探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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間章 修業と交流

幼少期の修業・魔法編1-5

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「うん、それじゃ、話の続きに戻るよ。まぁ、さっきの反応を見て分かるが、リオ君、魔法は安易に人に向けてはいけないって事だよ。では、魔法はどういう時に人に向けては撃つか分かるかい?リオ君。」

「わ、分かんないです…。」

 俺はさっきの楽しかった空気は何だったのか分からなかった。それほどの空気が凍り俺の身体を重くのしかかった。

「答えはね人を助ける為と人を殺す為だよ。では、リオ君この2つは食い違っていて、辻褄が合わないと思うけど、辻褄が合う状況は具体的に如何いう場面が考えられるかな?」

 祖父は決して凄む表情では無く、さっきと同じ様にまるでなんて事のない授業を行う様子に鳥肌が立つ程の寒気の様な圧力を感じた。

「助ける為と…こ、殺す為…。た、助けるのはっ!(パクッパクッ)さ、山賊とか…と、盗賊とかに友達が襲われた時に警告する為だと思います…。殺す時は…そ、それでも…襲い掛かって…来る時だと思う…。」

 俺は祖父の質問の意味を考えて言葉を詰まらせながら、最後は自信なく視線を下に下げて小さい声で言った。

「そうだね。きつい事を聞いてすまないね、リオ君。」

 俺は祖父が俺の頭を軽く撫でる為に祖父の顔を見ると笑顔ではなかったが優しい顔をしていた。

「よく頑張って言葉に出せたな。俺はリオを誇らしく思うぞ。よく頑張った。」

 右隣にいた父も右手で俺の右肩に抱き締める様にトンットンッと軽く叩きながら励ました。

「リオ君、きつい話ではあるが、これだけは良く覚えておきなさい。もし君が冒険者や旅人として世界各地を旅するなら君の考えた状況は割とよく起きているんだ。もし、その状況にあった時は…。」

 祖父は地面に片膝を当てて片膝立ちになり俺と目線を合わさると真剣な眼差しで静かに言う。

「(ゴクンッ)あった時は…?」

 俺はその空気に口の中の唾液を飲み込み予想されるであろう言葉を受け止める準備をする。

「先ずは逃げる事を考えなさい。」

「えっ…逃げる…事…?」

 祖父は相手を殺す事でも相手を威嚇することでも無く"その場から逃げる"と言う俺の予想だにしなかった言葉に驚愕し混乱する。

「そうだね。困惑するだろうね。でもね、自分の命を1番優先に考える事がとても重要だよ。魔物との戦闘でも言える事だけどね。自分自身と相手の力量の差を理解できない時や自分の身を自身で守れない時は戦わずに逃げる事が大事なんだ。」

「えっで、でもっ!…それじゃ…友達が…。」

 俺は体を震わせ、言葉が詰まりながら祖父に友達を見捨てられないと反抗する。

「いいか、リオ。確かに襲われた友達は手遅れになる事も勿論あるだろう。しかし、お前が逃げれば、相手は他にバレるのを恐れてリオを追う為に戦力を分散させるだろう。そうなれば、友達も逃走の機会が増えて逃げられるかも知れない。例え相手がリオを追わなかったとしても、逃げ切ってギルドや騎士に助けを求めればそれだけで助かる可能性があるんだ。」

 右隣にいた父も祖父と同じ様に片膝立ちになり俺と目線を合わせ俺を説得する。

「っ。…でも…俺、友達は…見捨てられねぇよ…。」

 俺は自分の実力を棚に上げてでも、仮にラート君達がそういう状況なら見捨てたくは無かった。唯の甘えかも知れない。子供の戯言かも知れない。しかし、それでも俺は体を震わせ泣きそうになるのを堪えて自分が出来る最大限の意地を張った。

「それならね、リオ君。躊躇わず相手の急所に攻撃して殺すしか無いよ。君が相手を殺すのを躊躇ったら、君の友達は殺されるからね。リオ君、相手を1人殺さず無力化しようとすれば友達3,4人を死なせる事を覚えて欲しいんだ。それくらい命をやり取りする状況下で相手を殺さないのはとんでも無く難しいんだ。分かるかい?リオ君。」

 祖父は意地を張る俺を困った様な嬉しそうな表情で諭す。

「…わ、分かんねぇよ…。そんなの…。」

 俺の意地は祖父の言葉に一瞬で折れそうになった。

「それじゃあ、もっと具体的に話すね。仮にリオ君の友達の子供達5人が国境に向かう為の道で山賊10人に襲われたとするよ。一人一人の戦闘能力は同じであると仮定しても襲われた時点で山賊の方が多い事は分かるね?この時に君は逃げずに友達を助ける為に戦うとする。」

「っ。(コクッ)……。」

 俺は唇を強く噛み言葉を離さずに頷き祖父の話に相槌をする。

「なんとかして君らは山賊を1人ずつ無力化して縄で拘束して3人の山賊を動けなく出来ました。しかし、拘束している隙に他の山賊7人が後ろから攻撃を仕掛けました。君達は何とか応戦したが、山賊は新たに5人の仲間を増援し、その5人は拘束された3人を解放して形成は逆転し抵抗した君達は身ぐるみを剥がされて殺されました。」

「えっ!?増援とか狡いよ!」

「うん、狡いかも知れないね。でもね、リオ君。そもそも国境前の道に討伐されていない山賊が10人しか居ない訳ないよ。国境前は多くの人が通るからね。戦争状態や魔物の大群でも無い限りそこを守る騎士が定期的に巡回し安全を確保するだろう。という事は君達が戦った山賊は10人以上いる大規模な山賊だったというわけさ。」

「でも、無理矢理すぎるよ…。爺ちゃん…。」

 俺は頭の中では理解はできた。しかし、俺の心情的には納得がいかず項垂れる。

「そうだね。でもね、そんな状況が無いとは言えないでしょ?」

「そりゃ…そうだけど…。」

「さっき、リオ君は増援した事に狡いって言っていたけどね、命のやり取りに狡いも卑怯も無いよ。相手は殺すつもりで襲っているんだ。勝たなかったら死ぬんだから使える手は使うのは当然だろ?」

 祖父は当たり前のことを言う様に真面目に言う。この辺りはやはり殺し合いを享受しなかった前世との価値観の違いなのだろう。

「そして、もし君が真っ先に逃げて国境前の騎士に助けを求めに行ったら少なくてもリオ君は助かるかも知れない。また、山賊も殺すよりも人身売買する為に友達を生かすかも知れない。その状態で多数の騎士や冒険者が山賊を討伐すれば友達も助かるかも知れない。所詮は可能性の話だけどね。それでもより高い可能性があるのであればそっちを行った方が良いに決まっている。」

 祖父は胸の前で両手を組んで何度も頷きながら話す。俺は祖父の正論を頭の中に思い浮かべて否定できず拳を握り下を向く。

「また、戦っていたとしても3人を殺しておけば6人対12人で、単純に戦力は倍で済んでいた。しかし、生かしておいたが故に6人対15人で戦力差は倍以上になるだろ?それは勝てる戦いも勝てないよ。分かったかい?リオ君。」

「うん…。分かった…。後…こんな話をさせてごめん…爺ちゃん…。」

「子供が気にする事はないよ、リオ君。私も辛いことを聞かせてすまんな。許してくれ。それとよく涙を流さず、投げ出さず話を聞いてくれたな。よく頑張った、リオ君。」

「うん。」

 俺は優しく微笑む祖父に頭を撫でられた。
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