探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第2章 見習い冒険者

2-18 我儘

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 俺はソルトと別れた後に昼飯を食べて再度仕事に戻り依頼をこなした。あの後は特に何も起こなかった為に単純労働を行っていると日が沈み始めたので俺は井戸水で道具の清掃を行い騎士達に返却を行い自宅に帰った。

(父ちゃん達はまだ帰ってきていないのか…。2人が帰ってくるまで何しておくかなぁ…。)

 俺は自宅がまだ暗く誰もいない事で両親が帰ってきていない事に気が付いた。俺はする事がなく日課の魔力操作でもしようと考えていると服の袖の端に泥が付いている事に気がついた。

(あっ!そうだ。今のうちに服を洗濯して、風呂に入っておくかなぁ。袖の泥を見るともしかして俺臭っているかも知んないし。日課はその後で良いや。)

 俺は泥のついた服を脱いでから自室から着替えを持ち浴室に向かい服を洗濯した。俺の家では服を洗う時や身体を洗う時は少し高価な代物だが石鹸を使うようにしている。石鹸は縦20cm横10cm厚さ5cm位の大きさで1つ500ロブもする。日本円にしておよそ5,000円だが、これでも安い方で貴族とかが購入する石鹸は10倍以上する物もある。俺が身体と服を洗い終えて服を部屋干しして食事部屋に移動していると両親の帰ってくる声が聞こえた。

「ただいまー!」

 父は大きな声で元気よく帰宅の挨拶をする。

「ただいまーリオ、帰っているー?」

 母は家に灯りが付いているのに食事部屋に俺がいない事を不審がっているのか俺を探すような素振りをしていた。

「おかえり、しっかり帰ってきているよー。父ちゃん、母ちゃん。」

 俺は心配して俺を探している母に見えるように大きく手を振ると母も安心したように笑い手を振り返した。

「ごめんな、リオ、待たせちまって。」

 父は右手に買ってきた夕飯のおかずを持ち、左目を瞑り左手を顔の前まで上げた。

「大丈夫だよ。俺、今日から行う依頼で服とか身体が臭くなったから先に水浴びして、服を洗っていた所だからそんなに待った気がしないから気にしないで。」

 俺は謝る父に両親が帰ってくるまでに行っていた事を説明する。

「あぁ、そう言えば側溝掃除だったわね。他の人に迷惑かけなかった?」

 母は俺の説明に依頼内容を思い出し、俺が依頼中にトラブルを起こしていないか心配そうに聞いた。

「それも大丈夫だよ。特に問題らしい事は起きていないし、騎士さん達も頑張れーって応援してくれたよ。」

 俺は腰に手を当てて胸を張りドヤ顔で母に問題なかった事を伝えた。

「うふふ、それなら良かったわ。でもリオ、もし何かあれば直ぐに私達に言いなさいね。貴方は見習いとは言えまだまだ子供なんだから。」

 母は俺のドヤ顔を見ると口元に右手を当てて笑いつつも俺の目線に合うようにしゃがみ込み左手で俺の頭を撫でた。

「そうだぞーリオ。子供のやらかした事の責任を取るのは両親であり、見習い冒険者の保証人の俺らの役目だから下手な気遣いなんてすんなよ。分かったか?」

 父も笑顔から真面目な表情に戻し、母の右隣に立つと膝を曲げて母と変わるように俺の頭を撫でた。

「うん、ありがとう。父ちゃん、母ちゃん。」

 俺は2人の愛情に気恥ずかしくなり2人から目線を外し右手人差し指で頬をかいた。

「それじゃあ、飯の準備をするか。リオ、手伝ってくれるか?」

 父は曲げていた膝を伸ばすと"パチンッ"と胸の前で手を鳴らし俺に視線を向けて質問した。

「うん、父ちゃん、任せて!」

 俺は父の質問に視線を合わせて元気よく返事を行う。

「母ちゃんは先に水浴びして来いよ。その間に俺とリオが汁物とか野菜を準備しとくからさ。なぁリオ?」

 父は母の方を向くと先にシャワーを浴びてくるように促すと再び俺の方を向き同意を求めた。

「そうだよ!母ちゃん、いってらっしゃい。」

 俺は父の意見に同意して浴室でゆっくりしてくるように手を振った。

「ありがとうね、2人とも。その好意に甘えて、そうさせて貰うわ。」

 母は口元に右手を添えて笑うと浴室に向かいシャワーを浴びに向かった。その間に俺と父は夕飯の準備を行う。父は俺が包丁で野菜を切るのを見守り、俺が切り終えるとそれを鍋で炒めたりして汁物を作っていく。そうしているとシャワーを浴び終えた母が戻ってきて交代するように今度は父が浴室に向かった。父が戻ってくる頃には夕飯の準備が出来上がり、全員揃って食卓を囲んだ。

「リオ、2回目の依頼だけど、しっかりとやれそうか?」

 父は夕飯を食べながら同じように食べている俺に向かって依頼の手応えについて質問した。

「うん、まぁ、今日やってみて俺があの臭いに我慢が出来たからやれると思うよ。」

 俺は父の質問に共用汚物所や側溝の臭さを思い出し苦笑いしながら質問に答えた。

「ねぇ、リオ。今日どんな事があったか小さい事でも良いの。アタシ達に聞かせてくれないかしら?」

 母は俺と父の会話に頬を緩めると今日の出来事について質問した。

「今日ね~あっ!そうだ。父ちゃん、母ちゃん相談したいことがあるんだけど聞いても良い?」

 俺は母の質問に視線を上に外し何かあったかを思い出す素振りをした。その時に丁度忘れかけていた昼間の獣魔ギルド所属について両親に相談する事にした。

「何かしら?リオ。言ってみてちょうだい。」

「今日ね、依頼の途中に共用汚物所を清掃する従魔士のソルトさんって男の人に会ったんだ。」

「ほぉ、従魔士にかぁ~。」

 父は俺が従魔士ソルトの話をすると右手で顎下を添えるように持ち感心する様に頷いた。

「うん、それでソルトさんに獣魔ギルドの後継者制度って言う見習い冒険者みたいに獣魔ギルドに所属しないかって勧誘されたんだ。」

「ほぉほぉ、それで?」

「それで、俺、獣魔ギルドにも興味あるからソルトさんの勧誘を受けたいんだけど…。その~駄目…かな?」

 俺は父との会話にイマイチ良い感触が無かったことに不安を覚え、右手で頭をかきながらチラ見して所属の許可を聞いた。

「いいや、駄目って事はないさ。我儘を言わない息子の数少ない頼み事だし。なぁ、母ちゃん?」

 父は"フッ"っと一笑すると嬉しそうな笑みを浮かべ隣にいる母に視線を向けた。

「えぇ、勿論よ。」

 母は父と笑い合い二つ返事で俺の獣魔ギルドの所属を許可した。

「本当っ!?ありがとう!父ちゃん、母ちゃん!」

 俺は思わず椅子から立ち上がり机に両手をつけて前のめりになった。

「でもリオ、よく聞いて。獣魔ギルドに見習いでも所属するっていう事はリオも動物や魔物のお世話をするって事よ。もし、リオが途中で投げ出してもアタシ達は知らないからしっかりと責任を持ちなさいよ。良いわね?リオ。」

 母は嬉しそうな表情を浮かべた後に、右人差し指を立てると真面目な表情になり動物や魔物を飼育することの責任について説明した。

「うん、分かったよ母ちゃん。俺はどんな時でも動物や魔物のお世話を投げ出さずに責任を持ってお世話するよ。」

 俺は椅子に座り母の言葉を噛み締める様に復唱しながら母と目を合わせる。

「えぇ、応援しているわリオ。」

 母は安心したのか真面目な表情をを緩めて笑みを浮かべる。

「そうだぞ、リオ。あっそれと一応そのソルトって従魔士と会って話をしたいから伝言を頼めるか?リオ。」

 父は母と同じように笑みを浮かべると突然思い出したかのようにソルトとの話し合いを求めた。

「うん、ソルトさんも必要なら父ちゃん達と話し合いの予定を組むって言っていたし、大丈夫だよ。」

「そうかぁ。分かった。取り敢えず五日後まで予定が埋まっているからそれ以降に冒険者ギルドに伝言を頼むって伝えてくれないか?」

「うん、伝えておくよ。それとこの話をラート君達にも話してきても良いかな?」

 俺は父の伝言を受けて、ソルトの頼み事でもある幼馴染達に話しても大丈夫かどうか両親の意見を聞いた。

「うん?まぁ良いんじゃねぇか?それで子供達が獣魔ギルドに所属するかどうかはガルダやストール達の問題だし。なんなら明日ガルダ達に事前に伝えておけば良いしな。」

「アリスも獣魔ギルドに所属だけしているって言っていたから大丈夫じゃ無いかしら?」

「分かった。ありがとう、父ちゃん、母ちゃん。あっそれと2人って冒険者ギルドの他にギルドって入っていたりするの?」

「うん?俺は傭兵ギルドと鍛治ギルド、商人ギルドだな。母ちゃんは?」

「アタシはアンタと同じ傭兵ギルドと商人ギルド、それ以外に薬師ギルドだわ。」

「そっかぁー。複数のギルドに所属ってみんなやっている事なんだね。俺はてっきりギルドって1人1つのギルドしか所属出来ないと思っていたから、ソルトさんに勧誘された時にも思ったけど…なんか意外だなぁ。」

「まぁ聞いた話によると数百年前は冒険者ギルドと商人ギルドの2つだけだったらしいくて、色々と問題があったらしいから細かく分けたみたいだぞ。冒険者ギルドは今以上に便利屋みたいな認識だったからギルド職員も仕事の幅が広すぎて手が回らない事が理由だそうだ。」

「そうなんだー。」

 俺は父の雑学を聞きながら夕飯を口にした。夕飯を終えると全員で片付けを行い母が食器を洗い、俺が布で拭き取り、父が棚に片付けると役割分担で行いその日は日課をして就寝した。
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