探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

文字の大きさ
上 下
79 / 138
第2章 見習い冒険者

2-28 友

しおりを挟む
伊調は一人ではなく、神楽部隊の女性を一人伴っていた。そちらも、高耶とは顔見知りだ。お互い小さく礼をして挨拶しておく。

その間に、伊調は高耶と共に声を上げた武雄の存在に気付いたようだ。

「そちらは、女将のお孫さんでしたね」

伊調が武雄に声をかける。すると、武雄は勢いよく頭を下げた。

「お久しぶりですっ」
「大きくなられましたね。今日御当主と一緒……ということは、同級生でしたか?」

伊調には、メールの折りになぜこの場に居るのかというのも話していたのだ。これには、高耶が答えた。

「ええ。その縁で同窓会の会場として、旅館を使わせてもらえることに」
「そうでしたか。ああ、お席はこちらでどうです?」

伊調の隣りのテーブルとその奥を示す。

高耶と武雄、俊哉と時島の四人が、伊調の隣りの席に座る。そして、伊調は高耶にお気に入りらしいメニューを教えた。

「ここは、季節の天ぷら蕎麦がオススメですよ」

すると、武雄も頷く。

「ここはそれがオススメ」
「なら是非それで」

俊哉達も同じものを頼んだ。

注文を終えると、高耶は伊調に尋ねる。

「この辺りに扉はないと聞いていましたが」
「ええ。そうなのです。それで、近くにある彼女の実家から車を出してもらうのですよ」

そうすると、女性の方が答えた。

「何度か、扉を繋げられる場所の候補を上げてはいたのですが、中々難しいようです。元々、わたくし達もここへは仕事ではなく休養にというものでしたから」

個人的な休養地への移動のために、連盟がその粋を集めた扉の技術を使うことはできない。どこにでも、いつでも扉を繋げられる高耶が異常なのだ。

本来は何十人と術者を集めて、力を結しなくては繋げられないもの。管理も大変だった。

そういえばとその事を思い出した高耶に、伊調は微笑む。まるで、世間知らずなところのある可愛い孫を見るような目だ。そんな顔を見せるのは、高耶と居る時くらいだろう。

「ここの土地神様はしっかりされている方ですから、私達の力は必要ないようでしたので、扉の申請もしておりません」
「そうでしたか……」

許可がそう簡単に出るものでもないというのも思い出し、高耶は苦笑した。

これに女性が尋ねる。

「ふふっ。昔は、駅から送迎のバスも出ていましたけれど、今回御当主様はタクシーで?」
「あ、いえ。源龍さんの所の車で送ってもらいました」
「おや」
「まあ」

二人して目を丸くされた。

「帰りも連絡することになっています……」
「榊の御当主も御執心なようでしたからね。他にも話をすれば、御当主の為ならと、車を出してくれる方は多いでしょう」

伊調もそれを当たり前のように受け入れていた。高耶がその対応に恐縮する方がおかしいような気さえしてくる。

「有り難いですが……最近は、免許を取ろうか迷っています」

高耶としては、それこそ、連盟の管理する扉によって大抵の所には行けるため、必要性を感じていなかった。

そもそも、高耶は仕事でしか出掛けなかったのだ。その場合、扉が使える。よって、不便さを感じたことがなかったというわけだ。

最寄りの場所から何キロか距離があったとしても、そこまでの道中を歩くのが普通だった。問題となる場所の周りも視ながら移動することも大事なこと。何より、高耶には長距離を歩くことが苦にならない。

寧ろ、歩くのは好きな方だ。だからこそ、車やバイクの免許を取ろうと考える事もなく生きてきたというわけだ。

この考えに、伊調と神楽部隊の女性だけでなく、俊哉までも反応した。

「「それは必要ないですよ」」
「高耶には必要ないっ」
「え……」

俊哉が続けた。

「俺が免許取るから、高耶は要らん。車が必要な時は、俺が送り迎えしてやる!」
「……」

これは喜べば良いのか反応に困る。

「あらあら」
「御当主には良い友人がいらっしゃるようですね」

年長の二人は呑気なものだ。

微妙な表情をする高耶の心情が分かったのではないだろうが、今の高耶の思いを言葉にしたのは、満と嶺だった。

「俊哉……それ、女に言ったら満点……とまではいなくても、高得点出たかも」
「俊哉。ここに腐った女子居たらヤバかったぞ。旅館で言わんくて良かったな」
「ん? え? なんで? いや、今高耶に言わないと、免許取っちゃうじゃん。そうなると、俺も優希ちゃんも困るし」

俊哉は本気らしい。

「なんで俊哉が困るの?」

武雄が心底不思議そうに尋ねた。

因みにこの会話を、伊調達は微笑ましそうに聞いている。

「だって、ただでさえ高耶は仕事で時間取れねえんだもん。コレに車校に通う時間も入れられたら、ほぼ会えなくなるじゃん」
「……確かに……」

高耶は納得した。

「だろ!? だから、高耶は免許取らんくて良い。ってか、そういえば、船とかセスナの操縦が出来るって聞いたけど、あれマジ?」
「誰に聞いた……」
「エルさん」

エルラントとも、俊哉は普通に話しをする仲だ。高耶は今更ながらに、俊哉の社交性の高さに驚く。

「……緊急時用に、ちょっと教わっただけだ……免許はない」

舞踏会でのダンスもそうだが、エルラントは高耶に色々と教えてくれている。余裕のある経験豊富な大人とは、有り難い存在だ。

「でも出来るんだ? ずりぃ」
「だから、緊急時用だ」
「エルさんとはそうやって遊んでたんだろ? ずりぃよっ。俺も一緒に遊びたかった!」
「……」

そっちかと高耶は小さくため息を吐いた。俊哉は本当にブレない。








**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

Re:D.A.Y.S.

結月亜仁
ファンタジー
足音、車のエンジン音、カラスの鳴き声。草の匂い、魚の焼けた匂い、香水の香り。 体を包む熱、服がこすれ合う感触、肌を撫でる風。電柱を照り付ける夕日、長く伸びた影、 闇に染まっていく空。そのすべてが調和したこの平凡な世界に、自分という人間は存在する。 今日も何事も無く、家へ帰り、風呂に入って、飯を食べて、寝るのだろう。 それは、もう決まりきったことだ。だから、今日という日が何か特別な意味を持っているというわけではない。たぶん明日だって、明後日だって、一か月後だって、一年後、三年後だって、自分を取り囲む環境や状況は変わったとしても、本質は変わることは無いと思う。それが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。ただ、この世界が、そういう風に出来ているだけのことだ。そんなこと、当たり前で、何気ない普通の出来事だと、そう思っていた。 はずだった。 気が付くと、そこは森の中。何故か記憶喪失となって目覚めたユウトは、どこか見覚えのある仲間と共に、自分は剣士として行動していた。わけも分からず付いて行くと、未知の化物と遭遇し、ユウトたちは危機に瀕してしまう。なんとか切り抜けることができたものの、ユウトは気を失ってしまった。 次に目が覚めた時は、いつもの教室。何事も無く笑い合う仲間を前に、ユウトは違和感を覚えるが…? それは、これから始まる物語の、序章にすぎなかった。 これは、二つの世界が交錯する、たった一人の少女を救うための異世界ファンタジー。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...