始まりの竜

朱璃 翼

文字の大きさ
上 下
70 / 174
三部 神具編

凍てついた心3

しおりを挟む
 剣を重ねながら、琅悸は自分が表に出るよう、彼に誘導されたのだと気付く。はじめから自分を狙っていたのだと。

 過去でどのようなやり取りがあったかわからないが、間違いなく自分という存在を聞かされていたのだろう。過去で立てられた推測が当たれば、地の神具は自分だと、知った上での行動。

 掌の上で踊らされていた事実に、少しばかり腹が立つ。

 二人の戦いは激しく、手を出すなと言われなくとも、とてもじゃないが入り込めない。

 霜瀬は強いと知らされていたが、琅悸がここまでやるとは思わなかったのだ。

 仲間達は驚いたように見ている。

「あのままだと、勝てねぇな」

「そうですね。彼が、あの型をやめないと」

 真剣な眼差しで見ていた双子は、冷静に判断した。あれでは勝てないと。

「なるほど、ね。あれは、殺す剣だ。でも、殺す剣で護れるわけがない。それに、迷いが酷いな」

「えっ?」

 飛狛の言葉に、誰もが琅悸の攻撃を見る。迷いが酷い、とはどういうことなのか。彼のどこに迷いがあるのか。

 剣を見ただけでは、意味がわからなかった。

「琅悸……」

 そんな中、両手を握り締め祈るように見守る氷穂。

 昔を知るからこそ、彼女も気付いていた。彼の剣が変わっていることに。

(私がいけないの?)

 戦う姿を見ながら、氷穂は思う。フェンデの巫女護衛になってしまったから、彼は変わってしまったのだろうか。彼から自由を奪い、冷徹な護衛にしてしまったのかもしれない。

 そんなことを考えずにはいられなかった。

 剣が微かにぶれる。自分でもわかっているからこそ、そんな自分に苛立つ。心は激しく揺れ動き、止まらない。

 これは今に限らず、ずっとだ。今までずっと、揺れたまま戦ってきた。

「迷いすぎだ」

「……っ」

 小さく呟かれた言葉は鋭く突き刺さり、琅悸の心を刺激した。

 常に冷静にしていた心がざわつく。瞳に苛立ちが沸き上がり、力強く剣を振る。

 わかりやすく斬りつけた剣など、あっさりと避けられた。外れた一撃は大地を切り裂くほどの威力で、直撃すれば骨が簡単に折れてしまうだろう。

「ハァ…ハァ……」

「んー、これ……引き継がれてるのか」

「引き継がれてるぜ。兄妹そろってな」

 苦笑いを浮かべる霜瀬へ、嫌そうな表情で答えるユフィ。魔力を使っての馬鹿力な攻撃。始まりは彼からなだけに、傍迷惑だったりもする。

 視線で訴える精霊に、霜瀬は視線を逸らす。引き継がれるとは、考えていなかったのだ。

 いざ自分がやられてみると、被害者の気分が理解できた。これは嫌がられるはずだと。

 しかし、彼だからこそわかることがある。

(似ている、のか。俺がこの性格だったら、こうなったのか)

 チラリと背後へ視線を向けた。仲間を見て回れば、飛狛と視線が絡む。

(なるほど)

 視線での会話。彼が誰を大切にしているのか、それを飛狛の視線が霜瀬へ教える。

 今の彼は足止めをするのは容易い。二人の刃が交じり合い、冷気が溢れ出す。

 次の瞬間、異変を感じた琅悸が驚くほどの素早さで動く。

「琅悸!」

「霜瀬! お前!」

 まさか氷穂を狙うとは思わなかったのだ。彼には意思があるのだから、戦闘に向かない者を狙うはずがない。

 そんな油断がユフィにはあった。琅悸が間に合わなければ、彼女は間違いなく氷に飲まれていただろう。

「忘れたか、ユフィ。俺は……目的のためなら手段は選ばない。さぁ、その怪我でどこまでやれるかな」

「くっ…」

 血が草を染めるように落ちていく。右肩を完全にやられてしまったのか、剣を握る手にも力がうまく入らなくなっていた。





.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

魔心を持つ大賢者の周りの子~一度出直して来いって本気?

3・T・Orion
ファンタジー
魔力吹き荒れ大地揺るがす災禍の後。 世界を動かす大賢者の1人と関わり…憧れ…付いていきたいと願った少年。 世界の進む方向を決めるような土壇場でも、大賢者達の周りで何となく仲間として共にあり…何となく近くで戦ったりもしてきた。 ちゃんと貢献はした気がするけれど…1年後、少年から青年に変化しつつある時に、付き従う大賢者から突然宣告を受ける。 "実家に帰れ" …と。 何となく付き従ってきた大賢者であり国王でもある少年の主からの指示は、自分の意志で進む道を選び決める事だった。 同じ様に進むべき道に悩む少女を伴い…少年自身の出発点となる実家ある樹海への旅立ちを促され "選択" へと導かれる。 だが状況を理解しているのか…してないのか、心配になるような空気読み損ねるお気楽もの…果たして心定め決断することは出来るのか。 ※小説家になろうさんに出した魔輝石探索譚のおまけ話 "振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩" です。長めになってしまったので、切り取って加筆して外伝として立ち上げてみました。 おまけ話の主人公達は、元話の魔輝石探索譚では第2章の途中から出てきます。 此処のおまけ話は此処だけのものです。

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。 神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。 どうやら、食料事情がよくないらしい。 俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと! そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。 これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。 しかし、それが意味するところは……。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...