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6部 星の女神編

長い夜の終わり2

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「借りるぞ、リオナ」

 覚悟が決まれば、クロエが迷うことなどない。すぐさま動いたかと思えば、フィーリオナが持っていた包みを奪う。

 無意識に呼び方が戻っていたことに気付かず、クロエが包みから一本の剣を取り出す。

 それは、ヴェストリア・バルスデ・フォーランが使っていた聖剣。大地の女神ファラーレが授けた物で、持ち主以外使うことはできない。

「クロエ、なにを…」

 わかっているから、フィーリオナもなにをする気なのかと問いかける。使える物なら、自分が使っているとすら思っていた。

 行動に驚き、自分が昔呼ばれていた呼び名で彼に呼ばれたことすら、気付いていなかったほどだ。

「それは、持ち主以外使えない物だぞ」

 思わず、わかっているのかとフィーリオナが言おうとしたが、次の瞬間にはクロエの手によって力が解き放たれていた。

 驚くべき出来事に、フィーリオナは茫然と見ている。一体なにが起きているのか。彼はどうやって力を解き放ったのかと。

 持ち主以外でも使う方法があり、それを彼は知っているのなら、自分も知りたいと強く思う。

 この展開は、おそらく誰も想像できなかったことだろう。聖剣を持っていなかったクロエが、別の持ち主を持つ聖剣を解き放っているのだから。

 だが、無理矢理使っているのは明らかだ。聖剣を握る手からは血が流れ、力を解放した代償を負っている。

(クロエ…)

 魔物を睨みつける彼は、今まで見たこともない表情を浮かべており、クオンですら驚いたほどだ。

『とんでもねぇことするな』

「…やれなくはないってことか?」

 ヴェガは聖剣を使うこと自体に驚いてはいない。つまり、無理矢理使うことが可能ということだ。

『やれなくはねぇ。それだけの魔力を有していればな。とはいえ、使うことで負うダメージも尋常じゃねぇから、さっさと終わらせたほうがいいぜ』

 大切な仲間を失いたくはないだろ、と言われてしまえばクオンは頷く。彼を失うような真似は、当然ながらやりたくない。

 あれを長時間やらせてはいけないなら、こちらが早く片付けるしかないのだ。

 リーナへ視線を向ければ、気持ちは同じだと言うように頷く。これ以上、戦闘を長引かせるわけにはいかないと。

 使い慣れていない力を使うことになるクオンとリーナ。それでも、この場で全力を出すことに迷いがない。

 このあと自分達がどうなるか、など考えている場合ではないと判断したのだ。

「やってやるぜ!」

 強い光が聖剣を包み、さらなる力を解き放っていく。こいつの限界はここではないと、本能で知っていた。おそらく、女神の力を持つことで自然と得る知識がある。

 リーナも同じようにわかっているのだ。限界がどこにあるのかというものを。

「シャリーラン、初陣から倒れそうね」

『リーナがいいなら、私は付き合うよ』

 だからやろうと言う聖鳥に、リーナは笑みを浮かべる。さすが自分の相棒だと思ったのだ。長年、自分の中で見ていただけあると。

 だから、心配することなどなにひとつない。安心して戦うことができる。

 聖剣を携えたリーナは、星の女神の名を持つにふさわしい戦いを見せた。まるで流れ星のような動きに、魔物が翻弄されていく。

(素早さだけは、自信があるのよね)

 これだけは、クオンよりも優っている。自信を持って言えた。

 リーナは強い。副官となったのも実力で勝ち取ったからだ。決して家柄の力でも、クオンの贔屓でもない。

 騎士の家柄であるオーヴァチュア家に恥じない実力は、もしかしたら女神の血が関係していたのかもしれないと思う。

 奥底にある普通ではない力。リーナは星の女神となったからこそ、それを感じ取ることができた。この力こそが、特殊能力の正体だ。

(今ならわかる。干渉の力をどうすれば使えるのか)

 あの魔物へ干渉することも可能だとわかっている。そして、干渉することで弱体化させることもできると、どこかで本能が告げていた。

(そういうことなのね。星は先を、月は過去を表す……)

 星の女神は月神の血を引くことから、どちらも垣間見ることができるようになったと理解する。

 多くの力を得て、すべてを女神の血と力で理解していく。不思議な感覚だが、それすらも当たり前だと思えてしまう。

『夜のうちに片付けるぞ!』

 ヴェガが言えば、クオンとリーナは頷く。夜は自分達の時間なのだ。最大限に力を使うことができる今しか、慣れない力を最大で使えない。

 強大な力が軌道をわずかにずらす。聖剣はただの剣ではなく、力の塊となることから扱いが難しい。

 魔法を苦手とするクオンは、引き出す力を上げたことで聖剣を扱うことに苦労した。ここまでの魔力を扱ったことはないのだ。

 その反面、魔力を扱うことに長けているリーナは、ほとんど苦労することなく扱えている。戸惑ったのは初めのうちだけで、愛剣と変わらない。

「私の勝ちかしら!」

 容赦なく攻め立てていくリーナは、苦労する姿を見て笑う。この勝負は自分の勝ちだと。

「まだ終わってねぇ!」

 負けず嫌いのクオンが怒鳴れば、そうじゃなきゃとリーナは前を見る。このままだなんてことは、彼に至ってはあり得ない。

 当然ながら、先に魔物を倒してみせるだろうこともわかっている。

「シャリーラン、場所はわかるわね」

『わかるよ。リーナが見ているものは、全部私も見えてる!』

 正確に魔物の弱い部分を見抜いていくと、共有していると聖鳥が攻撃していく。伝える必要など、欠片もないのだ。

 同じものを感じてくれる。なんとも不思議な気分だ、と思うと同時に、誰よりも味方になってくれる存在として心強くも思えた。

 魔物へ干渉することで、弱点となる部分をさらに弱くする。

 いや、と思い直す。これは弱点というよりは、どこからか力が流し込まれているような感覚だ。常に力を補給しているのかもしれない。

 それなら、まずは補給となる部分を絶てばいいこと。リーナの聖剣が迷うことなく切れば、気付いた魔物が怒りの咆哮を上げる。

『させない! リーナには私がいるんだから!』

 怒り任せに尾を打ち付ける魔物に、聖鳥が無数の光を放って吹き飛ばす。

 想定外の存在だったのか、魔物が聖鳥を警戒するように唸る。相手を強者と判断したのだ。

『攻撃に特化した今、私はリーナのためにどこまでも強くなれる!』

 甲高い鳥の鳴き声が周囲に響き渡れば、同時に魔力が空気を震わせる。弱い魔物が一瞬にして塵となって消えていくのを見て、まだこんなにいたのかとリーナの表情は険しくなった。

 雑魚を気にしながら戦うのは、さすがに厳しいとわかっている。相棒には感謝しなくてはいけないな、と思いながら、一直線に斬りかかった。

 この魔物を倒すこと。今はそれを考えることだけに集中しなくてはいけないと。






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