探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第2章 見習い冒険者

2-14 シュトレイン

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「いや~、遅くなってしまった。はははっ。えーっと、そこの兵士さん、私の依頼を受けてくれる冒険者はどちらにいるか知らないか?」

 俺は門の近くから野太い声が聞こえた為に顔を向けて確かめる。明らかに文官では無く、武官だと思う丸坊主で長身の青年が近くの門番に聞いていた。

「はっ!シュトレイン様。左手に見える子供がそうでございます。お~い!そこの坊主!」

 白髪のツーブロックの髪型をした門番はシュトレインに敬意を示しつつ、俺の方を見て大声を出し右手で"こっちに来い"と手を動かした。

「(フリフリッ)えっ俺?…俺っ!?」

 俺はシュトレインと呼ばれた青年を二度見し呆然としていた。何故なら環境省のトップって聞いていたから文化系の部活をやっていそうなスラっとした細身かそう言う雰囲気をした人だと思っていたからだ。その為に最初は勘違いだと周囲を確認するが俺の様な子供はおらず思わず驚愕した。

「そうだ!そこの茶髪の短髪の子供の君。シュトレイン様が来られたからこっちに来なさい。」

 俺が人差し指を自分に向けて固まっていると白髪の門番は肯定して更に手を動かし移動を促した。

「あ!は~い!ただ今そちらに向かいま~す!」

 俺は二度も門番に来る様に言われたので急いで立ち上がり彼らの元に向かった。

「では、シュトレイン様、私はこれで。」

 白髪の門番は俺が彼らの元に辿り着く事を確認してシュトレインに視線を向け角度30°の一礼をする。

「ご苦労。業務に戻ってくれ。」

 シュトレインは門番の一礼に威厳ある態度で右手を上げて門番を労う。

「はっ!失礼いたします。」

 白髪の門番は赤髪の門番と違い左腕を曲げて、左手を右胸の前で握り、右腕はピンっ!と伸ばし返事を行なった。

(へぇ~あれがこの国の兵士の敬礼なのかぁ~。)

 俺は白髪の門番が見せる初めて見る光景に関心を示し少しだけ白髪の門番がカッコ良く見えた。

「やぁ。君が溝掃除をしてくれる冒険者だね?私は環境省長官のシュトレインだ。宜しく頼むよ。」

 シュトレインは俺を見て笑みを浮かべながら自己紹介を行いお辞儀では無く右手で握手を求めてきた。

「はい!挨拶が遅れました!ぼ、私は見習い冒険者のフィデリオです。シュトレイン様、宜しくお願いします!」

 俺は前世と今世を合計しても初めて見る官僚にさっきまで忘れていた不安や緊張感が高まった。俺はシュトレインの右手に両手で握りながら前世の最敬礼を行い対応する。

「はははっ。取って食ったりしないからそう緊張しなくても良い…って言っても無理か…。まぁ、それにしてもフィデリオ君は、小さいな…。」

 俺の緊張でガチガチな態度に笑って緊張の空気を柔らかくするシュトレインは唐突に俺をじっと見て呟く。

「小さい…ですか?」

 俺はシュトレインの呟いた言葉の意図が理解できずオウム返しで質問する。

「あぁ、すまない。フィデリオ君、少し君のギルドカードを確認したいから借りて良いか?」

 シュトレインは少し眉間に皺を寄せて俺のギルドカードの提示を要求する。

「あ、はい。こちらです。」

 俺は自分でもこんな子供が来たら確認したくなる気持ちもわからなくも無いので素直に提示した。

「あぁ、ありがとう。…ふむ、なるほど。確認した、カードを返すよ。」

 シュトレインは俺のギルドカードを一通り確認すると眉間に寄っていたシワが戻った。

「えーっと、ぼ、私はお仕事受けられないのでしょうか?」

 俺はギルドカードの提示が面接だと思った。そして中身を魔法特化にしていた事を思い出し面接に落ちたのでは無いかと不安に思った。

「ん?あぁいや、見習い冒険者の小さい子供が来たから失礼だけど少し不安に思ってな…。この依頼は体力をとても使い、異臭もするから途中で投げ出さないか心配だったのだ。すまないな。」

 シュトレインは不安そうな俺の表情に右手で頭をかきながら困った表情で言った。

「た、確かに…。ぼ、私の様な子供で務まるか不安になりますよね。」

 俺は別に依頼主を困らせたい訳では無いのでシュトレインの言葉に同意の意思を示した。

「その通りだ。そしてその為にギルドカードで確認したのだがしっかりと鍛えられている。それにカードに記載されていないが、よく見れば歳の割に身体を良く鍛えられている。フィデリオ君、此方こそ、是非宜しく頼むよ。」

「はい!ぼ、私も宜しくお願いします!」

 俺はシュトレインに不安が無くなったのか改めて仕事を頼まれる。

「では早速だが、依頼の話をしよう。その前にフィデリオ君。無理に言葉遣いを丁寧にしようとしなくて良い。面倒だから自然な話し方にしてくれ。」

「はい。お気遣いありがとうございます。そうさせて頂きます!」

 俺はシュトレインに自然に話す様に言われたが、俺は丁寧で無理なく失礼のない程度に話すことにした。

「あぁ、そうすると良い。では、早速依頼なのだが、フィデリオ君には城門前と大通りの側溝掃除を行ってもらう。スコップと荷台は城門前番兵所に用意したから使い終えたら汚れを落としてから返却する様に。報酬は出来高制で100m毎に2,000ロブ支払い、最終日は10m毎に支払おう。支払いに関しては環境省の者が逐一確認するので安心してくれ。溜まった泥やゴミは共用汚物所に持っていってくれ。何か質問はあるか?」

 シュトレインは掃除をする場所を指差しながら一気に依頼内容の確認と説明をする。

「では一つだけ良いですか?」

「何かな?」

「側溝の掃除の際に溜まった泥やゴミが固まっていて取れないと判断した時に魔法を使って柔らかくしたいのですが、魔法は使っても良いですか?」

前回の草刈りで注意された反省点である事前に魔法の使用が可能かを聞くことにした。

「構わない。何だったら共用井戸から水を引っ張って来るのも良いだろう。その場合は桶を追加で支給するので門番に言ってくれ。また、城門前の側溝は物質自体に付加魔法の抗魔化されているので上級魔法でもない限り傷一つ付けることは出来ない。大通りの側溝も迷宮産の土石を原材料に使っているので中級魔法数発程度は耐えられる。周りに迷惑がかからない程度に使うと良い。」

 シュトレインは笑みは無く淡々と懇切丁寧に俺の質問に答えていく。俺はシュトレインの説明を聞いて流石迷宮王国だと感心し、シュトレインの仕事の姿勢に少しずつ気持ちを引き締めていった。

「分かりました。では仕事の際は城門前に来て門番さんに伝えれば良いですか?」

「ああ、責任者には私から君のことを伝えておこう。仕事の際にはギルドカードを持ってきてくれ。お互いに仕事が滞りなく進むからな。」

 俺はシュトレインに表情はないが冷たい印象はなく、むしろ俺を気を遣ってくれているとても優しい人だと思った。

「では明日からよろしくお願いします、シュトレインさん。」

 俺は再度シュトレインに最敬礼を行い挨拶を行う。

「こちらこそ宜しく頼むよ、フィデリオ君。では私はこれで失礼するよ。」

 俺の一礼に対してシュトレインは軽く右手を上げて挨拶し足早く戻った。やはり立場に見合うほど忙しい様だ。

「はい、此方こそお忙しい中僕の為にお時間作って頂きありがとうございました!」

 俺は再三最敬礼を行いながら時間を作って説明に来てくれたシュトレインに向けて挨拶を行う。一礼後に俺は明日の仕事の為に側溝の泥やゴミなどの状況と共用汚物所までの最短ルート並びに他の飲食店などが少ない道の捜索をした。途中遅めの昼食に果物屋に寄りリゴンを1つ購入し皮ごと芯と種まで食べた。今日探した最短ルートが裏道なら良いが、飲食店や食べ物屋が多い大通りの道なら何かの拍子に賠償請求されてもおかしくないからだ。俺は取り敢えず今日は明日の準備を行うことにした。
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