始まりの竜

朱璃 翼

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六部 最終決戦編

邪を束ねる者3

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 陽霜が助けにいくと同時に、星霜が男性へ攻撃をする。虚空へ意識が集中している隙をついたつもりだった。

「後ろに目でもついてんのかよ!」

 急に飛んできた黒い塊に慌ててよける。それでも左腕に衝撃を受けた。完全によけることができなかったのだ。

「星霜様!」

 利き腕をやられてしまい、険しい表情で後ろへ下がる。

 この状態では刀を握ることができない。足手まといにならないため、下がったのだ。

「陽霜! 逆だ!」

「仕方ないなぁ」

 前は嫌いなんだ、とぼやきながら陽霜の表情は変わる。

「……嘘つくなっつうの」

 やる気に溢れる姿を見て、星霜はぼやく。本当は前で暴れたい性格なのだと、誰よりも理解していた。

 ただやらせると面倒なことになるからと、星霜がやらせないだけ。止めるという苦労がやってくるのだ。

 次の瞬間、豹変した陽霜による猛攻撃が開始された。同時に柊稀が攻め立てる。蒼い炎をまといながら。

 氷と炎が吹き荒れる。隙間を正確に捉え、華朱が突っ込む。彼女の目なら、隙間を狙うことなど簡単なこと。

火竜楝激焼かりゅうれんげきしょう!」

「邪魔だ……」

 懐へ入った瞬間、目に見えない波動が華朱の身体を吹き飛ばす。

「キャッ」

「うわっ」

「ちっ」

 同時に柊稀と陽霜も吹き飛ばされ、周囲を黒い雷が襲う。無造作に襲う雷は、凄まじい威力だ。

「柊稀!」

 朱華に呼ばれハッとしたように見れば、目の前に迫る刃。避けられない。柊稀は咄嗟にダメージを減らすよう動く。

 間に合わなくても直撃は避けなければいけないと、迫る刃を見て感じ取ったのだ。

 しかし、突然割り込む身体。直撃しそうな刃を隠すように入り、そのまま身体へ突き刺さる。

「朱華!」

「大丈夫。私、痛みは感じないから」

 にっこりと笑うが、刃を引き抜かれた身体から血が溢れ出た。

「えへへ……造られた身体は、便利だね」

 笑う朱華の後ろから、さらに迫る男性が見える。護らなければと柊稀は動いた。

「柊稀! 朱華と一度下がって!」

 柊稀が動くよりも早く華朱が割り込む。本人が痛みを感じていなくても、溢れ出る血の量を見れば傷は深手だとわかる。

「……ありがとう」

「星霜、診てやれ。どうせ利き腕が使えないお前じゃ役に立たないんだ」

「事実だが……ムカつくな」

 すっかり豹変してしまった半身に、星霜が後ろへ下がる。誰かが診るべきだろうとは思っていたのだ。

「ちっ、造られた身体だから、構造が違うのか」

 診てすぐ星霜がぼやく。

 朱華の身体は華朱を元にしているとはいえ、構成しているのは魔力といってもいい。血を流すのは、それをバレないようにしただけ。それ以外はまともに造られていない。その必要がないからだ。

「核がやられなければ平気か?」

 とりあえず、今はどう対処するべきなのかを考えなくてはいけない。魔道生物と同じ原理なら、核だけでも無事ならどうにかなると考えたのだ。

「違います! 朱華お姉ちゃんは魔道生物とは違います! 背中の赤い模様が消えたら、お姉ちゃんも消えてしまうんです!」

「な…に……」

 思ってもみない事実に二人が驚く。

「出血と同時に、魔力が流れているみたいだわ」

 冷静に見ていた瑚蝶は魔力の流失を感じていた。魔力が流れれば、その分朱華が弱るのだと。

 痛みは感じていないし、出血で死ぬということはない。それでも徐々に弱っていく姿に、原因は魔力だろうと瑚蝶は言う。

「そっちは、瑚蝶が手を貸してくれ。傷と身体の構造が見たい」

「わかったわ」

 接近戦をできない瑚蝶としては、朱華の方へ専念しても問題はないだろうと近寄る。

 弱っていく朱華を見て、柊稀の拳が怒りで震える。男性の呟く言葉が聞こえてしまったのだ。

 男性は言った。道具のくせにバカな真似を、と。

「……ふざけるな」

 ここまで来るまでに、たくさんの造られた人物と戦ってきた。

 過去で知り合った白秋や白麟。自分を助けてくれた双子は、自分の父親である造られた者と。飛狛は妹と。

 黒欧やユフィはかつての仲間達の造られた姿を見て、二度目の死を見ることとなった。辛かったはずだと柊稀は思っていた。

「ふざけるなよ…道具みたいに、みんなを使いやがって……俺達は、道具じゃない!」

 蒼い炎が渦を巻く。感情に呼応するように次から次へと溢れ出る。

「柊稀…」

 驚いたように琅悸は見た。彼は想像以上の力を放っていたのだ。

(まだ、眠れる力があるのかもな。だが、おかげでなんとかなりそうだ)

 虚空を潰されてしまったが、魔力のみの攻撃は効くとわかった。わかれば、まだやれる。方法はいくらでもあるのだ。

「黒耀、このまま柊稀に暴れさせる」

 彼は感情的になっているため、こちらで指示を出して戦わせるよりも力を発揮する可能性が高い。

 今までの経緯から考えても、こうなった彼は実力以上の力を放ってくるだろう。

「ただ、かなり苛立ってるからな、手綱は離さないようにだ。あとは、任せる」

「……わかった」

 琅悸が攻めの体制に入った。察した黒耀は、求められていることを正確に察し頷く。

 ここから先、琅悸が本気になれば自分でもどこまで立ち入れるかわからない戦いになるだろう。

 荒れ狂う炎に、陽霜と華朱は手を出せずにいた。今混ざれば、柊稀の炎に巻き込まれてしまう。

 そう思わせるほど、凄まじい炎が溢れているのだ。

「なんて力……」

「今は助かる!」

 二人の間を駆け抜ける琅悸に、視線を合わせ離れていく。

 彼が攻撃体制に入れば、もう手が出せない。出さない方がいいというのが正解だ。彼の力はこの中で一番の強さを誇るのだから。

 下手に手を出せば足を引っ張ってしまう。そんな真似をするわけにはいかない。琅悸が攻撃態勢に入ったということは、この状態をどうにかできる証拠なのだから。

 この二人に割り込めるとすれば、残すは魔法槍士である彼だけ。金色に輝く瞳で戦況を眺める、黒耀だ。

鳶瀬関えんらいせき!」

 鳥の形をした魔力が無数に放たれる。驚くことに、鳥から属性は感じられない。

 琅悸は多彩だ。魔力だけで攻撃する術を持っていたのだ。

「なにっ」

 さらに驚かせたのは、向かってくる魔法を右手で剣を振るい斬ったこと。

「秋星を見て、二刀流の動きはわかった。攻撃目的じゃなければ、付け焼き刃でもなんとかなる」

 目で見て盗んだ技術。素早さを生かし、必要なときだけ一瞬二刀流にすることで、相手の魔力を切ったのだ。

「よそ見してるなよ」

 今まで見たこともないほど、鋭い表情で柊稀は剣を振るう。

「くっ…」

 琅悸の攻撃に集中すれば柊稀が、柊稀の攻撃に集中していれば琅悸が。

 両方を同時に気を付けなくてはいけないが、一人に集中しなければやばいと男性に思わせるほど、攻撃は凄まじい。

 次第に男性は追い込まれていった。

「お前は、許さない……蒼炎竜激破そうえんりゅうげきは!」

 蒼い炎が柊稀を包み、そのまま突っ込んでくるのを見て男性が跳び下がる。直撃を受けるわけにはいかないと。

「ふっ、くると思っていた。王竜牙双焔おうりゅうがそうえん!」

「しまっ…た……」

 下がった先で待ち構えていた琅悸が、柊稀の方へ吹き飛ばすように攻撃をする。

(最後は譲ってやるさ、柊稀に。黒耀がうまくやってくれたしな)

 朱華のためならどこまでも強くなっていく青年に、琅悸は微かな笑みを浮かべた。それがなぜだが、嬉しく感じたのだ。





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