始まりの竜

朱璃 翼

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五部 氷鬼なる琅悸編

ひとときの休息

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 すべての仲間が揃い、すべての神具が手元に揃った。怪我が治れば決戦だと意気込む彼らがいるのは、竜王山ではなかった。

「なぁ、未来の物って持ち帰り禁止か?」

「はい?」

 露店を見ていた秋星は、ぼそりと呟く。なにを言い出すのかと夜秋が見れば、飛狛も苦笑い。

「いい石だなぁ……」

「確かに…」

「同意しないでください」

 覗き込み、飛狛も品揃いに納得する。これなら彼が欲しがるはずだ。

「ダメか?」

「僕に聞かないでください。飛狛に聞いて」

 投げやりに丸投げすると、飛狛は露店をじっと見る。判断に迷っているのか、影響がないか見ているのか。

 秋星が答えを待つようにかわいい甥を見る。

「俺、あの石がいいな。秋星、作れる?」

「へっ…あぁ、かまわねぇよ」

 悩む中身が違ったようだ。どれにしようか選んでいたと知り、二人とも反応が遅れた。

「で、お前はどれにする?」

「……まったく」

 仕方ないと言いながらしっかりと選ぶことは忘れないから、なにも言えない。

 露店での買い物を終えれば、そのまま町を堪能する。今日ばかりは息抜きだと遊ぶ気だ。

「ここ、向こうもこんな感じか? 俺、来た覚えがねぇけど」

 温泉が売りの町なら、過去の世界でも噂程度で知っていた。しかし、あるのがセーベル地方のため、基本的に竜族は関わらない。

「たぶんそうかな」

 魔法槍士でも鳥獣族には関りがないのは同じこと。さすがに詳しくない。

「はく兄さんがよく使ってるから、詳しいはずだよ」

「はく兄さんが? 知りませんでしたね」

 休暇をたまにとっているのは知っていたが、ここまで来ているなど考えないだろう。

 けれど、穴場だとも思った。なにせ、鳥獣族とは一定の距離を置いている。天竜王がいたとしてもそっとしておいてくれるだろうし、顔が知られていない可能性の方が高い。

「帰ったら聞いてみよ。家族サービスには最適な場所だよな」

 どうやら気に入ったらしく、秋星はルンルンで辺りを見ている。

 忙しい日々ながら、家族サービスを忘れないのが彼だ。普段から仕事をしながら、出掛けるのにいい場所をチェックしているのだ。

 ちゃっかりしているとは夜秋の言葉で、飛狛は便乗していたりする。

「やれやれ、帰っても休みはないですよ」

 今が休暇中なのだからと言われてしまえば、秋星はなにも言えなかった。



 宿の一室でひたすら仕事をするのは星霜である。相変わらず、文句を言いながら書類と睨めっこ。

 そして、非常に苛々していた。

「星霜様、お茶いりますか?」

「あぁ…ってか、その星霜様やめろって」

「でも…お兄ちゃんが」

「堅物が……。俺がいいって言ってんだよ」

 そう、苛々の原因はこれだ。何度言ってもやめてもらえない様付け。出会った頃のようにしろと、いくら言ってもダメなのだ。

 そしてもうひとつ、この少女が恐ろしく鈍感なこと。

「……ハァ。出掛けるか」

「いいのですか?」

「いいんだよ。みんな遊んでるんだろ」

 なんで自分だけ仕事をしなきゃいけないんだ、と文句を言いながら立ち上がる。

 半身ですらどこかに行っているのだから、自分もいいだろう。

「ほら、いくぞ」

「は、はい」

 当たり前のように莱緋へ声をかけ、そのまま連れていく。

 そんな二人を見ながら、莱輝は複雑そうにしていた。妹を託していいのか悩んでいるのだ。

 町へ出てみれば、見たこともない風景に莱緋は珍しそうにしている。

 天使族の里から出たことがない少女は、見るものすべてが珍しいのだ。そんな少女を見て、星霜も笑みを浮かべる。

 息抜きと思っていたが、実際は彼女のために連れ出したのだ。

「星霜様! あの、その……」

 勢いよく呼び掛け、口ごもる。言いづらそうにする理由は、背後を見ればすぐさまわかるというもの。

「行ってこいよ。買いたいものがあるんだろ」

「はい!」

 嬉しそうに駆け出す姿を見て、星霜はのんびりと歩く。

(ほんと、買い物好きだよな。何人か買い物に付き合わされたが、どこがいいんだか)

 特に興味のあるものがない星霜としては、買い物好きが理解不能だった。付き合わされるのも面倒だと思ったが、不思議なことに今はそうでもない。

 惚れた相手なら苦にならないのだと、新しいことを実感した。



 待たせてはいけないと、莱緋はすぐさま目当てのお店へ入り買い物をする。そこは雑貨のお店で、買ったのは新しいインク。

 言わずとも、自分のためではない。

 店を出ればゆっくり歩いてくる星霜が見え、ホッとしたのも束の間のこと。急に誰かに身体を引っ張られた。

 前へ歩き出そうとしていた莱緋の身体は、あっさりと誰かの腕の中へ。

 慌てたように突き飛ばした。

「見慣れない子だな」

「かわいくていいじゃん。特徴は少し違うが、翼あるし鳥獣なんだろ」

「だよなぁ。怪我してんの? なら飛べないよなぁ」

 二人の男が嫌な笑顔で見ている。自分の置かれた状況を判断し、莱緋は怯えた。

 大人相手に戦う力はない。魔法は制御が下手なため、使えば周りを巻き込む。翼は完治してないため、飛ぶこともできない。

 少女は泣きそうになりながら後ずさった。

「おい、なにやってんだよ」

 そこへ、とてつもなく不機嫌な声が響く。声だけではない。表情にもあからさまに出して、星霜は立っていた。

 事態に気付いて駆け付けたのだろう。そうでなければ、まだ距離があったはずなのだ。

「なんだよ」

「これは俺らの獲物だぜ」

 獲物と聞いた瞬間、眉がピクリと動く。嫌悪を示したのだ。

 そして、ブチリとなにかが切れる。





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