始まりの竜

朱璃 翼

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二部 過去編

過去での一時2

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 三日の休暇を終えれば、飛狛は出掛けていった。考えが合っているのかを確認するためだ。

 柊稀はといえば、秋星との手合わせをしながら、夜秋が持ってきた本との格闘。

 文字が読めたのは奇跡に近いとまで二人に言われたが、あの村ではみんな読めたのだ。

 確かに、小さな村だと読み書きができないのも珍しくないのだが。

「そういえば、僕らがいた頃からそうでしたね」

「あぁ。俺ら気にしてなかったけどな」

 父親から読み書きどころか、古代文字までしっかりと教わっていた。その関係で気にしたこともなかったのだ。

「お父さん、どんな方?」

「親父? よくわかんねぇ」

 笑いながら言うから危うく聞き逃しそうになったが、柊稀は彼の言葉を聞き間違えたかと思った。

 自分の父親をよくわからないと、彼は笑いながら言うのだ。そう思ってもおかしくない。

 ずいぶんとおかしな表情をしていたのだろう。柊稀を見て、秋星は笑った。

「すみません。でも、事実なんですよ。父さんは先々代の魔法槍士だったんですが、考えが読めないというか」

「現役のときはもっとだったらしいが、引退してもさっぱりだ」

「飛狛ですらわからないらしいですからね。特殊な人だと思ってください」

 目の前にいる二人も十分特殊な人だとは、さすがに言えなかった。おそらくだが、本人達には自覚がないのだろう。

 しかし、飛狛やこの二人が特殊と思う人物とは、一体どのような人物なのか。少しばかり気になった。

「飛狛が特殊なのかもしれねぇがな」

「あぁ、そうかもしれませんね。それ以前はわかりませんし」

「普通に、見えますよ」

 穏やかないい青年だと柊稀は思っていた。

「それが特殊なんだよ」

「畏怖を与える絶対の監視者が、あんな穏やかなわけないでしょ」

「あぁ…」

 なるほど、と納得。恐怖の存在として名前を広げる魔法槍士が、あんなに穏やかなはずがない。

 歴代でみれば特殊なのは彼の方なのかもしれない。

「さぁて、勉強のあとは身体を動かさねぇとな!」

 あまりにも生き生きと言われ、柊稀は言葉に詰まる。

「あなたがやりたいだけでしょ」

「まぁな。残りわずかだしな……」

 この生活も、もうすぐ終わる。やっと馴染んだと思えば、未来に帰るときはもうすぐだ。

「明日には飛狛が戻る。さっきはく兄に連絡があったらしい」

 飛狛が戻ってくれば、帰る方法がわかったということ。柊稀と柏羅は帰らなくてはいけない。自分達の時代へと。

「あっちの仲間が待ってるだろ」

「うん…知り合ったばかりだけどね」

「でも、仲間だ」

 知り合ったばかりでも、仲間には変わりない。彼らは邪教集団と戦い、柏羅を護ろうとしているのだから。

「今日は手加減しねぇぞ。なんせ、最後だからな」

 ニヤリと笑うと、秋星は中庭へ向かった。

「では、僕は見学しますかね」

「私も見学します!」

 少女は夜秋と手を繋ぐと、早くと言うように柊稀を見る。

「行こうか」

 そんな少女に答え、柊稀は笑みを浮かべた。




 翌日、昼を過ぎた頃に飛狛は戻ってきた。その手に一本の槍を持って。

 帰りは火炎山という山から帰る。次元を越えることが出来る、と言われている山だ。

「確認してみたら、あの山の力とこの槍で可能みたいだ。同じ年数に戻せるけど、日付まではぴったりにできないかもしれない」

 正確な日時に帰るのは、さすがに厳しい。ただし、なるべく誤差はださないようにすると飛狛は言う。

 次元を越えられる空間で、未来を垣間見ることができる闇の神具を使うことで、二人を帰す。

「父さんにも確認したけど、それが一番確実だろうと思う」

 報告を聞きすぐにでも可能だと知るなり、狛琉が明日にしようと言った。

 せめて、最後の夜をみんなで過ごそうと提案したのだ。帰った先で彼に待っているのは、安らぎではない。

「きっと、辛いこともたくさんある。でも、楽しい思い出があれば頑張れるよ」

「飛狛がいいなら、そうしよう」

 どうするかと天竜王に言われれば、飛狛は仕方ないなって笑った。

 それから大急ぎでお別れ会だ、と準備を始める一同。柊稀と柏羅を飛狛に押し付けて。

 仕方ないので、飛狛は中庭で手合わせをすることにした。結局、初日しかできなかったのを思いだしたのだ。

「秋星から一本はとれた?」

「まったくダメでした。剣一本でもとれないのに、昨日は二本だったんで」

 最後だからと、秋星は二刀流で相手をしてくれた。やってみたかったから嫌ではなかったのだが、ますます歯が立たなかったのは言うまでもない。

「戻ったら、巫女護衛に稽古してもらいますよ」

「襲われて、護衛がついたのかな?」

 何事もないように柊稀の攻撃を避けながら、飛狛は問いかける。未来が知りたいというよりは、ただの世間話のつもり。

「そう聞いてます。オルドで道場してるみたいで」

「道場? もしかして……」

 そこも繋がるのかと飛狛は笑う。オルドで道場。それだけでわかってしまったのだ。

 楽しげに笑う青年に、柊稀は首を傾げる。なにか楽しいことはあっただろうかと。

「巫女護衛は、かなり強いだろ」

「あ、はい」

「だろうね。あの人の血族じゃ」

 さぞ強いだろうと飛狛は思う。自分ですら、万全の状態でやっと勝てるか勝てないかなのだから。

 少し戦ってみたいと思ったが、それは不可能なこと。

「護衛と互角に戦えるようになれ」

「えっ…えぇー!」

 驚いた瞬間、思いっきり剣を弾かれた。飛狛が油断大敵と不敵な笑みを浮かべながら見ている。

「まだまだ隙だらけだね」

「うぅー」

 悔しそうにする姿を見て、飛狛は声を上げて笑った。柊稀は見ていて楽しいのだ。

「まだ時間はある。もう一回やるか」

「やります!」

「本調子じゃなくても、柊稀には負けないけどね」

(これで本調子じゃなくて、手加減……ほんとに強いんだなぁ)

 大会の猛者として名前が残るはずだと、改めて実感した。





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