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二部 過去編
過去を襲う異変2
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「起きろー!」
布団を思いっきり剥ぎ取ったのは、もちろん秋星。飛び起きたのは柊稀。
薄暗い塔の中は陽の光が差し込み、温度も少し上がっているようだ。
「寝過ぎ。朝飯食わねぇの? おー、ちっこいのも起きたか」
一緒に目を覚ました柏羅がキョトンとしながら、柊稀と秋星を見ている。
優しく頭を撫でる大きな手に、少女はにっこりと笑った。
「んー、かわいいじゃん。なんか飯用意しないとなぁ」
起きるとは思わなかった為、柏羅の分は用意していなかったのだ。
自分の子供が小さいからか、柏羅を子供と同じように考えているよう。抱き抱えると、親しげに話しかけつつ部屋から出ていく。
残された柊稀は、閉まるドアの音で我に返る。そして、慌てて追いかけたのだ。
寝直したら今度は寝過ぎてしまったのだと知り、少しばかり恥ずかしかった。
別の部屋に行けば、夜秋がのんびりと本を読んでいる。もう朝食は終えたようだ。
「おはようございます」
「おはようございます。よく寝られたみたいですね」
微笑む青年を前に、恥ずかしそうに視線を逸らす。自分でもこんなに寝るとは、さすがに思わなかったのだ。
「飛狛さんは?」
「あいつ、朝苦手だからなぁ」
「もう少し待って降りてこないようなら、起こしに行きましょう」
そうなんだ、と柊稀は納得した。仕事も遅くまでやっていたし、疲れもあったのだろう。
あっさりと双子になついてしまった柏羅を見ながら、青年は笑った。
なぜだかこの少女を見ていると、とても癒される。どんなときでも気持ちを和らげてくれた。
「さっさと食べろよ。柏羅はゆっくりでいいからな」
(扱いが、違いすぎる)
少女と自分を比べること自体間違っているのだが、思わずにいられなかったのだろう。
朝というよりは昼に近い食事を始めてしばらくすると、一人の青年が訪ねてきた。
金色の髪を短く切り揃え、少し珍しい青緑の瞳をした青年だ。酷く慌てていて、夜秋と秋星の表情が険しくなる。
「狛琉、どうしました?」
「お前が慌てるなんて、珍しいじゃねぇか」
時折、一緒に仕事をすることはあったが、この青年が訪ねてくることはほとんどない。
あっても必ず事前に連絡を入れるのが、狛琉という青年である。
これはなにかあった。二人は直感で感じ取っていた。
「飛狛は?」
「まだ寝て……」
寝ていると言おうとし、夜秋の言葉が止まる。狛琉が来たのを察し、飛狛が現れたのだ。
「お前も、か……」
その姿を見て狛琉が言葉を失う。魔法槍士である彼に頼るため、ここまできたのだ。
けれど、これでは彼に頼れない。そう現実を叩きつけられた。
飛狛は立っているのもやっとの状態。壁にしがみつき、なんとか歩いてきたのだろう。
「飛狛!」
すぐさま夜秋が支えに入り、椅子へ座らせる。
「狛琉っ…俺もって……」
どういう意味かと問いかけようとしたが、言葉は出なかった。
「しゅうが倒れた。飛狛と共通するものがあるとしたら」
「精霊、だな」
秋星の声が一段と低くなる。なにかが起きるとは思っていたが、こんなことが起きるとは思わなかったのだ。
どちらかを狙ってきたのかもしれない。どちらだと聞かれれば、夜秋と秋星の答えは同じ。
「魔法槍士を潰したいなら、この年にくるのはおかしい。たぶん、飛狛を潰したいのですね」
飛狛にはすでに後継者がいる。存在を潰すなら、後継者を狙うはずだが、被害は今のところない。
ならば、この年の魔法槍士を潰すことに意味があると思われた。
「飛狛さんを潰すのに、精霊が必要なんですか?」
事情を理解できない柊稀には、よくわからなかった。なぜ飛狛と精霊が繋がるのかが。
「効果抜群でしょうね。現に、この状態ですから」
「僕にも色々事情を教えてもらいたいけど。とりあえず竜王山へ行こう。飛狛の状態を考えても、それがいい」
会話は聞こえているはずだが、一言も発することはない。
それほど状態的には酷いということになる。彼が魔法槍士として動けないほどに。
狛琉の提案に二人は断る理由もない。安全面を考えるなら、間違いなくここにいてはいけないから。
――お待ちください! 今は外へ出られません!――
しかし、そこにストップをかけたのは魔法槍士に仕える魔道生物であった。
――外になにかおります!――
その言葉に、夜秋と秋星が慌てて飛び出す。魔道生物がストップをかけるなにか、それをどうにかするために。
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布団を思いっきり剥ぎ取ったのは、もちろん秋星。飛び起きたのは柊稀。
薄暗い塔の中は陽の光が差し込み、温度も少し上がっているようだ。
「寝過ぎ。朝飯食わねぇの? おー、ちっこいのも起きたか」
一緒に目を覚ました柏羅がキョトンとしながら、柊稀と秋星を見ている。
優しく頭を撫でる大きな手に、少女はにっこりと笑った。
「んー、かわいいじゃん。なんか飯用意しないとなぁ」
起きるとは思わなかった為、柏羅の分は用意していなかったのだ。
自分の子供が小さいからか、柏羅を子供と同じように考えているよう。抱き抱えると、親しげに話しかけつつ部屋から出ていく。
残された柊稀は、閉まるドアの音で我に返る。そして、慌てて追いかけたのだ。
寝直したら今度は寝過ぎてしまったのだと知り、少しばかり恥ずかしかった。
別の部屋に行けば、夜秋がのんびりと本を読んでいる。もう朝食は終えたようだ。
「おはようございます」
「おはようございます。よく寝られたみたいですね」
微笑む青年を前に、恥ずかしそうに視線を逸らす。自分でもこんなに寝るとは、さすがに思わなかったのだ。
「飛狛さんは?」
「あいつ、朝苦手だからなぁ」
「もう少し待って降りてこないようなら、起こしに行きましょう」
そうなんだ、と柊稀は納得した。仕事も遅くまでやっていたし、疲れもあったのだろう。
あっさりと双子になついてしまった柏羅を見ながら、青年は笑った。
なぜだかこの少女を見ていると、とても癒される。どんなときでも気持ちを和らげてくれた。
「さっさと食べろよ。柏羅はゆっくりでいいからな」
(扱いが、違いすぎる)
少女と自分を比べること自体間違っているのだが、思わずにいられなかったのだろう。
朝というよりは昼に近い食事を始めてしばらくすると、一人の青年が訪ねてきた。
金色の髪を短く切り揃え、少し珍しい青緑の瞳をした青年だ。酷く慌てていて、夜秋と秋星の表情が険しくなる。
「狛琉、どうしました?」
「お前が慌てるなんて、珍しいじゃねぇか」
時折、一緒に仕事をすることはあったが、この青年が訪ねてくることはほとんどない。
あっても必ず事前に連絡を入れるのが、狛琉という青年である。
これはなにかあった。二人は直感で感じ取っていた。
「飛狛は?」
「まだ寝て……」
寝ていると言おうとし、夜秋の言葉が止まる。狛琉が来たのを察し、飛狛が現れたのだ。
「お前も、か……」
その姿を見て狛琉が言葉を失う。魔法槍士である彼に頼るため、ここまできたのだ。
けれど、これでは彼に頼れない。そう現実を叩きつけられた。
飛狛は立っているのもやっとの状態。壁にしがみつき、なんとか歩いてきたのだろう。
「飛狛!」
すぐさま夜秋が支えに入り、椅子へ座らせる。
「狛琉っ…俺もって……」
どういう意味かと問いかけようとしたが、言葉は出なかった。
「しゅうが倒れた。飛狛と共通するものがあるとしたら」
「精霊、だな」
秋星の声が一段と低くなる。なにかが起きるとは思っていたが、こんなことが起きるとは思わなかったのだ。
どちらかを狙ってきたのかもしれない。どちらだと聞かれれば、夜秋と秋星の答えは同じ。
「魔法槍士を潰したいなら、この年にくるのはおかしい。たぶん、飛狛を潰したいのですね」
飛狛にはすでに後継者がいる。存在を潰すなら、後継者を狙うはずだが、被害は今のところない。
ならば、この年の魔法槍士を潰すことに意味があると思われた。
「飛狛さんを潰すのに、精霊が必要なんですか?」
事情を理解できない柊稀には、よくわからなかった。なぜ飛狛と精霊が繋がるのかが。
「効果抜群でしょうね。現に、この状態ですから」
「僕にも色々事情を教えてもらいたいけど。とりあえず竜王山へ行こう。飛狛の状態を考えても、それがいい」
会話は聞こえているはずだが、一言も発することはない。
それほど状態的には酷いということになる。彼が魔法槍士として動けないほどに。
狛琉の提案に二人は断る理由もない。安全面を考えるなら、間違いなくここにいてはいけないから。
――お待ちください! 今は外へ出られません!――
しかし、そこにストップをかけたのは魔法槍士に仕える魔道生物であった。
――外になにかおります!――
その言葉に、夜秋と秋星が慌てて飛び出す。魔道生物がストップをかけるなにか、それをどうにかするために。
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