探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第2章 見習い冒険者

2-4 初依頼

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「ありがとな、アスラン。俺らの子供達の為に損な役回りをしてくれてな。」

 父はアスランに視線を向けてニカッと笑い感謝を述べた。

「そうにゃ、ありがとにゃ、アスラン。」

 父に続く様にストールはラートを背後から軽く抱き締めながらニィッ深みのある笑顔でアスランに感謝をした。

「アモンさん…ストールさん…。いいえ、私がしたいからやっているだけですよ。私は…彼らが情報の大切さを学んでくれたら、それだけで満足なんです。だから…大丈夫ですよ。」

 アスランは右頬をかきながら、何かを思い出しながら照れているような、後悔しているような表情をして途中途中言葉を詰まらせながら言った。

(昔きっと情報収集の際に何かあったのかなぁ。)

 俺は感謝しようと前に出ようとするとラートやナート、シルル、メルル達も前に出る。どうやら考えている事はみんな同じだったようだった。

「アスランさん!」

「ん?皆さんどうかし…」

「「「ありがとうございました!」」」

「「ありがとうございましたにゃ!」」

「っ!?ふふふ。いいえ、皆さんの活躍を応援していますよ。」

 俺達は感謝の言葉を告げてアスランさんは応援してくれた。

「(パンッ)さて~貴方達の登録も終わったことですし~早速何か依頼を受けてみたら~如何かな~。」

 アリスは胸元で手を叩き、俺達に初依頼に行く事を勧めた。

「父ちゃん!母ちゃん!俺、依頼受けてくるね!」

 俺はアリスの言葉がなかったら自分から言う予定だったので、言いやすい空気になるのはとても都合が良く感じた。

「おう!無理すんなよ!」

「夕飯までには帰ってくるのよ。気をつけていってらっしゃい。」

「父ちゃんも母ちゃんも迷宮探索頑張ってね!」

 俺に続くように幼馴染達も依頼を受けるようだ。そして両親達とはここで別れた。両親達もこれから迷宮に行く見たいだった。

「では、皆さん改めて本日はどんな依頼を受けますか?」

「う~ん?それじゃ、俺はこれにします。」

 俺は雑用の依頼から草刈りの依頼にした。

「フィデリオ君はイシュリナ神殿の草刈りで報酬額は700ロブですね。受領しました。それではこちらの依頼用の割符を持ってイシュリナ神殿に向かって下さい。依頼を達成しましたら依頼人のジェルマー司祭から残りの割符をもらってきて下さい。この割符は魔道具ですので無くさない様にして下さい。何か質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です。」

「では、フィデリオ君初仕事頑張って下さいね。では次の方どうぞ!」

 俺は魔道具の割符を持ち依頼人であるイシュリナ神殿のジェルマー司祭の元に行った。イシュリナ神殿の場所はギルド本部から東にあり神殿通りを徒歩でおよそ25分程度、おそらく2~3kmくらい離れたところにある。ギルド本部は大体王都の中心にあるためギルドの入り口を出て右の大通りを真っ直ぐ進んだところにあった。

 俺は神殿に到着すると先ずは依頼人であるジェルマー司祭を探すことにした。神殿の扉を開けるとそこには修道士や修道女達がお祈りをしていたり、聖典を読んでいたりしていた。

 俺は渋めな中年修道士に声を掛けて居場所を聞いてみた。一応修道士や修道女には若く美形な人達も居たのだがこっちに転生して3年で学んだ事は美形な人ほど、性格がキツイ傾向が前世よりも顕著に表れている事だ。

(正直言ってミンク婆ちゃんのアルバイト中に美女、美少女に挨拶しても顔を見てから無視される事が結構あったし、"女性だけだろ"って思っていたら美男子にも似た扱いを受けていた。故に顔の造形が美形な人に関わるのは偏見だけど面倒なのだ。)

「おじさん、こんにちは。」

「こんにちは。おや?どうかされましたか?」

「実は…僕はジェルマー司祭さんからの依頼で草刈りをしにきた見習い冒険者のフィデリオと言います。ジェルマー司祭さんはどこにいらっしゃるか教えてもらえませんか?」

「そうでしたか。わかりました。ではギルドの割符と依頼書を確認したいので渡してもらえないでしょうか?」

「分かりました。ご確認をお願いします。」

 俺は肩掛けの荷物入れから魔道具と聞いている割符を渡した。

「確認しました。それでは案内しますので此方にどうぞ」

 修道士はそれを受け取り懐から残りの割符を取り出し合わせた。

「えーっと、その前に、あなたが依頼主のジェルマー司祭さんですか?お名前を聞いても良いですか?」

 俺は修道士がそのまま歩こうとしていたので、俺の依頼主である司祭さんかどうか聞いてみた。

「おっと、これは失礼をしました。私はイシュリナ神殿で修道士をしているベルボと申します。ジェルマー司祭様はとてもお忙しい身故にこの様な雑用の依頼の代理を行っておりますので、その際はよろしくお願いします。フィデリオさん。」

「はい。ベルボさん、此方こそよろしくお願いします。」

「ええ、よろしくお願いします。それでは改めてご案内しますね。付いてきて下さい。」

 ベルボさんはイシュリナ神殿の裏口扉から目的の草刈り場所まで案内した。

「あの~、ベルボさん。質問なんですけど、さっき神殿の孤児院が見えました。何で俺じゃなくて神殿の子供達に頼まなかったんですか?」

 俺は案内の途中に見えた孤児院を見て、疑問に思いつい質問してしまった。

「そうですね…。本来でしたら、私達が運営している孤児院で草刈りを行なう予定でした。しかし、今年は特に昼と夜の寒暖差が激しく夏風邪を引いてしまった子供達が多くてその看病などに手を回しました。その結果、例年ではできていた草刈りが今年は出来なかったのです。それではフィデリオさん、どうかよろしくお願いします。」

 ベルボさんは苦笑し少し恥ずかしそうで困ったような顔をして答えた。

「分かりました。それではもし終わったらベルボさんに連絡をすれば良いですか?」

「ええ、そうして下さい。草刈りの範囲は神殿の裏側のみでよろしいです。」

 この神殿は大体100m×100m程の広さで3階建の広い建物なので草刈り範囲もおよそ2m×100mあり思った以上に広かった。俺は地道に一人でやると日を跨ぐ可能性があるので裏技を使うことにした。

「"我願う。水よ、大地を濡らせ"」

「"我願う。土よ、盛り上がれ"」

 俺の言う裏技というのは魔法技能である。一応これは魔法ではない。魔法とは定義としては下級魔法以上のことを言うらしく最下級魔法に分類されるこれは属性魔力放出と呼ばれる。その為にこれは、魔法を行うための魔法技能に該当する。

 ちなみに祖父のキースが言うには魔語を使った魔法詠唱の基本構成は「"意思表示。属性指定、状態、魔令(魔力に命令する事)、魔法名"」で放つ。

 例えば「我願う。火よ、火球となり、放たれよ、ファイアボール」これで魔法の等級が上がれば上がるほど込める魔力量や細かい詠唱、魔法発動時のリスクが上がるなど様々だった。

 俺の水と土の魔法技能は自身の魔力を1消費する事で放出地点から半径1mの範囲で事象改変が起こる。具体的に今回の場合では、まず右手で行った水属性魔力放出で半径1m円状の範囲の固くなった大地を柔らかくして、左手円状の範囲の土を10cm程度盛り上げた。

 俺は最初凄く地味って思ったが慣れて行くうちに最下級魔法なんてこんなだと思いはじめた。仮に込める魔力を10にしたとしても水属性魔力放出は半径1m円状の土を水っぽい泥にするだけで、土属性魔力放出は土を1mの高さまで盛り上がる位である。比較対象として土属性下級魔法のアースウォールは消費魔力10で1mの高さもある木剣では傷つかない壁を作り出せる。

(まぁ、こんなものでも俺はとても興奮した。だってようやく魔法使いになれたと言う実感が出てきたからだ。)

 俺は取り敢えず魔力201ある内の200を消費して草刈りしやすくした。休憩しながら焦らず丁寧にやったので終わったのは開始から4時間くらいだった。
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