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6部 星の女神編

輝き出す星の光

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 空が茜色に染まる頃、待ち合わせ場所にしていた食事処へと集まる四人。ここで夕食を取りながら、報告をしようと決めていたのだ。

 英雄王が出歩いていることから、少しばかり後悔していたりもするのだが、いまさら変えられないとクオンは諦める。

 それに、ここで食べないと他に場所はない。貸し家を使っているわけでもないし、野宿で食べられる物は限られてくる。

 まともな食事が食べられるなら、そこで食べたいという気持ちが勝ってしまったのだ。

「上手いな。これはどこの食べ物だ」

 フォークで突っつく姿に、リーナがジロリと睨む。行儀が悪いと言いたいのだろう。

 元が貴族であったオーヴァチュア家なので、当然ながら食事のマナーも厳しく躾けられているのだ。

「いいじゃんかよ。公式の場ではしっかりやってんだから」

 それ以外は好きにさせろと拗ねてみせれば、リーナがため息をつく。彼に求めるのは無理だと、理解しているのだ。

「俺がこいつみたいにできるわけねぇだろ」

 きれいな仕草で食事を食べるクロエを指差せば、今度はクロエから睨まれるクオン。指差すな、と言いたいのだろう。

 口煩いとぶつぶつ言いながら食べるクオンに、まだまだ子供だなとフィーリオナは笑う。こうやって見ていると、騎士としているときには気付かない一面が多々ある。

 オンとオフで切り替えるのだろう。クオンはもちろんだが、リーナも職務中とは違う雰囲気になる。

(大人に囲まれてると、ああなってしまうのか)

 一介の騎士ならこのままでもいいが、上に立つとなればこのままではいられない。その気持ちに関してだけは、フィーリオナにも理解できる。

 女王だと侮れないように振る舞った自分と、同じだと思えたのだ。

「この紅茶美味しいなぁ。どこか露店で売ってるのかな?」

 食後に一杯と飲むリーナに、なるほどと見渡すフィーリオナ。こんなところにも好みや性格が現れるのかと思ったのだ。

「フィオナは珈琲だね」

「甘いのは苦手だしな」

「クロエも珈琲なんだ」

 彼はお酒を好むと知っているのはリーナぐらいだろう。クオンでもそこまでは知らない。

 なぜ知っているかというと、兄と飲むのを見ているからだ。

「さすがに、ここで酒は飲まない。なにがあるかわからないからな」

 そして、結構強いということも知っている。

 正直、リーナはクロエが酔ったところを見たことがない。兄が酔ったところは見たことがあってもだ。

「なんだ、お前酒飲むのか」

「当然だろ。誰かと違って飲める年齢だぞ」

 騎士団の宴などで酒を飲む機会も多い。飲めるようになれば避けられないと言われれば、それもそうだな、とクオンが頷く。

「なんだかんだ、もうすぐ飲めるようになるんだったな」

 酒が飲めるようになるまで、もうそれほど日もない。色々とありすぎて、すっかり忘れていたと言えば、リーナもそう言えばと思いだす。

「そうか、もうすぐか。なら、飲めるようになったら一緒に飲もう」

「飲む飲む! フィオナが行きたいけど行けてないだろうお店なら、わかる気がするし」

「英雄王の通っていた店、知ってるのか!?」

 どこか嬉しそうに言うフィーリオナと、急に仲良くなったリーナにクオンとクロエが不思議そうに見ている。

 二人で行動している間に、一体なにがあったのかと思ったほどだろう。

「一人で行くのはちょっと、と思っていたのだ。リーナが共に行ってくれるのなら、安心して行けるな」

 国へ戻ったら楽しみができた、と珈琲を飲む姿に、クオンとクロエは首を傾げるのだった。

 たっぷりと砂糖を入れた珈琲を一口飲めば、情報交換だとクオンは言う。

「俺達は……」

 話そうとした瞬間、クオンの表情が鋭くなる。外を見たまま、なにかを探るように細められる目に、リーナとフィーリオナがクロエを見た。

 わかるか、という問いかけだ。

「妙な気配を感じる。得体のしれない、なにかがやってくる感じだ」

 雰囲気は変わらないが、それでもクロエの声が低くなっている。警戒している証だ。

「なにかが、起きる……」

 外へ視線を向ければ、つられたように二人も見る。まだ二人は感じていないのだが、クオンとクロエが感じているなら間違いはない。

「外に出よう。ここには英雄王がいるが、戦闘要員が多いとは言えない」

「そうね。住民を見てわかったけど、ここで暮らす人達は戦えないと思うし」

 クロエの言葉に、リーナも同意だと頷く。セイレーンとエルフの血を引く者達なだけあり、魔法は得意なようだ。

 しかし、あくまでも得意というだけ。戦うために使ったことはないとわかっていた。すべて生活で必要なら、という形でしか使っていないのだ。

 魔物でも襲って来れば、確実に住民は戦えない。戦うのは英雄王と仲間達だ。

「今なら商人の護衛がいるが、それでもどうにかなるものじゃねぇ。ここ、思ったより広いぞ」

 地図を広げたクオンに、よく手に入れたなと感心するフィーリオナ。

「露店をうろついてたときにな。知り合った商人からもらった」

 必要ないかと思ったが、今回ばかりは助かったなと思う。お陰でどう動けばいいのかわかる。

「このセレンは、想像以上にでかい。少なくとも北の半分ぐらいは敷地としてあるな」

 思っていたよりも広大な土地だと言われれば、自分達がいる居住区はもっと広いのだと察した。それほどないと思っていたのだ。

「住処として使っているのは、炎の塔を含むセレンティア区だけらしい」

 四分の一と言えば広く感じないが、おそらくバルスデ王国と同じぐらいの広さだろうと推測。ここを英雄王と仲間達だけで守りきるのは厳しい。

 だからといって、自分達がどうするかというのも悩むところ。

「分かれるか」

 それでも構わないぞ、と言うようにフィーリオナは見る。女王という肩書きを除けば、彼女は間違いなく戦力として最高だ。

 地図を見ながら考えるクオン。四人で動くよりもいいことは間違いないが、問題はただの魔物じゃなかった場合だった。

 一度戦っているだけに、そのやばさは誰よりもわかっている。あのレベルが何度も現れるとは思っていないが、可能性がゼロではないことも考えなくてはいけない。

「単独行動はやめよう。二手に分かれる。それで十分だろ」

 ここには英雄王がいるのだから、とクロエが言えば、そうだなとクオンも頷く。

 最悪を想定して動かなくてはいけない。現状としては自分達だけで動くのだから。

「……クオンはリーナといけ。今回は戦闘が想定される。リーナと別行動はしたくないだろ」

 真剣な表情で言えば、クオンは当然と言うようにクロエを見る。

 戦闘は避けられないと思っていた。わかっていて彼女と別行動をするつもりなど、初めからない。自分の目が届く範囲にいてもらわなくては、いざというときに守れなくなってしまう。

「戦力としては、どう分かれても問題ない」

 問題があるとしたら、それはクロエの個人的なことだ。今はそんなことを言っている場合ではない。






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