始まりの竜

朱璃 翼

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六部 最終決戦編

双子の決意2

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 飛狛にすら割り込みを許さない戦いだった。何度吹き飛ばされても、どれだけ攻撃を受けても、二人は動きを止めることはない。

「アハハ! バッカじゃないの! あんたに槍術を教えたのも、あんたに剣術を教えたのも、目の前にいる父親でしょ。勝てるわけないじゃん!」

 三人の戦いを見ながら、笑い声が聞こえてくる。邪教集団の誰かが見ているのだろう。

「うるせぇな…勝てる勝てない? そんな計算はいいんだよ!」

 計算して勝てる相手ではない。最初から勝てないとわかっていて挑んでいる。だからこそ、いつものような計算など必要としていない。

「えぇ…最悪の手はありますから。僕達は、目的のために手段は選びません。そう、父さんから…教わってきたんだよ!」

 一瞬にして夜秋の雰囲気が豹変する。目付きも別人のようになり、目の鋭さが増す。

 怒り狂っていた気持ちが、飛狛の登場で少しばかり落ち着いてきたようだ。二人から怒りの感情は感じられなくなっている。

 冷静さを少し取り戻し、ここから再度攻めるつもりのようだ。

 どれだけ冷静になっても、力量差は縮まらない。双子がどれだけ頑張っても、目の前にいる父親には勝てないのだ。

 冷静さや想いだけでどうにかできる相手ではない。

「飛狛…黙って見ているのか?」

「そんなわけないだろ」

 苛立っている。琅悸の感想はその一言だ。いつも穏やかに笑い冷静な飛狛が、必死に己の感情を抑え込んでいた。

 握り締められた拳は血を流すほどで、二人がどれだけ大切な存在なのかがわかる。だからこその感情もあるのだと。

(気持ちを尊重したい。けれど、というとこか。実力差を理解しているからこそ、余計だな。これは、なにかあればすぐに動くか)

 双子を死なせるという選択技は、彼には絶対にないと言い切れた。たとえ後でなにを言われたとしても、やばくなれば手を出すつもりだとわかる。

 結果として、三人の関係が壊れてしまっても。それでも、飛狛は動くだろう。大切な双子を死なせないために。

 ならば、自分もそのつもりで待機しよう。双子のことを誰よりも理解し、大切にしている飛狛だから、彼が動くまでは手を出さない。琅悸はすべての判断を彼に任せた。

 全員に伝えるよう視線だけで語りかければ、察してくれたようだ。

 迷うような表情は見せたが、飛狛が動かないなら自分達も見守ろうと頷いた。双子の戦いを――――。




 何度も弾かれながら、夜秋と秋星は幼い頃を思いだす。父親から教わっていた頃のこと。

「精霊石を育てる?」

「石が育つのか?」

 それは五歳のときのことだった。誕生日にひとつの石を渡された。

 見た目は特に変わった物ではない。ただの石にすら見えたほど、それは普通の石。

「少し早いんだけどな、お前らにはいつか必要になる物だ」

 今思えば、父親はこの道を選ぶと気付いていたのかもしれない。いや、望んでいたと言うべきだろう。誰よりも魔法槍士というものを理解していた父親だからこそ、自分達がこうなることを望んだ。

 だからそのために必要な物を少しずつ、それとなく与えていった。

「精霊石は、一番武器にするのが難しい代物だ。だが、その分だけ自分に合った武器も作れるようになる」

「ふーん。父ちゃんが言うんだから、そうなんだろな」

「ただの石にしか見えないけどね」

「だな」

 魔法槍士の後継者と同じように精霊石を与え、知識を教え、判断力をつけさせる。技術すらも、同等のものを教えたのだ。

 すべては、双子の特殊な立場から成せること。

 この双子は極めて特殊な立ち位置となっていた。魔法槍士の息子という立場にあり、継ぐ可能性を持っている存在。

 けれど、決して継ぐことはないと本人達も理解していた。理解していないのは、周囲の大人達だ。

「あれが飛朱殿の弟か」

「つまり、紅飛殿の息子。どちらも魔法槍士として申し分ない」

「いやはや、あの頼りない子よりいいのではないか」

「さすが、紅飛殿の息子だ」

 そんな言葉を聞いたのは、竜王山に行ったとき。自分達を強いと言う愚かな大人の言葉だ。

 飛狛になにかあれば、可能性はあったかもしれない立場。飛狛が後継者として公表されていなかったからこその立場。

 だからこそ、魔法槍士と同じものを得ることができる。与えても問題がないと、父親は利用していたのだ。

 さりげなく飛狛との交流をとらせたのも、どのような意味があってかわかっていた。

 友人のいない飛狛のため。親元から離れて暮らす飛狛のため。友人になれて、血族である存在として二人は最適だったのだ。

 双子は賢い子供だった。幼いながらに、飛狛がいつも一人なのにも気付いていたし、姉が自分達と息子への扱いが違うのも知っていた。

 立場がなにか違うのだと、初めから察していたのだ。

 そして、そんな環境であって自分達はなにをしてもいい。抜け道なのだということも。

「お父さん、ダメだったかな?」

「飛狛が来るなら、俺らも来るに決まってんじゃん。父ちゃんならわかってたんだろ」

 世界統合のためベル・ロードへ行った際、援軍として勝手についていった二人。父親は嬉しそうに笑った。

「いや、それでいい」

 褒めてくれることは滅多にない。双子は魔法槍士と同じ教育を受けていたことから、父親は褒めることをしなかったのだ。

 そんな父親が褒めてくれた。嬉しい気持ちになった反面、一人でぽつんといる少年が二人の脳裏に焼き付く。

 槍を握り締め、孤独に耐える少年の姿が。己の立場を理解し、誰よりも前で戦おうとする幼い少年が、ほっとけないと思えた。

「夜秋…」

「同じ、考えだね……」

「みたいだな」

 このとき、二人は決めたのだ。自分達が進む道は、飛狛と共にするのだと。

 自分達の意思で決めた。父親が望むからではなく、父親に褒められたいからでもなく、飛狛のためになにかしたいと思ったから。





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