始まりの竜

朱璃 翼

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四部 朱華と華朱編

荒れ狂う獣神2

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 二本の尻尾を切り落とされた九兎が、咆哮をあげながら攻撃をする。金色の魔法陣から無差別に放たれ、誰も近寄ることができない。

 怒るような咆哮に華朱は意識を取り戻した。

――気付かれましたか――

「誰……」

 見知らぬ男性がいる。華朱は警戒するように見た。

――魔法槍士に仕えている魔道生物ですよ――

 柔らかく微笑む男性から敵意は感じない。なによりも、魔法槍士に仕えるということが、警戒心を解かせる。

――動けるようでしたら、お願いがあります。あなたなら九兎を止められます――

「九兎…」

 暴れる黒い獣。それが自分の影響だと瞬時に悟ることができたのは、さすがと言うべきか。

――朱獣剣しゅじゅうけん、持っていますよね――

「持って…ます……」

 なぜだかわからないが、気がついたときには持っていた短剣。ピンク色の可愛い獣と出会わせてくれた、華朱には大切な物。

 魔法槍士に仕える魔道生物は、朱獣剣についての知識を与える。なぜ詳しいのかということよりも、今は助けたい。

 彼女にとって、多くの魔道生物と出会わせたのが九兎の存在である。

――やれますか?――

「やれるわ」

 しっかりと自分の足で立ち上がると、懐から短剣を取り出す。

 目を閉じ、深呼吸を一回。カッと目を開き、細めると同時に精霊眼は発動した。

 魔力の不足から少しばかり不安定さを感じていれば、華朱は干渉する力を感じる。

「意識を集中して。不足分は補ってあげるけど、手を貸すのはそれだけだ。やるのは君だよ。前を見て!」

 誰なのかわかった瞬間、振り返りそうになったがそれを飛狛が止めた。今は九兎が先だと言うように。

 そう、華朱の精霊眼に干渉したのは、同じ精霊眼を持つ飛狛。

 背後から感じる威圧に華朱は冷や汗が流れるのを感じる。自分はこんなのを殺そうとしていたのかと。

 精霊眼の扱いには自信があった。けれど、華朱ですら他人の精霊眼に干渉などできない。

 それだけ、後ろに立つ過去の魔法槍士が強いということだ。

(代を重ね、確かに過去より威力は下がるのかもしれない。けど、そんな次元じゃない。彼は……普通じゃない!)

 なにかが違うのだと気付けたのは精霊眼を持つから。そうでなければ、気付けなかっただろう。

「集中しろ!」

 飛狛の声にハッと我に返る。今は彼のことを考えている場合ではない。

 元に戻すのだ。自分の可愛い友人を助ける。

 華朱は短剣へ意識を集中した。魔力を集め、九兎へ干渉していく。この短剣は、唯一九兎へ干渉できる物なのだ。

 なにかあった際、九兎を制御するための物。制御できるよう細工が施された物。

(ごめんね。苦しかったよね……)

 自分の憎しみを注いでしまった。罠にはまってしまった。

 今ならハッキリとわかる。自分はなんらかの罠にはまってしまったのだと。

(帰っておいで、九兎)

 気持ちの整理はまだつかない。けれど、大切な友達を巻き込むのは嫌だった。

 短剣が輝き出すと九兎の周りに魔法陣が現れ、閉じ込めた。

 周りから見ればなにが起きているのかわからなかったが、飛狛にはハッキリと変化が見えていた。

 ゆっくり、確実になだめていく。暴れていた黒い獣が落ち着きを取り戻し、瞳が金色に変わった。

 じっと金色の瞳が華朱を見る。華朱も金色の瞳で九兎を見る。

 華朱と九兎の中で対話が続く。誰にもわからない、けれど飛狛だけが聞いていた対話。

 もう大丈夫だと思ったのか、飛狛がふっと笑みを浮かべるのと尻尾の先からピンク色に変わるのは同時。

 光が九兎を包み、黒かった毛色がピンク色に変わり、身体が小さくなった。

「戻ったか……」

 やれやれと李黄が息を吐き、李蒼も安心したように警戒を解く。

「ふきゅ?」

「その鳴き声、腹が立つ! 食うぞうさぎ!」

「落ち着け、李黄。第一、食っても不味そうだ」

 覚えていないのかキョロキョロと周りを見る姿に、誰もが李黄に同意したくなった。





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