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6部 星の女神編

共闘の夜2

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 使っていた長剣とは違う剣を取り出すと、トレセスが心配するように見る。

 彼が取り出したのは聖剣だ。力を使いすぎれば、その分だけ身体に負担もかかるのだ。何度も使えるものではない。

「安心しろ。力を解き放つ気はねぇ」

 ヴェルトが小さく言えば、わかりましたとトレセスが頷く。バカにされたままでいられるか、という気持ちなのは理解できるのだ。

「ふーん。それはいい剣だな」

「お前のよりな!」

 力を解き放たなくても、聖剣であることに変わりはない。魔物相手に後れを取ることなど、絶対にないのだ。

「聞き捨てならねぇな。リーナ贔屓の武器職人が作ったこいつは、最高の剣なんだよ!」

 そこで張り合うな、と言いたげにリーナが視線を向ければ、クオンはフッと笑う。

 どことなく、彼で遊んでいるのだとは思っていたが、この笑みで確信したリーナは、あとで叱るべきか悩む。結果次第だな、と保留にしたのは、クオンの行動がヴェルトを探るためだとわかっているからだ。

(でも、やりすぎじゃない)

 もういいのではないか、と思ってしまう。

 楽々と戦うクオンを見ながら、なんて強さだとヴェルトは思っていた。自分もそれなりに自信はあったし、出会った傭兵達となら互角に渡り合えると思ってもいる。

 だが、今共闘している相手は勝てないと思えたのだ。敵にでもなれば、間違いなく勝てる相手ではない。なにかが違うと思えてしまう。

(バカな……同じ人間だろ)

 なぜそのようなことを感じているのか。意味がわからないと迷った瞬間、魔物に踏み込まれてしまった。

「ヴェルト様、考え事はあとにしてください!」

 すぐさま助けに入るトレセスに、悪かったと一言。確かに戦闘から意識が逸れてしまう考え事は、今している場合ではない。

 魔物の数は減っているが、それでも強さが変化しているという問題がある。

「チッ…」

 次の瞬間、なにかを察知したのだろうか。それまで余裕だったクオンが、険しい表情で舌打ちした。

「リーナ! あれが来る!」

「もう…だから、察知が早いんだって」

 まだ感じないと言うリーナも、なにが来るのか理解して険しい表情へと変わる。以前は油断からやられているだけに、今回は二の舞を踏まないとレイピアを握り締めた。

 二人の雰囲気が変わると、ヴェルトとトレセスもなにかやばいことが起きたと察する。

「いざというときには使う。そのときは」

「わかっています。私が対処しますよ。アシルがいたら、と思ってしまいますね」

 知り合った傭兵を思いだし、いたら心強かったなと思ってしまう。

 気持ちがわかるだけに、ヴェルトも苦笑いを浮かべる。実際は誘われていたのだが、妻がいるならと断られてしまったのだ。

 顔を合わせるとなにを言われるかわからない、という理由だった。

「けど、村を守ってくれてっからな。後ろを気にしなくていいだけ、感謝するべきだろう」

 留守にしている間、村を守ると約束してくれた傭兵達。帰る場所があるからこそ、今ここにいることができるとわかっている。

「周りの雑魚、邪魔だな」

『俺が手を貸してやろうか?』

 ピリピリとしたなにかを感じたクオンが言えば、聖獣が声をかけてきた。

「暴れたいんだろ」

『まぁな。どうせこの戦いで隠せねぇんだし、もういいだろ』

 ヴェルトとここまで共闘してしまえば、英雄王に隠すのは無理だと言われれば、仕方ないなと笑う。

 普通ではない魔物が現れるとなれば、さすがにきついと思っていた。周囲を聖獣に任せられるのも助かれば、聖剣が使えるようになる方がもっとありがたい。

「……やるか」

 なにを、と言いたげにするヴェルトとトレセスに、クオンはニヤリと笑った。

「俺の元に来い! リーザテイン!」

 天高く呼びかければ、天空城から白銀の光が立ち上る。今までにない力を感じ、聖剣が反応するのをヴェルトは感じた。



 虹の塔側となる住居区の外れまで向かったクロエは、同じように配置されているハーフエルフを見ながら身を潜めていた。

「どう見る?」

 騎士としてどう見るか、とフィーリオナが問いかける。意味は目の前にいるハーフエルフ達だ。

「傭兵、でしょうね。昼間に商人から聞いた、英雄王の連れといったところだと思います」

 ハーフエルフが二人にエルフが一人。ここを守るのだという感じに、待機していた。

 つまり、これから起きることを予測しているということだろう。自分達と概ね考えは同じ、と思っていいだろうと考えていた。

「おそらく、クオンの元にもいるでしょうね。あとは炎の塔付近に、英雄王の妻が連れている仲間」

 街全体と天空城の守りに英雄王と妻、虹の女神だろうとクロエが言えば、やはりそうかとフィーリオナも頷く。

 状況が状況だからだろうか。二人は気まずくなることもなく、普通に話せていた。どこかで緊急事態と切り替えているのかもしれない。

 襲ってくるのがただの魔物とは限らないと、二人も理解しているのだ。月光騎士団の敷地に現れたような魔物が、ここに現れるかもしれないと。

 あの面子なら、普通の魔物が現れたぐらいでは問題ないだろうか、とクロエは鋭く観察する。三人のうち、一人は後方支援だろうとわかる。

 わかるが、それでも問題ないと思っていた。

「さすが英雄王だ。あれだけの強者を借りてこられるとは」

 あれほどの手練れとなれば、自分の部下達にも何人いるか、というレベルだと笑う。さすがに、人間では限界があるのだ。

 魔法が使えなかった三千年前に比べれば、今の人間が強いのは間違いない。それでも、魔法が得意な人間であっても、エルフの血を引く者達と比べれば劣る。

 自分もそうだとわかっているだけに、魔法を使わせたらフィーリオナの方が強い。

(まぁ、あとは頭でカバーするしかない。できれば、それだけでいい人材になるさ)

 自分の副官がいい例だと笑うクロエに、不思議そうにしているフィーリオナ。

 なにか楽しいことでもあったのか、と思っているのだ。

「すみません。いい傭兵だなと思っただけですよ」

 気付いたクロエが言えば、そうなのだろうかと思いつつ納得する。問いかけても答えないとわかっているのだ。

「傭兵が北に流れて、など滅多にないからな」

 フィーリオナも目の前にいる三人を見ながら、クロエが言う通り悪くないよなと思う。

 騎士団の人材として欲しいと思うのも、彼女だからこそ納得する。彼がなにで苦労しているのか、それなりに把握しているのだ。

 クオンから見れば、クロエは完璧な騎士団長なのかもしれない。けれど、彼は彼なりに騎士団内で苦労している。

「確か、凄腕が一人北に流れて来たとか聞いたような」

 以前聞いたな、と思いだすと、クロエがあれは欲しかったとぼやくように言う。

「月光騎士団にいますよ。エルフのシア嬢で、針を使う後方支援型ですね。合同訓練で見ましたが、接近戦も可能なようです」

 完全な後方支援ではないのだろう、とクロエは思っていた。

 資料に関しては、所属している月光騎士団の管理下にある。さすがのクオンでも、そういったことは話さないと知っているだけに、聞いたことはなかった。

「月光騎士団に配属させてたのか。まぁ、あそこは人材不足だからな。セルティの判断だな」

 イクティスが政務よりなこともあり、騎士団のすべてをセルティが統括している。彼の判断なら、間違いはないだろうとフィーリオナは思っていた。





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