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Prologue

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 他人はたやすく流される。今回も。

 日中の陽光を照らし返すような回転灯の赤色が、真っ青な顔をした群衆たちの顔色を漏れなく紫に染めている。
あっけない幕切れを残念に思いつつも、これまでで最も予想外のエンディングに十分満足してもいた。

 
 ブレザーに身を包んだ、まだあどけない少年少女たちは身を固くし、一言も声を発さず唇をきつく引き結んでいる。
視線の先には、ブルーシートで視界を遮るように覆われた1区画が。Keep outと書かれた黄色いテープが、赤色の三角コーンに括り付けられている。まるで人工の結界をそこに作り出しているかのように。

 慌ただしく現場検証を行う刑事たちは、三年A組の生徒を一人ずつ別室へと連れて行く。事情を知らない他のクラスの生徒たちは、興味深げに彼らを目で追っては、好奇心を湛えた口元を歪めて近くの生徒と何やら囁きあっている。

 
 人知れず、自分の口元も緩む。
 ……そうそう。他人事だもんなあ、所詮。

 存分に楽しめ、と思う。腹にどんな一物を持った人間だろうがそこいらに蔓延る俗物だろうが、それらをひっくるめて自分のフィールドワークの対象なのだから。


 すると、こちらに近づいてくる影を視界の端で捉えた。
刑事かと思い、警戒を悟られぬよう、あえて顔を向けず油断している風を装う。
けれども近づいてくる影からは、大人のような、身の詰まった重量は感じられない。

「すいません、ちょっといいですか」

まだあどけない佇まい。その声は慎重でいて、そのくせ開き直ったような落ち着きがある。

「何かな」

 この子も確か、A組の……

目の前の少年は、少しくせの入った茶色い髪を風に揺らしながら、じっとこちらをみていた。
普段はどこかおどおどした彼の、真っ直ぐと揺るぎない瞳が髪の間から覗いた。

へえ。この子……

「君は、確か海瀬(うなせ)くん、だったかな」

少年はこくりと頷く。そして、
「話が、あるんですけど」
真っ直ぐにこちらをみたまま、少年は言った。

「話?どんな」
どこで勘付かれたのか。証拠はないはずだけれど。

「ここだとちょっと……どこか、人気のないところに」
「そうは言ってもね、君、A組の生徒だろう。これから事情聴取なんじゃない」
意を決したように、少年は一つ唾を飲み込むと、
「それじゃあ、放課後に。……確証はないけど、確信しているんです」
その言葉に、ああやはり、と納得が広がる。
「勘違いしないで欲しいのは、別に警察に突き出したいわけじゃあないんです。ただ、聞きたい。というか、知りたい」
「何を」
観察者の目で少年を見つめ返すと、少したじろいだようだったが、すぐに、
「あなたのことを」
苦しげな表情を浮かべ、喘ぐように、少年は答えた。




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