探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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間章 修業と交流

幼少期の修業・魔法編2-5

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「さぁ、難しいお話はこれで終わりだよ。これから魔法の実技を始めたいんだけど、一旦休憩を挟むかい?どうする?リオ君。」

 祖父は胸の前で両手を一回パチンッと叩くと両膝を少し曲げて俺に休憩か続行するかを問いかけた。

「大師匠!俺はまだまだやれるから、早く魔法の修業をしたいんだ!お願いします!」

「うふふ。リオ、そんなに焦らないの。父さん、リオもそう言っているから続けてあげて。」

「うん、了解したよ。アーシャ、リオ君。それじゃあこれから魔法の実技を行うよ。」

「お願いします!大師匠、師匠!」

「先ずは魔力操作で片手にナドを集中させてみるんだよ。ナドは一点に収束させようとすると身体に負担をかけない様に分散しようとする性質があるからそれを押し留める様に操作するんだよ。」

「分かった!す~は~っ。ふんっ。ぬぬぬっ。…。」

 俺は右手の平を胸の前に突き出し深呼吸の後に目を瞑りナドの流れを操作した。お腹から放出されているナドは胸や頭を過ぎて右肩から二の腕、肘、右手に横渦を作る様に集中していった。

 しかし、ナドは少しずつ溜まっていくと次第に横渦の回転速度が速くなり収束するナドが少しずつ痛みと共に体外に放出されていった。

「痛っ!はぁーっ。はぁーっ。大師匠、師匠…。上手く出来ねぇよ。なんかコツって無いの?」

 俺は右手の平の中心に細い針で刺された様な痛みを感じ思わず魔力操作を解除する。ナドは俺の深い呼吸と共に右手の平から前後左右に分散する。

「うん?リオ君はしっかりと出来ていたよ。今リオ君がやろうとしていたのは下級魔法を使う為の魔力操作だよ。だから今出来なくても仕方ないしこれだけ出来れば上々だよ。」

「そうよ、リオ。初めてにしてはよく出来ていたわ。そんなに落ち込まないでね。」

「んじゃあ、なんで途中で止めてくれなかったの?」

「いや~、あんまりよく出来ていたからリオ君の限界はどこまでか知りたくなったんだよ。ごめんね。」

「そうなんだぁ。んじゃあ、いっか。それでこの後どうすれば良いの?大師匠、師匠。」

「うん、右手に収束したナドを放出したい方向に手の平を向けて前に押し出すんだよ。コツはゆっくり丁寧にじゃなくて、雑でも良いから思いっきり押し出すんだよ。」

「うん、分かった。す~は~。ふんっ。…。これでよしっと。これを前に突き出す感じに思いっきり押し出す…。ハァッ!」

 俺は祖父の助言を聞き肩幅に足を開き再度右手の平を前に出してナドを集中して操作する。ある程度の横渦感を感じ痛みが感じない程度に維持しながら右足を後ろに引いて右手を顔の横に位置づけ突き出す構えを取った。

 俺の中でナドを押し出すイメージは注射やところてんの押し出し機がパッと浮かんだ。その為に自分の腕を筒だと思いながら勢いよく右手と右足を同時に前に突き出した。右肩から腕を通り放出されたナドはまるで痛みも無い出血をした感じで腕に流れる様な若干の不快感を与えながら放出された。

「なんっ!?うおっ!?くっ!」

 右手の平から勢い良く放たれたナドはまるでスプレーをしているみたいに前に放たれているものの真っ直ぐに放たれず50cm位まで縦、横、斜めにクネクネと進んで行った。

 その間の右腕は魔力放出の勢いに押されているのかまっすぐ前に向けていたはずが、上下左右に激しくブレる。俺はなんとか腕がブレないように左手で右腕を押さえるが出来たのはブレを最小限にすることだけだった。

「はぁーっ!はぁーっ!はぁーっ!きっつ。」

 俺は魔力放出を止めると両手を両膝について息を整えた。俺は初めて行う魔力放出に驚きもあったが、それ以上に確かな疲労を感じ知らず知らずに背中と頭が汗ばんでいた。

(魔力放出をやってみた感想だけどかなりきついな。集中力もあるけど寝起き1番の背伸びをずっとやった状態で痛みのない出血をしているみたいだ。まぁ、血じゃなくてナドなんだけど。でもそれ以上にまさかあれほど右腕がブレるとは思っていなかったなぁ。あれは注射じゃ無くて消火ポンプの方が近いかも知れない。身体鍛えていて良かったぁ。)

「リオ君、お疲れ様。魔力放出はどうだった?」

「正直に舐めてたしとても疲れた。後想像以上に右腕が上下左右に揺れ動いてそれを抑えるのに苦労したよ。」

「うん、その感覚は覚えているんだよ。魔法使いは魔法の修業だけをやっているとさっき以上に制御出来なくなるんだ。だから、本来なら魔法使いは放つ魔法に見合う体作りをする必要があるんだよ。まぁ魔力操作でも制御ができなくは無いけど、その場合反動無しで魔法を放てるのは大体3段階下の魔法が限度なんだよ。」

 祖父は俺に魔力制御の為の身体作りについて真剣な表情で説明する。俺はさっき感じた実体験と祖父の説明に前世の動画サイトで見た実弾の発泡の映像が頭をよぎった。

(そりゃそうだよなぁ。何も鍛えていない奴が片手で拳銃を撃った衝撃で身体を大きく仰け反るとかあったし、魔法もそんな感じなんだろうなぁ。)

「そうよ、リオ。一応補助具として魔法専用の杖があるけどあまりお勧めしないわ。一般的な性能は反動無しで放てるのは2段階下までよ。また、魔杖でも1段階下が限度だけど杖本体の耐久値が低いのよ。」

「耐久値?」

「ええ、そうよ。私達魔法使いも敵に接近されれば魔法以外の手段で戦う場面は結構あるわ。その時に反動軽減を重視した軽い杖だと直ぐに折られるわ。でも魔法発動速度を重視した重い杖だと耐久値も高いから簡単には折られず反撃も可能だわ。」

「軽い杖と重い杖の違いって材質か何かなの?」

「ええ、そうよ。魔法学園で使われている様な一般的な軽い杖は鉄に魔銀を合わせた合金を1m状の杖にしたもので大体5kgないくらいを呼ぶのよ。貴族家庭で手に入れられる魔杖は魔銀のみで作っていても10kgも無いわ。逆に重い杖は元から槍や棒としても使う事を想定しているから軽くても魔鉄と魔銀の合金を2m状の杖にしたもので大体30kgくらいを呼ぶわ。」

(そう言えば、今更感が強いけどこの世界の単位って前世と同じなんだよなぁ。グラム、メートル、リットル。聞けば聞くほど変な世界だ。とてもじゃないがチグハグしている。今世って異世界だと思っているけどそう思っているのは果たして俺だけか?それか俺以外にも過去に異世界転生者がなんかした末の結果なのか?謎は深まるばかりだ。)

 俺は母の魔法の杖について説明を受けている頭の片隅でこの世界の歪さについて考えていた。"普通の"と言うとまるで他の異世界を知っていると思われるが、そこは俺の価値観故なので一旦置いておく。

 仮に本当にこの世界が前世とは違う異世界ならあらゆる単位が前世と異なるのが当たり前である。言語や歴史が違うのだからそうなる方が寧ろ自然な流れだ。

 しかし、言語は日本語のカタカナが共通語、古代語に英語、お金の単位のみ前世では聞いた事がない単位で他の単位は同じである。俺は、正直にこの世界の歴史についてはほとんど知らないのでなんとも言えないが、世界のあり方に不気味さを感じた。

「リオ君。私が魔法学園の教授を断った理由はこの辺りにもあるんだよ。学園側は軽い杖を使い、体を鍛えず強度と魔法技能のみを上げて魔法使いを量産する教育方針だったからだよ。要するに後衛しか出来ない魔法使い教育なんだよ。まぁ、学園の半数近くは貴族や商人だから仕方ないしどちらにしてもアリアの店がアローゼンにあるから行かなかったんだよ。でもこの教育方針じゃそもそも興味すら湧かなかったんだよ。さて、話がまた変なところに行ってしまってごめんね。」

 祖父の魔法使いの定義は敵に接近されても自らの肉体で切り抜ける前衛も出来る後衛であると分かった。その為に祖父のじっくりと鍛えたいと言う教育方針と学園側の手早く量産の教育方針と反りが合わなかった事も断った要因である事が分かった。

「いや、大丈夫だよ。大師匠、師匠。俺も他の国のことを知ることが出来たし面白かったから気にしないでよ。」

 俺は頭を左右に振りこの修業とは関係ない余計な思考をやめた。その後に俺は右手首を自身の顔の前で左右に振り笑顔で祖父に気にしていないことを伝えた。
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