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6部 星の女神編

話し合いの前に3

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 ぶつぶつと呟く姿を見て、あれは本気で知らないなとクオンは思う。彼なら知らないふりをすることもあるのだが、本気で知らないときには呟く癖がある。

 これが演技で行われることもあるとは、親しい人しか知らない。見抜けるかは、付き合いの長さだと思っていた。

「女神を失ったこともありますが、この世界は太陽と月が見守る世界へと理が変わっているのです。この世界で、お二人以上の力はありません」

 また、世界の理が変わっただけではなく、太陽神がさらなる進化をしたと思われるのは、女神を倒したことから推測されている。

「わかった。つまり、外からしたら自分達と同等になったことが気に入らないと」

 外からの攻撃が再びされたのは、そういうことだろうとクロエは言う。

「おそらくは、そうだと思います。その辺りは、イリティスお姉様かグレン殿に聞いていただいた方がいいかと」

 判断するのは自分ではないと、リーシュは首を振る。

 正直なところ、そうだと思っていても断言することはできないのだ。自分の知識は伝え聞くものだけなのだから。

 最低限の知識は話せたと思うが、どうだろうかとリーシュは四人を見た。

「問題ない。このあとの話し合いに参加すれば、またなにか不足は出てくるかもしれないが」

 現状は問題ないとクロエが言えば、三人ともが頷く。フィーリオナに至っては、それほど知識に困りはない。元々、三人よりも知っているから。

 一番知識がないのはリーナとクロエなのだが、二人も今の段階ではなにを聞いたらいいのかわからない、というのが本音だ。

「わかりました。必要があれば、その都度聞いてください。集まる方々も、すべてを知っているというわけではないので、気にせず聞いて頂いて構いません」

 疑問は必ず出ると思っている。出ないわけがないし、そのための話し合いだともクロエは考えていた。

 これは、すべてを知るというよりは、自分の役割を見つける行為だ。

「夜にお話する場は、太陽の間となります。精霊より知らせが来ると思いますので、それまでは自由にしていて構いません」

 仲間がほとんど太陽神側にいることから、話す場もそちらになると言われれば、それはそうだとクオンも頷く。

 他に話す場もないのなら、当然だと。

 リーシュがその場を去ると、四人はなんとなく絵を眺める。このまま話し合いの時間まで待とう、というのが四人の考えだった。

 言葉にすることもなく、四人ともがそう思ったのだ。

「あー、靄が取れたからだな。あいつと話した記憶まであるぞ」

 イェルク・ソレニムスを見て、クオンはリオン・アルヴァースの記憶にいると言う。

 死んだ後のことだが、間違いなく会っている。これは魂だけの存在となった後、なんらかの理由で会っていたのだ。

「まぁ、どうでもいいか。重要なことでもねぇし」

 記憶の中を見ていても、彼との話はただの時間潰しだとわかる。意味のあるものではない。

「どんな人だったの?」

「なんだよ、リーナは気になるわけか」

 他の男に興味があると言われれば、ムッとしたようにクオンが見る。

「気になるじゃない。クロエに似てる?」

 クロエみたいな性格なのか、と問われていると気付けば、一瞬だけ固まったクオンが笑う。そういう意味かと。

「似てないかもな」

 どこかに似ている面はあるかもしれないが、今のところ似ていると思える面はない。それよりも、とクオンは思っていた。

 他に気になることがあるのだ。

 クロエは誰かに似ている。それが誰なのか、というのはわからないのだが、とにかく似ていることだけはわかっていた。

(問いかけたところで、答えねぇんだろうな)

 わかっているからこそ、問いかけることはしない。だが、問いかけるつもりでもいた。

 そのタイミングを間違えるわけにはいかないのだ。彼が絶対に答えるタイミングがある。そのときには、躊躇うこともなく突っ込むだろう。

「それで、気になることはそれだけか?」

「そうね。あとは、あとで考えるわ」

 話し合いで疑問が出てくるだろう。それまでは考えることをしたくない。

 リーナが言えば、同意だとフィーリオナも頷く。今はなにも考えたくないといったところだ。この先、考えなくてはいけなくなるのだから。

「セルティも、さすがにすべて話してくれるといいが」

 あの二人だけは読めないと、フィーリオナはぼやく。まさか自分が知らないところで関わっているとは思わなかったのだ。

「私にぐらいは言ってくれてもいいのにな」

 次の瞬間、なんとも言えない視線が三人から投げつけられた。

「な、なんだ?」

 なぜそんな風に見るのか、と彼女が言えば視線が逸らされる。

「フィオナのことだから、聞いたら行くと言ったでしょ。絶対に言わないわよ」

 リーナが言えば、クオンとクロエが同時に頷く。二人とも同じ考えなのだ。

 この女王なら、絶対に楽しそうだと言ってついていくだろう。なにせ、魔物討伐に連れていけと騒ぐ女王だ。

「……」

 三人からの視線を受け、今度はフィーリオナが視線を逸らす番。

 つまり、間違ってはいないということだ。聞いていれば、自分がついていったと断言できた。

「そうだな。言うわけないな……私だから」

 フィーリオナが認めたように言えば、三人が同時に頷く。

 隠したくて隠したのではなく、女王を連れ出さないために言わなかったのだとわかれば、こればかりは判断が間違っていないと、フィーリオナでも思うことだ。

「少し、落ち着けよ」

「お前に言われたくないぞ、クオン」

 クオンにだけは言われたくない、とフィーリオナは最年少騎士団長を見る。彼も色々とやらかしている側だと。

「年齢差を考えて言え」

「だよね。フィオナの年齢と私達を一緒にしちゃだめよ」

 そうだよなぁ、と頷くクオンを見て、視線をクロエへ向けてみるものの、呆れたように見ている。

(いや、冷めている)

 なにをやっているんだ、とクロエが見ていたのだ。呆れを通り越して、冷え切った表情で。

 背中に冷や汗が流れるのを感じながら、フィーリオナが視線を逸らす。同じノリで話していたが、確かに自分とは年齢が違うのだ。

「陛下……もう少し大人になってください」

「……す、すまない」

 吹雪そうなほど低い声で言われれば、これ以上機嫌を損ねる前に切り替えようと思う。

「話し合いの前に、少し食べるか? 食事に関しては個々で済ませるってことだったし」

「そうね。あの食堂へ行きたいわ」

 切り替えに気付いたリーナが話に乗れば、特に気にしていないクオンが行こうと言った。

 彼としては、完全に果物を買いたいと思ってのことだ。それを持って話し合いをしようとしているのは、明らかだった。

「……行くか」

 察したクロエが、どうしようかと思いつつもほっとくことにすれば、四人ともが外へと動き出す。

「けど、外へ行ったら囲まれるんじゃないの」

「食には勝てねぇだろ」

『安心しろ。クオンだけなら、食わなくても死なない』

 食に勝てるぞ、と言われれば、無言で相棒を殴った。

 当然ながら、リーナから抗議の声が上がったのは言うまでもない。ヴェガを気に入ってしまった彼女が、黙っているわけないのだ。

 いい味方ができたと、ヴェガは内心笑っていた。





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