探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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間章 修業と交流

幼少期の修業・身体編1-1

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 今日からウマのツキ・1日・ユウキのヒに変わり、外は朝だと言うのに陽射しが強く照り出している。ここは王都を出て直ぐの草原地。そこに俺と祖父は向かい合っていた。

「んじゃまぁ、時間ねぇし、早速修行を行うぞ! リオ!」

「うん! よろしくお願いします! アラン爺ちゃん!」

 今日からアラン祖父による俺への修行を開始する。ミンク祖母やアミラーシア達にお手伝いを休む事は既に伝え済みで、両親にも修業の許可を得ているので安心して行える。

「そういや、リオって普段どんな事をやっているんだ?」

 俺は祖父に普段の日課について聞かれる。

「毎朝、父ちゃんと一緒に家から爺ちゃん家までを往復して走っているよ! 最近だと、母ちゃんも一緒に参加して体力を付けているんだ!」

 母は育児休暇から完全に復帰して、冒険者活動をする為にもう一度体作りをすると言っていた。

「(そう言えば、ここに引っ越しする前は、父も母と同様に育児休暇していた。だが、引っ越しの数ヶ月前から体作りをしていたなぁ)」

「そうか、分かった。じゃあ、リオの修業方針だが、基礎固め中心に行っていくぞ!」

「えっ? 別に良いけど……爺ちゃん! 俺に、武術とか教えてくれないの?」

「(やはり、異世界転生の修業って言ったら武術と魔法! これが醍醐味! これ絶対!)」

 前世で読んだ数多の小説でよくあった展開だったので教えてもらえるか一応聞いてみた。

「正直に言って、お前に武術は、まだ早えよ」

 祖父は少し呆れ気味に首を横に振り答える。

「えぇっ!? で、でも! 武術って俺くらいの歳からやっておくもんじゃ無いのっ!?」

 俺の前世では多くの有名なスポーツ選手は3歳の時にはそのスポーツの英才教育を行っていた。それ故に俺もそうなのだと思い祖父に疑問を投げかけてみた。

「そいつは違えなぁ。それは、何処で知った知識なんだ? リオ、よく聞けよ? 武術ってのは体がある程度出来上がってからやんねえと、怪我がしやすい体になっちまうんだよ」

「えっ? そうなの?」

「ああ、そうさ。俺が行う基礎固めって言うのはな、これまで通りの体力作りを中心に瞬発力・反射能力・動体視力の向上、体幹強化、関節の柔軟化、身体操作などを行うんだ。これらは、武術だけではなく今後色々な事で役に立つだろう。」

「(ふーん……アスリートと似たような事をするんだなぁ)」

「色々って……例えばどんな時に役に立つの?」

「そうだなぁ。例えば、幼い頃から技術ばっかり鍛えていた奴が戦闘中に無理な体勢で避けたとするぞ」

「うん」

「その時に関節を痛め、それが隙となり受けなくて良い攻撃を受けて怪我をする奴らって結構いるんだ。冒険者に限らず傭兵や騎士なんかにも割といる」

「えっ!? そんなにいるの?」

 俺は意外にも冒険者よりも対人戦闘に優れていそうな騎士や傭兵に多い事に驚きを隠さなかった。

「ああ、よく居る。何故なら武術の修業って楽しそうだろ? 武器を振り回したり、組み手やるからな。そして、誰でも集中して真剣にやっていりゃ、ある程度の所まで簡単に強くなれる。それが楽しいなら尚の事早熟する」

「(ああ……確かに、それは楽しそうだ)」

「そうだね……あっ! でも、普通に戦っていたら基礎固めも同時に出来るんじゃないの?」

「おう! 確かにある程度までは出来はする。しかし、俺たち冒険者は、此処みたいな整地で見通の良い戦闘なんて滅多にない」

「それじゃ、もっと足場が悪いの?」

「そうだ。例えば、森の中で視界が悪かった事や岩場で足元が覚束無い事での戦闘が多い。それに、例えば武術を教えたとして……仮に短剣術を教えても、お前は短剣を振り続けるられるか?」

「あぁ……どうだろう……多分、無理……だと思う」

 俺は祖父が言う理由はよく分かった。

「(確かに、例え木剣でも今の俺にはかなりの重量に感じる……それを無視して振り続けても回数なんて高が知れている筈だ! それに、動体視力や反射神経は子供の頃の方が伸びるって、前世のテレビで言っていた様な気がする! よな?)」

「そうだろ? 武術に限らず戦闘は身体が十分動ける事が大前提だ。 体力が無ければ、いくら技を修めていても使えない。柔軟性に欠ければ怪我の癖が出来ちまう」

「そっかー! 分かったよ! 爺ちゃん!」

「あぁ……それと偶に武術で勘違いしている奴が思っている事だ。武術ってのは御伽噺に出てくる様な超技術じゃない! って事だな」

 俺は祖父の発言の意味や意図がよく分からなかった。

「んえっ? えーっと……どういうこと?」

「武術は、力の弱え奴らが強え奴らに勝つ為に考え、代を重ねて積み上げられた歴史だ。それは良いか?」

「う、うん。何となく分かった。」

「だがな、その真価は、実力が拮抗している相手にこそ発揮される。例え、お互いに同じくらいの技量だったとしても、それを歴史の差が勝敗を分ける事があるんだ」

「な、なるほど」

「しかし! その前提が崩れれば武術は意味を無くすんだ」

「えっ? 無意味って事? 前提が崩れるって事は……つまり圧倒的な力量の差がある相手って事?」

「そうだ。例えば、相手と自身の実力に大きな差があったとする。弱者が強者よりも熟練した武術を習得して、強者は武術の"ぶ"の字すら無くても、弱者が反応できない速度で攻撃を与えれば、全く関係ないだろ?」

「(あぁ……確かにそうだ。成る程、爺ちゃんの言う"武術が無意味になる"ってそう言うことか)」

 野球で例えてみる。

 球速130kmで7つの変化球を投げられるピッチャーと球速1000kmのストレートを投げるピッチャーがいたとする。

 バッターの身体能力が前世基準だとして、どちらの球を打つ事が難しいかと考えると球速1000kmのピッチャーに軍配が上がるだろう。

 打ち手が素人ならば両方無理だが、メジャーリーグで活躍した鈴木三郎選手やジャイアント松川選手なら膨大な経験と凄まじい身体能力から球速130kmの変化球でも即座に対応も可能だろう。

 しかし彼らの身体能力をはるかに超える球速、人生経験が通用しない球速1000kmはどうだろうか。まぐれで当てる事は出来ても、狙って当てる事はほぼ不可能であり、仮に相手ピッチャーの思考を読み切っても身体が対応できなければ意味は無い。

 更に言えば、思考を読み切ってそれに対応しようとすれば、相手からすればジャンケンの先出をされている様なものだ。ならば、見てから対応すれば思考を読まれても関係が無いのだ。

「(つまり戦闘は、どんだけ綺麗事言っても身体能力に依存するって事だな)」

「うん! 何となく分かったよ! 爺ちゃん!」

「ハッハッハ! 今はそれで良い! 経験して少しずつ理解していけば良い。おっと、そろそろ話は終えて早速修業をするぞ! リオ!」

「おーっ! よろしく爺ちゃん!」

 俺は右拳をグーにして頭の上に挙げて修業を開始した。
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