壇場で全魔力を込めるのでは無くて、使いこなせる様に一杯練習してから使って欲しいわ」
「あはは……うん、分かったよ。それは、俺も反省しなくちゃね」
「(あの戦いで倒せた事は、本当にまぐれだなぁ。少なくても最初の一撃で体力を削れていなかったら、どうなっていた事やら)」
母に図星を突きつけられた俺は、笑って誤魔化したが、内心では最悪な状況を思い返してしっかりと反省した。
「ただいまー! リオ、待たせたな! 買ってきてやったぞ!」
「父ちゃん、おかえり! 日記本と羽ペンを買ってきてくれて、ありがとね。今度からは自分で買うよ」
「ワッハッハ! 子供が遠慮するなって! それと、日記本を書き終えたら、そん時はまた言えよ? 成人するまで買ってきてやるからよ」
「えっ!? いいよ、そこまでしなくても!」
「だから、遠慮するなって。俺達が買ってあげたいんだ。もう少し、俺らに親らしい事をさせてくれよ」
「そうよ。貴方は、昔から、手のかから無い子供で助かったけど、もう少しアタシらに頼ってくれ無いと寂しいわ」
「~っ!? ああ、もう! 分かった、それじゃあ、その、また、お願いします」
両親からのお節介とも呼べる好意に俺は、顔が熱くなるくらい恥ずかしくなった。
「おう! 任せろ!」
「ええ、任せて!」
「それじゃあ、俺はもう部屋で休むよ! ご飯ありがとねー!」
「逃げたわ」
「おう、そうだな」
お腹を満たし、活力が戻った俺は、後ろから聞こえる両親の言葉を無視して、自室へと小走りで向かった。
「ふぅーなんか、変な汗をかいたな。それはそうと、日記本……[探検の書]かぁ……時系列はいつから書こうかな? いや……この際だし、日記書きじゃなくて自作小説っぽく書くのもアリだな……どうせ、俺の趣味だし、多分、見られたり、バレたりしても創作って事で誤魔化せるだろ」
両親には日記張として使うと言う建前だったが、本来の使い道は自由帳として使う予定だった。
しかし、普通に日記風に書く事が勿体無いと感じた俺は、遊び心加える為に前世でも書いたことがない小説風に書く事を決心した。
「(それなら、本格的に時系列はいつにしようか……俺の誕生日が"ドラゴンのツキ・5日・ドウギのヒ"だからそこからにする? いや、でも、[佐藤翔太の自我記憶]を思い出して、異世界転生を自覚したのは、祝福日の"ヘビのツキ・1日・ユウキのヒ"だから、そっちの方が小説っぽくて良い様な気がする!)」
「うん、きっとそんな気がする。さてと、早速書いてみるか! えっと……[迷王歴500年・ヘビのツキ・1日・ユウキのヒ。5歳の夏、俺は唐突に前世の記憶と言うものを思い出した]っと」
クリームシチューとリゴン水、野菜たっぷりのグラタンに長細いパンを置いたお盆を母が持ってきて、食席に座る。
「待ってました! もう、腹ペコだよ~」
「アハハ、ゆっくり食べなさい」
チーズの"じゅわ~"と焼ける音や焦げた香ばしい匂いと食欲をそそる匂いが部屋に広がる。
"ぐぅ~"と鳴る腹の後に俺は涎が我慢できず、熱々のご飯をゆっくり食べ進める。
「それで、リオ、聞いても良い?」
お互いにある程度食べ終えた時に母が改まった表情で俺に質問する。
「何度も言うけど、俺の意思は変わらないよ」
「それはもう良いわ……貴方の人生なんだから好きにしなさい。でも、ちゃんと帰ってくるんだよ?」
「母ちゃんらもね? 俺は、確かに弱いけど死ぬ危険は、母ちゃん達の方が高いんだからね?」
「あら? 未熟者の貴方がアタシらの心配? うふふ冗談よ。ありがとね。気をつけるわ」
俺の心配に生意気だと言わんばかりに挑発する母は、突然笑い、笑みをこぼした。
「それで、一体何のようなの?」
「リオは、いつアレを使えるようになったの?」
「(アレってなんだろう……多分、グレイウルフ戦での事だけど……母ちゃん達が知らなくて、俺がやった事と言えば……魔拳のことかなぁ?)」
「アレ? って……もしかして、"魔拳ー鉄"の事?」
母のアレと言う言葉に1つしか心当たりがない俺は、少し首を傾げながら質問に答える。
「そうよ。貴方が"魔拳"って呼んでいるモノは、魔力近接戦闘術・魔纏撃(まてんげき)って呼ばれているわ」
「魔纏撃? えっ? アレって……そんなに有名な技なの?」
「う~ん……有名と言われれば微妙なところね。この国から遠方にある遊戯国家ドネペジル発祥の格闘術だわ」
「遊戯国家? なんか、楽しそうな国だね!」
「(遊戯国家……遊戯国家? どっかで聞いたことあるなぁ……何処だっけ?)」
「その分、治安は最悪に近いからあまり期待しない方が良いわ。っと、そうじゃなくてね。魔纏撃は、使用は控えるようにね」
遊戯国家ドネペジルという国名に聞き覚えがあった俺であるが、どう言うタイミングで聞いたかと思い出そうと上の空になっている俺に母は、続けて注意を促す。
「分かっているけどさ……魔纏撃って訓練次第で制御とか出来ない物なのかなぁ? 母ちゃんは、何か知らない」
「そもそも、貴方は魔纏撃と付与魔法の違いは分かるかしら?」
「えっ? う~ん……そう言われると全然分かんないなぁ……違いってあるの?」
「(そもそも、この世界の付与魔法自体のちゃんとした定義なんて聞いたことがないから、俺の中のイメージの範疇でしか分かんないなぁ)」
「大きく分けて2つあるわ。1つ目は魔法体系に組み込まれているか否かで、2つ目は、1によって上限が決められているか否かの違いよ」
「うん? 全然分かんないけど……」
「(前言撤回。全然分かんないわ)」
母によって説明された2つの違いが全く理解出来なかった俺は、母の言葉を一言も逃さない様に意識を集中した。
「まず1つ目の魔法体系についてね。付与魔法は、少し特殊な魔法でね……。リオ、例えば火魔法を掌の上で使うと自分の手はどうなる?」
「自分の魔力とは言え少し、ずつ、焼ける……あっ!? そう言う事? いや、でも……まあ、良いや。兎も角、掌の上は焼かれるね」
魔法と言うか属性魔力の特性と属性魔力の耐性の関係性から考えた俺は、何となく母の言いたい事のニュアンスが理解出来た。
「その通りよ。魔纏撃はね、正にその性質を引き継いでいる訳よ。貴方の右拳が砕けた事は、何もグレイウルフの頭蓋骨が硬過ぎる訳でも、貴方の身体が弱い訳では無いわ」
「あ、じゃあ……やっぱり?」
「そうよ。土魔力は、身に纏わせれば、その箇所が脆くなる性質を持つわ。火なら燃えて火傷を負うとかね」
「じゃあ、付与魔法は?」
「その欠点が無くなり、自分と他者の魔力によって身体への危険は無く、強化を付与できるわ。逆に弱体化は、本来の属性魔力の性質をより顕著に引き出すわ。まあ、その分、習得難易度が高かったり、代償があったりするから"最強で万能な魔法"って訳でも無いわ」
魔纏撃は属性魔力の特性を引き継いだ強化方法で、付与魔法が魔法体系に落とし込んだ強化・弱体化方法だと説明する母だったが、俺に付与魔法にも欠点があると注意喚起した。
「代償か……ちなみにそれは?」
「付与魔法使いは、生涯で得意1属性のみしか攻撃・防御魔法を使えなくなるわ」
「うわぁ……それはそれで嫌だなぁ……」
「(まあ、魔法を補助として使う前衛であればこのリスクは無いようなモノだけど……習得が難しいなら話は別だな。後衛魔法使いで攻撃・防御の属性が1種に縛られる事は、技能に耐性がある時点でヤバいなぁ)」
この世界では、耐性も技能の内としてカウントされている。
俺自身も属性魔力の耐性技能を習得できる事実から考えると、より強い魔物には、俺と同じ様に属性魔力耐性があると俺は考察した。
「その辺りは、また今度にでもストールに聞いてみなさい。彼は、付与魔法を習得していて、アタシよりもよく知っているわ」
「分かった。その辺は、今度また聞いてみるよ」
「そうしてみて頂戴。それで……何の話だっけ?」
「母ちゃん、魔纏撃の制御方法についての話だよ」
「あ、そうそう! それで、制御法ね。結論から言うと魔纏撃は、制御は出来るわ」
話が脱線した事により何について話していたか忘れてしまった母は、俺に本題を伝えられると照れ笑いしながら説明をした。
「本当っ!? どうやって!?」
「まあ、これが制御と言って良いか微妙な線だけど……魔纏撃は、貴方が体験した通り自身の身体を壊してでも相手に攻撃を与える手段だわ。これは、制御の仕様が無い魔力の性質みたいなモノだわ」
「えっ? じゃあ、制御は無理なんじゃ……」
「だから、魔纏撃使い……有名な所だと火纏撃(かてんげき)流の一派は、魔力操作とそれに耐えられる強靭な肉体作りの末に"身体が痛みに耐えられる許容範囲"を拡大して、ある種の制御を可能にしているわ」
「痛みに耐えて……身体が壊れない限界を追求する流派かぁ……凄いな……」
脳筋過ぎる制御方法に俺は、絶句しつつも逆にその方法しかないかと心の中で納得し、自身の痛みの経験則からその手法を行う人達に尊敬した。
「魔纏撃の凄い所は、付与魔法と違って強化する上限が無い所にあるわ。貴方も身に覚えがあるでしょ?」
「あっ!? それで、あの威力の攻撃が出来たのかぁ……」
「付与魔法は、自分だけじゃ無く、他人や物に危険無しで魔法を付与出来る利便性があるけど、その反面に魔法の等級によって効果や時間に上限決められているわ」
「なるほど……だから、さっき母ちゃんは、"最強でも万能でも無い"みたいな事を言っていたのか……」
俺はグレイウルフ戦で放った最初の一撃と最後の一撃を思い出し、両方を比べて考察した。
「魔纏撃は、自分の身体と身に付けている道具の強化に特化していて、自身の命と引き換えに攻撃するみたいな事も可能だから、制御出来ていない内はあまりやって欲しくないのよ」
「ああ、そう……あ、なら、剣鉈や槍に使うのは良いんじゃないの? やった事はないけど、物語の魔剣みたいでカッコ良さそうだし」
「それも、限りなく無理に近いわ」
「えっ? 何で? 良い代替案だと思うけど……」
「確かに、貴方の言うやり方の魔纏撃はあるわ。でも、それは、魔力をよく通す物質の性質が有って初めて出来る芸当よ。貴方の武器は鉄製武器。普通の金属では、力押しで魔力を通せても、その魔力に武器が耐えられ無いわ」
「魔力を通す金属かぁ……ーー!? 迷宮産の金属!」
武器の耐久値が自身の魔力に耐えられない事が盲点だった俺は、今でも偶に行く祖母の店の手伝いでの経験を思い出した。
「あとは、魔物の骨や皮なんかも、それに当てはまるわ」
「そっか、そう言う事かぁ……確かに、魔纏撃、俺の場合は土纏撃(どてんげき)? になるのか? に頼ってばっかりは、かなり危ないのか……」
くどい様だが、俺の現状で魔纏撃は、自身の身体や道具が壊れる前提での最後の切り札である。
その一撃は、場合によっては魔法よりも強い必殺の一撃になるが、同時にそれで倒せなかった場合は万事休すになる事は明白である。
「分かってくれたかしら? 別に2度と使うなとは言わ無いわ。だからせめて、土壇場で全魔力を込めるのでは無くて、使いこなせる様に一杯練習してから使って欲しいわ」
「あはは……うん、分かったよ。それは、俺も反省しなくちゃね」
「(あの戦いで倒せた事は、本当にまぐれだなぁ。少なくても最初の一撃で体力を削れていなかったら、どうなっていた事やら)」
母に図星を突きつけられた俺は、笑って誤魔化したが、内心では最悪な状況を思い返してしっかりと反省した。
「ただいまー! リオ、待たせたな! 買ってきてやったぞ!」
「父ちゃん、おかえり! 日記本と羽ペンを買ってきてくれて、ありがとね。今度からは自分で買うよ」
「ワッハッハ! 子供が遠慮するなって! それと、日記本を書き終えたら、そん時はまた言えよ? 成人するまで買ってきてやるからよ」
「えっ!? いいよ、そこまでしなくても!」
「だから、遠慮するなって。俺達が買ってあげたいんだ。もう少し、俺らに親らしい事をさせてくれよ」
「そうよ。貴方は、昔から、手のかから無い子供で助かったけど、もう少しアタシらに頼ってくれ無いと寂しいわ」
「~っ!? ああ、もう! 分かった、それじゃあ、その、また、お願いします」
両親からのお節介とも呼べる好意に俺は、顔が熱くなるくらい恥ずかしくなった。
「おう! 任せろ!」
「ええ、任せて!」
「それじゃあ、俺はもう部屋で休むよ! ご飯ありがとねー!」
「逃げたわ」
「おう、そうだな」
お腹を満たし、活力が戻った俺は、後ろから聞こえる両親の言葉を無視して、自室へと小走りで向かった。
「ふぅーなんか、変な汗をかいたな。それはそうと、日記本……[探検の書]かぁ……時系列はいつから書こうかな? いや……この際だし、日記書きじゃなくて自作小説っぽく書くのもアリだな……どうせ、俺の趣味だし、多分、見られたり、バレたりしても創作って事で誤魔化せるだろ」
両親には日記張として使うと言う建前だったが、本来の使い道は自由帳として使う予定だった。
しかし、普通に日記風に書く事が勿体無いと感じた俺は、遊び心加える為に前世でも書いたことがない小説風に書く事を決心した。
「(それなら、本格的に時系列はいつにしようか……俺の誕生日が"ドラゴンのツキ・5日・ドウギのヒ"だからそこからにする? いや、でも、[佐藤翔太の自我記憶]を思い出して、異世界転生を自覚したのは、祝福日の"ヘビのツキ・1日・ユウキのヒ"だから、そっちの方が小説っぽくて良い様な気がする!)」
「うん、きっとそんな気がする。さてと、早速書いてみるか! えっと……[迷王歴500年・ヘビのツキ・1日・ユウキのヒ。5歳の夏、俺は唐突に前世の記憶と言うものを思い出した]っと」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる