始まりの竜

朱璃 翼

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六部 最終決戦編

呪われた精霊3

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 心の中で謝罪をした。外すことはないと言ったが、外すことに。

(けど、いいよな。霜瀬がいる前じゃねぇし。約束は破ってねぇ)

 抑えつけられていた力を内側から急激に高めていく。隠すようにつけていた魔具を破壊する勢いで。

「余計な真似するな! ユフィ!」

 だが、次の瞬間誰もが驚くことが起きる。琅悸が見えないはずの精霊を攻撃したのだ。

 それは、魔具にヒビが入る寸前のことだった。

「琅悸……」

「それを壊すのは、俺が許さない」

「忘れないで。こちらには精霊眼があるんだってこと!」

 瞳を金色に輝かせながら、華朱が剣を片手に攻撃をする。

 すり抜けるよう焔莉が駆け抜ければ、ユフィは驚く。魔道生物には見えないはずなのに、なぜか見えていたからだ。

「華朱が精霊眼を発動すると、同じ力が加わるらしい。頼もしいだろ」

 李蒼と李黄だけではない。焔莉と楓莉にも同じことが可能らしいと虚空が笑いかければ、ユフィは力なく笑った。

「なんだよ…まだ、死ぬなっていうのか、霜瀬……」

 なぜだか彼に言われているような気分になり、ユフィは俯く。それはそれで、酷い奴だと思いながら。

「お前は俺の目になれ。できるだろ」

 精霊の力であろうが、ユフィと協力すれば琅悸の剣に切れないものはない。あとは敵の姿さえわかればいいのだ。

 攻撃をどうにかするだけならいいが、攻撃をするには位置がわからなければできない。なんとなくでどうにかできる状態ではないのだ。

 その点も、ユフィがいれば問題ない。琅悸は生まれたときからこの精霊といるのだから。

「あぁ……できる……お前の目にならな!」

 笑いかけてくる琅悸を見て、ユフィも笑った。

「さすが相棒だ」

「あったり前だ!」

 似ていると散々思ったが、彼は今日ほど似ていると思ったことはない。

(あぁ…俺、こいつが生きてる間は死ねねぇや。霜瀬と同じこと言いやがる……)

 相棒と呼ぶのも、自分の前で死ぬなというのも同じ。なによりも、惹きつける存在が同じだった。

 背中を見ながら、ユフィはしみじみと実感する。そして、改めて決めた。彼を見届けるまで傍にいようと。

「いくぜ、琅悸」

「あぁ…」

 二人が長年築いていた信頼関係。それを感じさせる戦いが始まった。



 やれやれというように琅悸が剣をしまう。

 生まれたときから精霊といるというのは、案外役立つものだと思えた。姿を見なくても気配を感じ取ることはできる。そこに、目の代わりになってくれる存在がいれば、攻撃することは容易い。

 想像以上に苦労することなく、彼は相手を倒せた。

「ユフィ!」

 ハッとしたように振り返れば、ぐったりと倒れていた。多少なり力を使った反動が身体にきているのだ。

「氷穂さん、歌ってください。巫女の歌なら精霊を癒せるでしょ」

 敵はいなくなったのだから、これなら氷穂が歌っても問題ないはずだろうと柊稀は言う。

「え、えぇ…」

 呪われた精霊に巫女の歌が通じるのか。一抹の不安はあったが、自分が信じなくてはと、氷穂が歌い出す。

 祈るような歌声が響けば、ユフィの姿が少女の風貌に戻っていく。

「ユフィ…」

「……死なねぇよ」

 心配するように琅悸が呼び掛ければ、思っていた以上にしっかりとした声が返ってくる。

「誰かが…あいつと…おんなじこと言うからさ……」

 ゆっくり開かれた瞳は、輝く金色から翳った金色へ変わっていた。力が抑えられた証だ。

「誰かは、彼の子孫だからな」

「そう、だったな…」

 フッと笑うユフィに琅悸も笑う。

 しばらくは歌声を聞いていた。巫女の歌声は精霊である以上、心地よく感じてしまう。

 時折、自分が呪われていることすら忘れてしまうほどに。

「氷穂…もういい……」

「でも…」

 まだ動けるような状態ではない。せめて動けるようになるまでは、と氷穂は思う。

「琅悸、指輪に俺入れてくれ」

「指輪?」

 唐突になにを言うのかと、琅悸は怪訝な表情を浮かべる。指輪に入れてくれと言われても、さすがに意味がわからない。

「そこで休む」

――魔具に封じるのだと考えてもらえれば、大丈夫です――

 李蒼や李黄と同じだと言われれば、なんとなく意味を察した。回復するまで動けないが、最後までついていく。

 彼の中に、琅悸から離れるという選択はない。どのような形でも、ついていければいいのだ。

「どうすればいい?」

 指輪に入れるのは構わないが、どうすればいいのか琅悸でもわからない。やったことはないし、元々そのようなことに使う指輪ではないからだ。

「勝手に入るから、気にすんな」

 そう言うなりユフィは指輪に触れ、姿が薄れていった。

 ゆっくり休め、と小さく指輪に言えば、琅悸は立ち上がる。

「先を急ごう」

「ユフィも、指輪の中じゃないとこで休ませなきゃね」

「あぁ」

 笑いかけてくる柊稀へ、力強く頷く。彼にとって、ユフィは生まれたときから傍にいる家族。自分のことを誰よりも理解し、下手をすれば自分よりも自分のことを知っている存在。

 指輪の中なんて場所ではなく、ちゃんとした場所で休ませてやりたかった。

「あとどれだけいるのかわからないが、蹴散らす」

 今までと違い、琅悸の目付きは鋭くなっている。警戒は怠らないが、のんびり進むつもりもなかった。

「心強いなぁ。マジ、これが終わったらうちで働こうぜ!」

「楽ができそう」

「えっ、いや、それは……」

 天竜王二人の勧誘に、表情が引きつる。

「ダメ! 琅悸は私のです!」

 断れない性格だと知っているだけに、氷穂が慌てたように言えば二人は笑った。

「巫女から奪うのは失敗か」

「みたいだね。有能なのは欲しいのに」

 どこまでが本気で、どこまでが冗談なのかわからない双子に、誰もが苦笑いを浮かべる。

 場の空気が明るくなると、黒耀が先へ行こうと促し、双子が食いついたのは言うまでもない。

 黒耀をおもちゃにするのがこの双子であるから。





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