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従兄弟
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ヴァンは帰宅すると学生服を着替えてまたすぐ家を出た。必要な物をそろえる為に市場へ向かう。そこで情報収集もできるだろうと考えていた。
買い物は数軒の店を回ってすぐに済ませられたが、肝心の情報はなかなか集まらなかった。森に魔女が住み着いたという噂こそ広まっているものの、実際見たという人物も分からないし、どこで見たのかも分からなかった。情報の発生源すら判明しなかった。デフィの店(先日の精肉店)でもそれは同様だった。
しかし全く収穫がなかったわけでもない。魔女の容姿についての噂を新たに知る事ができた。白い髪のロングヘアー、蒼い瞳、透き通るような白い肌、そして……、絶世の美女らしい!
ヴァンはスキップをしながら市場を後にした。
「やった! 美女に会いに行くんだ! ババァじゃなくて美女! 美女!」
いつの間にか、魔女のイメージがゴリラ的なものから老婆に変わっていたのだが、ここにきて美女説が湧いてきて、ヴァンは浮かれた。もちろんハナのことは好きだが、これはそういうのとは違う。別腹なのだ。自然と足どりも軽くなる。
ところで、市場では新たな噂が生まれていた。邪悪な笑みを浮かべながら、高速のスキップで市場を駆け抜ける呪われた少年の話だ。全力で走る馬を置き去りにする程の速度で、ビッジョ、ビッジョと呪いのような言葉を撒き散らし、見た者を恐怖のドン底に貶めるのだ。市場で遊ぶ子供達に対して、早く家に帰らないと呪いの少年に追いかけられるぞ、という脅し文句が使われるようになった。
全力のスキップで帰宅したヴァンは全身汗ばんでいて、とにかく風呂に入りたかった。
「ただいま」
そう言って家に入ると、脱衣所に行くまでもなく服を脱ぎ始め、リビングですでにすっぽんぽんになっていた。
「お帰りなさい」
女の子の声だった。
「っ!?」「あっ!?」
黒くて短い髪の赤い瞳をした女の子がそこに居た。
「サクラ……」
アランの二つ下の妹だ。つまりもう一人のいとこ。ヴァンは迷った。下半身に付いている漢の象徴であるアレを隠すかどうかを。恥ずかしがったら負けのような気がした。
(大丈夫だ。僕にはまだ毛がない! よって変態ではない! さぁ、見るがいい!)
ヴァンはどうだとばかりにサクラに正体する。仁王立ちだ。
「お風呂?……、入れば?」
サクラは視線を外した。頬が少し赤い。
「そうだね」
ヴァンは堂々と全裸で風呂場に向かった。
(勝った。悪いなサクラ。漢には負けられない戦いがあるのだよ)
ヴァンが体を洗って風呂から出ると、サクラはお湯を沸かして紅茶を淹れていた。紅茶の葉はサクラが持参した物だった。脱ぎ散らした服はサクラによって綺麗にたたまれていた。
「ヴァンも飲むでしょ?」
うん、と言ってダイニングテーブルの席に着く。
「それで? 今日はどうしたの?」
二つのカップをテーブルに置いて席に着くサクラに問いかける。
「母さんの代わりで来たの。ほら、ヴァンは今日から中学生でしょ? お祝いにご馳走作るってはりきっていたんだけど、カゼをこじらせちゃって来られなかったの」
つまり、とサクラが続ける。
「私はご馳走を作る使命を受けてここにいるわけよ。母さんじゃなくて残念だろうけど?」
「いやいや、そんな事ないよ。サクラが来てくれて嬉しいよ。サクラの作る料理もとても美味しいからね。晩ご飯が楽しみだ」
サクラは少し照れているようだった。その証拠に紅茶を少しテーブルにこぼした。ヴァンは思う。女の子というのは正直に気持ちを伝えると嬉しそうにする。ハナにももっと正直な気持ちを伝えた方がいいのかもしれない。
それにしても助かるとヴァンは思った。
ガニアンが不在なので自分が食事を作らなければならないはずだった。しかし、これならば食事ができるまで明日の準備に集中できる。そして終わった頃にはご馳走が! 幸せすぎる! そうと決まれば即行動!
「ごちそうさま!」
カップを流しに置いて、勢いよく自室に向かおうとしたが、サクラに呼び止められてしまった。ん? っと、ヴァンは振り返った。
「まさかだとは思うけど、私一人にやらせるつもり? 違うわよね? ちゃんと手伝ってくれるんだよね?」
ニッコリ笑っているが目が怖い。母親ゆずりのこの表情にロアー家の男は逆らえない。
「モチロンでございますよ……」
結局Uターンして元の席に座り、サクラが紅茶を飲み終わるのを静かに待った。サクラは優雅にカップに口をつけた。
買い物は数軒の店を回ってすぐに済ませられたが、肝心の情報はなかなか集まらなかった。森に魔女が住み着いたという噂こそ広まっているものの、実際見たという人物も分からないし、どこで見たのかも分からなかった。情報の発生源すら判明しなかった。デフィの店(先日の精肉店)でもそれは同様だった。
しかし全く収穫がなかったわけでもない。魔女の容姿についての噂を新たに知る事ができた。白い髪のロングヘアー、蒼い瞳、透き通るような白い肌、そして……、絶世の美女らしい!
ヴァンはスキップをしながら市場を後にした。
「やった! 美女に会いに行くんだ! ババァじゃなくて美女! 美女!」
いつの間にか、魔女のイメージがゴリラ的なものから老婆に変わっていたのだが、ここにきて美女説が湧いてきて、ヴァンは浮かれた。もちろんハナのことは好きだが、これはそういうのとは違う。別腹なのだ。自然と足どりも軽くなる。
ところで、市場では新たな噂が生まれていた。邪悪な笑みを浮かべながら、高速のスキップで市場を駆け抜ける呪われた少年の話だ。全力で走る馬を置き去りにする程の速度で、ビッジョ、ビッジョと呪いのような言葉を撒き散らし、見た者を恐怖のドン底に貶めるのだ。市場で遊ぶ子供達に対して、早く家に帰らないと呪いの少年に追いかけられるぞ、という脅し文句が使われるようになった。
全力のスキップで帰宅したヴァンは全身汗ばんでいて、とにかく風呂に入りたかった。
「ただいま」
そう言って家に入ると、脱衣所に行くまでもなく服を脱ぎ始め、リビングですでにすっぽんぽんになっていた。
「お帰りなさい」
女の子の声だった。
「っ!?」「あっ!?」
黒くて短い髪の赤い瞳をした女の子がそこに居た。
「サクラ……」
アランの二つ下の妹だ。つまりもう一人のいとこ。ヴァンは迷った。下半身に付いている漢の象徴であるアレを隠すかどうかを。恥ずかしがったら負けのような気がした。
(大丈夫だ。僕にはまだ毛がない! よって変態ではない! さぁ、見るがいい!)
ヴァンはどうだとばかりにサクラに正体する。仁王立ちだ。
「お風呂?……、入れば?」
サクラは視線を外した。頬が少し赤い。
「そうだね」
ヴァンは堂々と全裸で風呂場に向かった。
(勝った。悪いなサクラ。漢には負けられない戦いがあるのだよ)
ヴァンが体を洗って風呂から出ると、サクラはお湯を沸かして紅茶を淹れていた。紅茶の葉はサクラが持参した物だった。脱ぎ散らした服はサクラによって綺麗にたたまれていた。
「ヴァンも飲むでしょ?」
うん、と言ってダイニングテーブルの席に着く。
「それで? 今日はどうしたの?」
二つのカップをテーブルに置いて席に着くサクラに問いかける。
「母さんの代わりで来たの。ほら、ヴァンは今日から中学生でしょ? お祝いにご馳走作るってはりきっていたんだけど、カゼをこじらせちゃって来られなかったの」
つまり、とサクラが続ける。
「私はご馳走を作る使命を受けてここにいるわけよ。母さんじゃなくて残念だろうけど?」
「いやいや、そんな事ないよ。サクラが来てくれて嬉しいよ。サクラの作る料理もとても美味しいからね。晩ご飯が楽しみだ」
サクラは少し照れているようだった。その証拠に紅茶を少しテーブルにこぼした。ヴァンは思う。女の子というのは正直に気持ちを伝えると嬉しそうにする。ハナにももっと正直な気持ちを伝えた方がいいのかもしれない。
それにしても助かるとヴァンは思った。
ガニアンが不在なので自分が食事を作らなければならないはずだった。しかし、これならば食事ができるまで明日の準備に集中できる。そして終わった頃にはご馳走が! 幸せすぎる! そうと決まれば即行動!
「ごちそうさま!」
カップを流しに置いて、勢いよく自室に向かおうとしたが、サクラに呼び止められてしまった。ん? っと、ヴァンは振り返った。
「まさかだとは思うけど、私一人にやらせるつもり? 違うわよね? ちゃんと手伝ってくれるんだよね?」
ニッコリ笑っているが目が怖い。母親ゆずりのこの表情にロアー家の男は逆らえない。
「モチロンでございますよ……」
結局Uターンして元の席に座り、サクラが紅茶を飲み終わるのを静かに待った。サクラは優雅にカップに口をつけた。
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