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三部 神具編
隠された神殿
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黒蒼殿――黒竜族の神殿であり、神具を保管している場。そのため一般公開はせず、特殊な結界で隠されている。誰も知らないどころか、天竜王すらその所在地は知らない場所だ。
魔法槍士に仕える魔道生物に乗り、レジーナで一泊してから神殿へ。
「異様な雰囲気だ。これが、推定されている事態か」
黒耀ですら初めて来る神殿は、見たことがなくても異様だとわかる。感じたこともないほど強い力が溢れているのだ。
――そうです。これが、各地で起きているはずです――
意味深く言う黒欧に、黒耀がハッとしたように見る。感じる力と各地という意味で、なにが起きているのかわかったのだ。
「ここにはなにが?」
「神具だ。神が与えた武器。とてつもない力を持つ武器で、黒蒼殿には黒狩槍という、初代黒竜王に神が与えた闇の神具が保管されている」
身体になにかがまとわりつくような不快感を覚えながら、二人は神殿へ入っていく。中に入れば、、異様さは柊稀にも感じることができた。
昔は様々な仕掛けがされていたが、今はすべて解除されている。入る者を制限していないのだ。
仮に制限していても、魔法槍士以外は場所を知らなければ入ることすらできないので、問題はないとされていた。
しばらく歩いていると、突然黒耀の動きが止まった。周囲を見渡し、怪訝そうな表情を浮かべる。
「どうかしましたか?」
「おかしい。ここは魔法槍士しか知らない場所なのだ。だが、誰かが中へ入っている」
侵入した形跡があると言う。微かだが、魔力の残り香みたいなものだと。
さすがに柊稀にはわからなかったが、一番わかりやすいものだと黒耀が光を足元に照らす。
すると、よく見てみれば微かに光を反射する。黒耀が分かりやすく見せてくれたのだ。
「すごいな。精霊眼だから見えるの? あ、見えるんですか?」
「フッ…敬語じゃなくていい。これぐらいなら、精霊眼でなくても見える」
訓練すれば見られるようになるのだと彼は言った。
――柊稀殿なら、できるようになりますよ。飛狛殿の槍が見えていましたからね――
「えっ?」
それがどう繋がるのかより、それがどういう意味なのかのほうが気になった。
柊稀は気付いていなかったのだ。飛狛が幻惑を使うことに。
――歴代の魔法槍士を見ても、あれほどの幻惑使いはいませんよ――
「知らなかった」
手合わせをするときは、今までにないぐらい集中していた。だから気付くことがなかったのかもしれない。
もう一度、進む道を見てみた。集中して見てみれば、微かにだが光が見える。
「光が見えた! あれが残り香?」
「そうだ。いい目をしているみたいだな」
「自分でもびっくりだよ」
今はあるとわかっていたから、見られたのだとわかっている。これが、鍛えれば黒耀のようになるかもしれない。
新しい発見に、頑張るぞと内心気合いをいれた。
「足元の残り香を見ると、女性のようだな」
「んん?」
足跡のように分かりやすくあるならまだしも、そうではない。なぜ女性と言えるのか。
――……女性です。それも――
言葉を濁らせる姿を見て、二人は顔を見合わせる。どうも黒欧はわかっているようだ。この先にいる人物を。
先へと促す黒欧に従い、二人は進むことにした。彼がなにを気にしているのかは、奥に進めばわかる。
「これは……」
広い空間へ到着すれば一人の女性が立っていた。後ろ姿だが、赤混じりの黒髪を見た瞬間、二人は嫌な予感を感じる。
赤混じりの黒髪が、過去で出会った魔法槍士や補佐官を思いださせたのだ。
また、黒耀は違う意味で嫌なものを感じていた。髪色はもちろん気になっていたが、それよりも気になっていたのは相棒の反応。
彼が見せていた不快感と、目の前に立っている女性。考えられるのは魔法槍士。
「黒欧、まさか……」
――その、まさかです。彼女は十四代目天竜王に仕えていた魔法槍士、飛朱殿。黒狩槍の最後の使い手です。柊稀殿、あなたが会った飛狛殿の母親です――
苦々しく言われた言葉に、二人は言葉を失う。
振り向いた女性を見れば、飛狛と似た顔立ちに事実なのだと知る。違うことがあるとすれば、驚くほど冷ややかな目をしていること。
とてもきれいな女性なのに、目付きだけでイメージは一転する。
「黒狩槍!」
本来この場にいるはずのない女性、飛朱の手には、禍々しい力を宿した槍が握られていた。
黒耀にはそれが神具なのだと感じ取れたが、逆にこれほど禍々しい物が神具なのかと疑いたくもなる。
――来ます!――
戦闘体制に入る暇もなく、飛朱は突っ込んでくる。どうやら問答無用で攻撃をしてくるようだ。
「話をする前に、まずは彼女を止めるしかない!」
「は、はい!」
なんとか一撃目を黒耀が止め、柊稀は戦闘体制に入る。剣を抜き呼吸を整え、気持ちを落ち着かせた。
冷静になれと教えてくれたのは、過去で出会った三人。
「無理はしなくていい。実戦経験は少ないようだしな」
「あ、あはは」
(バレてるのかぁ)
どうしてバレバレなのか。わかりやすい性格なのかもしれないと、彼は気付かされた。
それとも、そう思われるほど自分は弱そうに見えているのか。どちらもなのだろうと考え直す。
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魔法槍士に仕える魔道生物に乗り、レジーナで一泊してから神殿へ。
「異様な雰囲気だ。これが、推定されている事態か」
黒耀ですら初めて来る神殿は、見たことがなくても異様だとわかる。感じたこともないほど強い力が溢れているのだ。
――そうです。これが、各地で起きているはずです――
意味深く言う黒欧に、黒耀がハッとしたように見る。感じる力と各地という意味で、なにが起きているのかわかったのだ。
「ここにはなにが?」
「神具だ。神が与えた武器。とてつもない力を持つ武器で、黒蒼殿には黒狩槍という、初代黒竜王に神が与えた闇の神具が保管されている」
身体になにかがまとわりつくような不快感を覚えながら、二人は神殿へ入っていく。中に入れば、、異様さは柊稀にも感じることができた。
昔は様々な仕掛けがされていたが、今はすべて解除されている。入る者を制限していないのだ。
仮に制限していても、魔法槍士以外は場所を知らなければ入ることすらできないので、問題はないとされていた。
しばらく歩いていると、突然黒耀の動きが止まった。周囲を見渡し、怪訝そうな表情を浮かべる。
「どうかしましたか?」
「おかしい。ここは魔法槍士しか知らない場所なのだ。だが、誰かが中へ入っている」
侵入した形跡があると言う。微かだが、魔力の残り香みたいなものだと。
さすがに柊稀にはわからなかったが、一番わかりやすいものだと黒耀が光を足元に照らす。
すると、よく見てみれば微かに光を反射する。黒耀が分かりやすく見せてくれたのだ。
「すごいな。精霊眼だから見えるの? あ、見えるんですか?」
「フッ…敬語じゃなくていい。これぐらいなら、精霊眼でなくても見える」
訓練すれば見られるようになるのだと彼は言った。
――柊稀殿なら、できるようになりますよ。飛狛殿の槍が見えていましたからね――
「えっ?」
それがどう繋がるのかより、それがどういう意味なのかのほうが気になった。
柊稀は気付いていなかったのだ。飛狛が幻惑を使うことに。
――歴代の魔法槍士を見ても、あれほどの幻惑使いはいませんよ――
「知らなかった」
手合わせをするときは、今までにないぐらい集中していた。だから気付くことがなかったのかもしれない。
もう一度、進む道を見てみた。集中して見てみれば、微かにだが光が見える。
「光が見えた! あれが残り香?」
「そうだ。いい目をしているみたいだな」
「自分でもびっくりだよ」
今はあるとわかっていたから、見られたのだとわかっている。これが、鍛えれば黒耀のようになるかもしれない。
新しい発見に、頑張るぞと内心気合いをいれた。
「足元の残り香を見ると、女性のようだな」
「んん?」
足跡のように分かりやすくあるならまだしも、そうではない。なぜ女性と言えるのか。
――……女性です。それも――
言葉を濁らせる姿を見て、二人は顔を見合わせる。どうも黒欧はわかっているようだ。この先にいる人物を。
先へと促す黒欧に従い、二人は進むことにした。彼がなにを気にしているのかは、奥に進めばわかる。
「これは……」
広い空間へ到着すれば一人の女性が立っていた。後ろ姿だが、赤混じりの黒髪を見た瞬間、二人は嫌な予感を感じる。
赤混じりの黒髪が、過去で出会った魔法槍士や補佐官を思いださせたのだ。
また、黒耀は違う意味で嫌なものを感じていた。髪色はもちろん気になっていたが、それよりも気になっていたのは相棒の反応。
彼が見せていた不快感と、目の前に立っている女性。考えられるのは魔法槍士。
「黒欧、まさか……」
――その、まさかです。彼女は十四代目天竜王に仕えていた魔法槍士、飛朱殿。黒狩槍の最後の使い手です。柊稀殿、あなたが会った飛狛殿の母親です――
苦々しく言われた言葉に、二人は言葉を失う。
振り向いた女性を見れば、飛狛と似た顔立ちに事実なのだと知る。違うことがあるとすれば、驚くほど冷ややかな目をしていること。
とてもきれいな女性なのに、目付きだけでイメージは一転する。
「黒狩槍!」
本来この場にいるはずのない女性、飛朱の手には、禍々しい力を宿した槍が握られていた。
黒耀にはそれが神具なのだと感じ取れたが、逆にこれほど禍々しい物が神具なのかと疑いたくもなる。
――来ます!――
戦闘体制に入る暇もなく、飛朱は突っ込んでくる。どうやら問答無用で攻撃をしてくるようだ。
「話をする前に、まずは彼女を止めるしかない!」
「は、はい!」
なんとか一撃目を黒耀が止め、柊稀は戦闘体制に入る。剣を抜き呼吸を整え、気持ちを落ち着かせた。
冷静になれと教えてくれたのは、過去で出会った三人。
「無理はしなくていい。実戦経験は少ないようだしな」
「あ、あはは」
(バレてるのかぁ)
どうしてバレバレなのか。わかりやすい性格なのかもしれないと、彼は気付かされた。
それとも、そう思われるほど自分は弱そうに見えているのか。どちらもなのだろうと考え直す。
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