猫になりたいと祈ってみたら猫になった

山本・T

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夢?テスト当日?

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 目が覚めると、やけに目線が低い。何か違和感を感じながらもドアを開けようとするとすでにドアは空いていた。どうやらリビングにみんなが集まっているようだ。

珍しく、晴代と父さんが話している声がする。珍しいこともあるもんだと思ってリビングに向かうと晴代が、
「おはよう」と声をかけてくる。いつも俺からおはようと言ったところで、ムスッとして顔を洗いに行く晴代とは全然違う態度だ。

 周りを見渡すと、母さんも、
「あらおはよう、今日は早いのね」と言ってくる。何を寝言を言っているのだ。今日は試験日で早く学校に行かないといろいろとめんどくさいことになるだろうに。

 まあ、そんなことを気にすることもなく、自分の席に行こうとし、ジャンプして席に座る。んっ、また違和感を感じる。と言うか、自分の席に座るときジャンプして座ること自体が変なのだ。

 ふと気になって、自分の手を見てみると、白と茶色の手、四つん這いになって歩いている?なんじゃこりゃ?慌てて、立とうとするが立てない。どういうことだろうか?とりあえず、こういう時に頼りになるのは父さんだ。

 父さんの足元へ行ってみると、父さんの手が伸びてきて、抱きかかえられる。!?!?突然の状況に戸惑いを覚え、慌てて降りようとすると、父さんが、
「今日は寝坊せずに起きたか、ん~えらいぞミーコ」と撫でてくる。

いくら父さんでも朝から冗談が過ぎる。高校生になった息子の頭をなでてくるなんて、いったい何をって、そういえば、今ミーコって言わなかったか?

 そういえば、手もミーコだし、目線も低い。一瞬混乱したが、冷静に考えてみて、自分が猫になるはずがない。そういえば昨日ミーコに1日くらいなってみたいって言ったから夢でも見ているのだろうか?そうだ、そうに違いない。そう思うとこの状況を楽しめるような気がして、一度自分の部屋に戻ってみた。

 どうやら誰もいない。俺はもう学校に行っているようだ。流石に試験前は急いで学校に行くのではなく、余裕をもって学校に行くあたり、ちゃんとしているなと我がことながら感心する。

 もう一度リビングに戻ると、母さんが
「ミーコ、朝ご飯よ」とご飯を置いてくれる。いつもの、キャットフードだ。ちょうどおなかもすいた頃だし、まあ夢だ、せっかくだし食べてみようと、一口パクリと食べてみる。なんだか固いが味自体は別に悪くない。夢だからだろうか?

 これなら食べられると思ってパクパクと食べると、母さんが、
「あら、今日はよく食べるのね。いつもは少し食べたらどっか行っちゃうのに」と言うと、晴代が、
「昨日お兄ちゃんの部屋で寝たみたいだから、お兄ちゃんの寝相が悪くて、ぐっすり眠れないから、いろいろ動いておなかが減っているんじゃないの?」と言う、何を言うか俺は寝相は悪くないぞ。

 ミーコがいて気を使うのは俺のほうだと反論したくなったが、父さんが、
「洋一は結構寝相がいいぞ、それにミーコと寝るときはミーコを起こさないように気を使っているみたいだしな」とフォローを入れてくれる。グッジョブ父よ、これからは父さんの言うことをよく聞くよ。

 夢といえ、そういってもらえたことに嬉しく思った俺は、父のもとへ行こうとすると、母さんにひょいっと抱き上げられる。突然抱き上げられるとびっくりする。今度ミーコを抱き上げるときは、ちゃんと前から抱き上げてあげようと思う。

 俺を抱き上げた母さんは、
「洋一は、晴代が思っているほどがさつでもないのよ、ああ見えて人一倍気を使う子なのよ」と撫でながら言う。ええぃ、早く降ろせ、母親に撫でられながら話しかけられる男子高校生なんて人に言えんわ。とひょいっと降りる。

 すると、
「お兄ちゃんが人に気を使うねぇ、学校じゃ騒がしい人ってイメージがあるみたいだけどな」と晴代がつぶやくと、

「まぁ、他人にどう気を使ったらいいかまだ分からないところもあるんじゃないか?にぎやかにすることでみんなを楽しませようとしてるとか」と父さんが言う。
「そんなもんかなぁ、あの騒がしさがなければ、お兄ちゃんとっくに彼女の一人や二人で来ていると思うんだけどな」とつぶやく。

そうなのか?俺が騒がしくなくなれば彼女の一人や二人すぐにできるんだなと少し興奮しながら晴代の話を聞く。なんせ生まれてこの方、彼女なんてできたことがない、健全な男子高校生だ。彼女の一人くらい本当は欲しいに決まっている。

「てか、あんたそろそろ学校に行かないとまずいんじゃない」と母さんが言うと、
「ヤバッ、もうこんな時間。歯磨いたら行ってくる」と言い、
「忘れ物はないわね」母も確認すると、昨日準備したと洗面所に行きながら返事がかえてくる。さすが俺の妹、俺と同じで前日に準備しているんだなと感心した。

 そういえばミーコはいつも日中は何をしているのか考えてみたが、どうせ夢だし、好きなことをしてみようと思い、ドアをカリカリと引っ掻いてみる。すると母さんが、
「あれま、こんな早くから外に出るのかい?珍しいこともあるもんだね。晴代、出るときミーコも外に出して」と言うと洗面器からわかったと返事が聞こえた。晴代が外に出ると同時に俺も外に出た。

「それにしても今日はお兄ちゃんもおかしいし、ミーコも朝から外に出るし、おかしな日なのね」と言った。俺がおかしい?晴代が言っていることはよくわからないがどうせ夢だ、まぁ、せっかくミーコになったんだ楽しもうと晴代と共に学校へ行くことにした。


 朝起きるとなんだかいつもと違う感じがする。とりあえず、体をいつものように伸ばし、あくびをする。仰向けで寝ていたっけ?いつもはうつぶせで寝ているはずなのに。

 リビングから声がする。家族が朝ご飯を食べているのだろう。とりあえず、リビングに行ってご飯をもらわなければ、とドアを開け、リビングに入ると、一代が、
「洋一なにしてんの!」と金切り声をあげる。
〈!?!?なにっていつも通りに入ってきたんじゃ〉と思い、
「ミャーーーー」と驚かされたことに対して抗議のために少し威嚇をすると、洋介がお茶を吹きだす。

〈!?!?なぜ吹き出す〉と益々混乱する中で晴代が、
「お兄ちゃんってお笑い芸人を目指してるの」と言われ、とっさに首を横に振り
「違うけどニャ~」と言うと、自分が人の言葉を話していることに気が付き、ふと手を見ていると、あれ?手に毛がない。いつもなら自分で舐めて毛づくろいをするくらいびっしりと生えている白と茶色の手がなんだかごつい人間の手になっている。

「ニャ~ってあんたアニメにでもはまった?」と一代が聞いてくるので、首を横に振り、
「はまってない」と答えると、変な子ねとつぶやいた。

 ミーコは即座に現状を把握した。どうやらミーコは今日、洋一になったらしい。確かに昨日、洋一がミーコになりたいといったので、人間ってどんなもんだろうとは思ったがまさか本当に人間になれるとは…しかも喋れるあたり、洋一の記憶はそのまま残っているらしい。ミーコはうれしさのあまり、家族に話しかける。

「なんだか喋れるって楽しいね」と言うと家族はぽかんとして、一代が、
「あんた熱でもあるんじゃないの?今日試験でしょ?大丈夫なの?最近頑張っているのはわかるけど、あまり無理しすぎるとよくないわよ」と心配してくれる。

洋一は母親に心配してもらって幸せだなぁと思いながら、
「大丈夫だよ、母さん、俺頑張るから」と言うと朝から殊勝なことを言う息子にびっくりしたのだろうか。

「ほぉ~、洋一がこんなことを言うなんてな」と洋介が言うので、
「父さん、頑張って進路を決められるようにするよ」と言うと、一代が、
「あんた本当に大丈夫?とりあえず熱でも測っておきなさい」と言うと、朝ご飯を置き、体温計を取りに行った。

 出された朝ご飯をみて、ミーコは〈おお、人間は朝からこんなに豪華なものが出るのか〉と感動した。別にいつものごはんに不満があるわけでもない。ただ、人間が食べているご飯をいつもも見ていて、おいしいそうだなと思っていたが、もらえる機会がなかったので今日初めて、食べることができるのだ。

洋一の記憶がそのまま残っているからだろう。箸も上手に使え、ご飯とお吸い物を食べる。うまい、朝から洋一はこんなにおいしいものを食べているのか。なのに私と変わりたいというなんて不思議なことを言うやつだ。と焼き魚と卵焼きも食べる。うまい!やはりこんな生活をしているのに私になりたいという洋一は実は変わり者なんじゃないだろうか?

一代が戻ってきて熱を測れというので、おとなしく言うことを聞き熱を測るが当然熱などはない。不思議そうに私を見る一代を見て、なんとなく居心地が悪くなり、ミーコは学校に行ってくるというと、一代は、
「頑張っておいで」と一言、言い洋介も、
「無理はするなよ」と言う。返事をして、玄関に歩き出すと一代は玄関まで送ってくれた。

 やっぱり洋一は家族から愛されているんだなと、日ごろと同じ感想を持ったが、ふとミーコは自分の父母のことが頭に浮かんだ。あまり覚えていないがよく母親の後をついていったことだけは何となく覚えている。その後いつの日かは覚えていないが、幼いころに、洋一に拾われ、田島家の一員となり、ミーコと名づけられた。おかげで寂しくはなかったがたまに両親が恋しくなる。私の両親は今何をしているのだろうか?

そんなことを考えていると、洋一と晴代が通っている高校に着いた。いつも外に出ては高校の周りをクルリと一周し、神社に向かい、他の猫と戯れ、ボーっとして、商店街を歩き、家に帰るミーコが今日は高校の中に入るのだ。いつものルーティンとは違い、洋一や晴代が経験しているであろう日常を自分が体験するということがなんとなくうれしく感じ、足取りも軽く教室へ入っていく。

「おっはよ~」と元気よく挨拶をすると、教室はシーンとしている。周りを見渡すと生徒はそれぞれ教科書を見たり、ノートを見返したりと少しピリピリしている。少しバツの悪くなったミーコはいったんトイレに行こうとするが、いつもの癖で砂のあるところを探そうとしてしまう。

 ちょうど、龍平に
「おはよう、お前今日テンション高いな~」と言われ、智明からも
「どうやら今日のテストはよくできそうだな」と言われる。そういえば一代も洋一も試験だと言っていた。
「どうかな、でもいいことがあったんだ」とミーコはご機嫌に答え、二人は怪訝そうな表情をすると、龍平は
「お前、いつも試験前はピリピリしてるのにな、何かいつもの洋一じゃないみたい」と言われ、ミーコは慌てて
「そんなんじゃないって、とりあえずトイレ行ってくるわ」と言うと俺もと二人ともついてきた。

当然洋一の記憶があるからトイレの仕方はわかるが、改めて男子二人のトイレ仕方をみて、人間ってこんな風に用を足すんだなと思うと、なんだかおかしな気分になる。

 教室に戻るとさすがに二人とも参考書を広げピリピリとした雰囲気になる。ミーコはつまらないなと思いながら、参考書を広げると、一応洋一の記憶があるとはいえ、何が何だかよくわからない。たまに書いてある落書きを見ながら、面白い絵だなと思い、隣に同じような絵を描くと瓜二つの絵が出来上がる。その出来に感動を覚えたのと同時に話すことや字の読み書きは支障がないが、勉強とかに関してはどうやらできないらしい。

 ミーコは困ったなと思ったが無情にも朝のホームルームが始まり、試験開始のチャイムが鳴ってしまった。ミーコは配られたテストを見て唖然とする。試験問題がわからない。とりあえず、五分ほど考えてみたが何も浮かんでこない。仕方ない、とりあえず、さっきの落書きをいっぱい書いて時間をやり過ごそうと思い、回答用紙にはたくさんの落書きとひらがなで『よういち』とだけ書いておいた。
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