上 下
274 / 276
6部 星の女神編

光との対話2

しおりを挟む
 クオンの言葉に意を決したレインが呼びかけ、イリティスとグレンの二人が中央の塔にやってきたのは深夜のこと。

「俺まで呼ぶとはな」

 レインの姿を見るなり、苦笑いを浮かべるグレン。本当に自分も来ていいのかと思ったが、呼ばれている以上は行くしかないと思ったのだ。

『だって、父さんのために外へ行くんだろ』

 だから会おうと思ったのだと言われれば、そういうことにしておこうと頷く。

 これは彼なりの言い訳だとわかっているのだ。だから、イリティスもクスクスと笑っている。こういったところは変わらないと。

『あの、さ……』

「言わなくてもわかってるわよ。あなたも、レインであってレインではないのでしょ」

 イェルクやフェーナと話したことを知っていることから、イリティスもレインの存在を理解していた。

 息子であって息子ではない。彼は、息子と同じ姿をしていて、同じ考えを持つだけであると。

「まったく……くだらないことで悩む辺りは変わらないわね」

 わかっていて、イリティスは思うのだ。では、彼は息子となにが違うのかと。

 答えは、なにも違わない。ただそれだけだ。

 結局のところ、彼らは本人となにも変わらない存在だということ。

「私はイリティス・シルヴァンと同じ魂で同じ名前だけど、別人よ。だって、考え方も性格も違うもの」

 けれど、あなたはどうかと問いかけられれば、レインは少し考えてみたが違いが見つからない。

 なにせ、レインそのままが複写されてしまったようなものなのだから。目の前にいるイリティスは母親だと思っているし、レイン・アルヴァースが特別に思っていたグレンも同じように特別だ。

「くだらないことで悩まないの」

「……うん」

 確かに、父親でも同じことを言いそうだと思えた。きっと困ったような表情で言われるだろうと。

「まぁ、レインらしくていいがな。変わらないというのも」

 最後に会ったときもこうだったと、グレンが笑いながら言う。

「そうね。最後に会ったとき、年を気にしてグダグダしてたわね」

 不死となったことで、いつまでも老いることのない二人。けれど老いていく息子は、会いたいけど会えないと、グダグダやっていたことを知っている。

 精霊からその話を聞き、呆れたのは言うまでもない。

 二人から笑われて、気まずそうに視線を逸らすレイン。

『さっき、クオンにすべてを話してはあるんだけど、外へ行くならグレンさんも知っておくべきだよね』

 天空城の中に関して、レインはすべてを把握していた。どこにいても会話は聞こえているのだ。

「そうだな。情報はあって損しない。お前はどこまで動けるんだ?」

 一度イェルクやシリンと話しているだけに、目の前にいるレインはどこかが違うと感じていた。

『んー……試したことがないからわからない。でも、このセレンだったらある程度は動けると思うよ。限界は、あるかもしれないけど』

 正直なところ、なぜこうなっているのかわからないと言う。ここに聖剣は残されていないし、他の仲間達とは違うのだ。

 スレイとも話すが、結局のところはなにもわかっていない。

「なるほどな。これをどう捉えたらいいのかは、シオンでもないとわからないというわけだ」

『うん。父さんも一度だけ呟いてたよ。たぶん、俺達は新しい月神が目覚めるまでの存在だろうって。それも確証があってのことじゃないみたいだけど』

 だから、そうだと思うことにしている。レインはそう言った。

 いつか戻ってくる月神。それまで、この世界を守りたいと願った二人の気持ち。

 おそらくそうだろう、と思っている以上、いつかは消えてしまう存在だということも認識している。月神は甦ったのだから。

「それがいつなのか、が問題だな」

『大丈夫。父さんが戻ってくるまでは、頑張ってみるよ。俺達の存在がこの世界を守るためなら、この状況で消えないと思ってる』

 あくまでの可能性だが、それはあり得るとグレンも頷く。世界を守るべく双神がいないのだから。

 もうしばらく猶予があると思えば、あとは問題の外だけだ。

「お前らは、外にいるシオンを感じ取れないのか?」

 誰よりも外を感じることのできる存在。グレンは少なくとも、そう思っていた。

『感じることはできた。でも、それは父さんが意図的に感じられるようにしてたんだと思う。向こうでなにかがあった後、父さんを感じなくなった』

「力の使い過ぎで休眠に入った可能性もある、か」

 わざと感じ取れるようにしていた、ということは、力を放出していたのではないのか。外での戦いで力を使い過ぎ、それができなくなってしまった。

「もうひとつ、お前らを消さないためという可能性もあるな」

 真剣な表情で言えば、それは考えたとレインも頷く。あの父親なら、存在を完全に消すという可能性は低いと思っていたのだ。

「そうね、あり得そうだわ。シオンが向こうで動けないのも事実なのかもしれないけど、助けのためにこちらから誰かを送れば、手薄になる」

 外から攻めてくれと言っているようなもの。そんな真似はできない。

 シオン・アルヴァースがそのような真似をするわけもないと、三人ともが理解していた。

『うん。父さんが休眠しているか、それともローズが休眠しているか』

 こちらに存在を感じさせないということは、聖獣が眠っている可能性もあると言われれば、その可能性もあったかと頷く二人。

「ローズが眠ると、シオンの力は半減するんだったな」

「つい忘れちゃうのよね。シオンって、規格外だから」

 苦笑いを浮かべるイリティス。基本的には聖獣と太陽神は繋がりを持つ。どちらかが死ねば死んでしまうし、力を使えなくなれば、もう片方も使えなくなる。

 とはいえ、聖獣が死んでしまった場合どうなるかはわかっていないのだが、その可能性は考えないことにした。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...