始まりの竜

朱璃 翼

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四部 朱華と華朱編

造られた家族2

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 三人は間違いなく家族であり、間違いなく自分達の意思を持っている。

 二人の王が目を合わせ、頷き合う。陽霜が黒耀へ視線を向ければ、異論はないというように魔法槍士が頷く。

 三人ともが視線だけで語り合い、同意見だと確認し合ったのだ。

「僕達は、あなた方を罰したりしない。今は善良な民だからね」

「あんたらは間違いなく家族だよ。ちゃんと子を思う親と、親を思う子。俺らとなんら変わらねぇ」

 どう判断されるか気にしていた仲間達は、ホッとしたように息を吐く。

 柊稀の想いがあり朱華は受け入れられたが、両親まではわからない。その先は天竜王と魔法槍士が、害はないと判断するかにかかっていたから。

「まぁ、納得できねぇって言うなら、このままあんたらが村にいること。火竜族の族長夫婦を演じ続けることが罰だな」

 笑いながら言う星霜に、二人は頷いた。

「演じ続けよう。村人のために」

 このまま騙し続けること。それがなによりも辛い罰になるだろうと。

「柊稀…これがわかるか……」

 髪を垂らすことで隠されていた首筋の傷跡。まさか、というようにライザを見る。

「お前の父親が、あのとき付けた傷だ」

「父さん……」

「造られた身体でなければ、間違いなく死んでいた。子を護る親の強さを知った。痛みなど感じない身体だが、酷く痛んだ。お前を庇う朱華を見たとき、私達はこの子を本当の娘として見られるようになった」

 あの瞬間、二人は自分達の中にある感情に気付いてしまった。だからこそ悩んだ。

 このまま邪教集団にいること。それがいいことなのか悩み続けた。

 心に鋭い痛みを感じながら、朱華が駆り出されるまで悩んでいたのだ。

「すまないことをした。そして、礼を言わせてくれ。ありがとう」

「あちらからしたら欠陥かもしれない。けど、私達は大切なものをたくさん得たわ。ありがとう」

 父親の死は悲しかったが、その死が無駄にならなかったことは嬉しく感じた。

 造られ、物のように扱われた二人を救ったのだから。

「話が終わったなら、しめった空気はやめようぜ!」

 空気に耐えられないとユフィが騒ぎ出せば、一同苦笑いするしかない。

 しかし、彼のこの性格はありがたくもある。場の空気があっという間に明るくなるのだから。

「楽しいのが一番だろ!」

「そりゃそうだ! ユフィをいたぶって遊ぶか!」

「なんで俺!?」

 乗っかるのは秋星。昔馴染みとあって彼は容赦ない。

 その掛け合いがまた楽しいのかもしれないが、飛狛と夜秋は頭を抱えている。うるさすぎるコンビに。

「うるさかったら、追い出していいですからね」

「いや、むしろ、庭の木に逆さで吊るしても構わないよ」

 にっこりと笑う夜秋に、うんざりとしたように言う飛狛。さすがのライザも、これには声を上げて笑った。

 本来は口数が少ないと知っているだけに、ミルダは珍しいものだと思ったほど。



 用件を済ませると柊稀は家へ帰った。他の仲間は族長宅に部屋を借りるが、彼には母親が待つ家がある。

 村にいる間は家にいるべきだと言われ、急いで帰宅した。

「ただいまー!」

「柊稀、お帰りなさい。柏羅ちゃんも」

「あっ…」

 姿も変わり少し不安がっていた柏羅も、名前を呼ばれた瞬間に嬉しそうにする。彼女にとって、ここはすでに大切な家となりつつあった。

「ただいま、お母さん」

 ただいま。この一言を言えることが、どれほど嬉しいことか。始祖竜としてすべてを取り戻した柏羅は、待っている人がいて、帰る場所があることがとても嬉しかった。

「ふふっ。お帰りなさい」

 なにも聞かず、母親は微笑んだ。これが母親というものなのかもしれない。柊稀はそんなことを考えた。

「少し、男らしくなったかしら。それだけの経験をしたのね」

「うん…」

「でも、まだ終わっていない。なら、しっかりとやりなさい」

「うん!」

 こんなものを村で見続ければ、造られた存在でも変わっていくのかもしれない。

 あの夫婦を変えたのは、本来の族長夫妻の記憶だけではないのだろう。環境も影響があったのだ。

 母親に促されるままリビングへ入れば、懐かしい気持ちが溢れてくる。帰ってきたと気持ちが安らぐ。

 これほど自宅が落ち着くなんて、こんなことがなければ気付かなかっただろう。

「お母さん、今の事情はわからないけど。きっとこうなる運命だったのね。あなたが、私達の元へ来たときから」

「えっ?」

 微笑む母親はどこか寂しそうにも見えた。

 すっかり男らしくなり、どこか遠くに感じたのだ。いいことなのに、彼女には素直に喜べない。

「今のあなたになら、言っても構わないでしょう。柊稀、あなたは……私達の子供じゃないの」

 衝撃的な告白に柊稀の動きが止まる。柏羅はなにか知っているのか、その瞬間俯く。

 始祖竜の本能を取り戻し、柊稀がどんな存在なのか気付いていたのだ。だからこそ、無意識に彼の元へ行ったのだということも。





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