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5部 よみがえる月神編
クオンとリーナ2
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「月神と聖獣の関係は?」
一心同体の意味は、どういうことなのか。その辺りはまだ曖昧だとしか答えられない。
「容量オーバーってところだな。これ以上を思いだすには、完全に受け入れろということらしい。もっと早くに言ってほしかったぜ」
聖獣と接触したからだろうか。あれほど酷かった痛みが、今は感じられない。あの痛みはすべて、記憶を受け入れることへ限界がきていたからだ。
わかっているからこそ、もっと早く接触してくれればと思わずにはいられない。
「わかってるのは、聖獣がいないと力は不完全だってことぐらいだな。半減するって、前にあいつが言ってた。それでも、俺やリーナで手も足も出なかった魔物を倒したわけだが」
あのときか、とリーナも頷く。倒したのはリオン・アルヴァースだと知っているが、それだけしか知らない。リーナは見ていなかったからだ。
「受け入れると、クオンはどうなるの?」
彼は受け入れるつもりだということはわかっている。けれど、受け入れずに今いるのは、自分が関係しているのだろうということも、なんとなくわかった。
帰したくない癖に、帰そうとしたのがその証拠だ。
「……月神は、人間じゃねぇってさ。言葉通り、神様なのかは……先を受け入れねぇとわからねぇな」
死なないということを考えたら、神様なのかもしれないとも思う。
夢で見たリオン・アルヴァースは、老いることもなく、怪我はすぐに治る。あれが女神の力を得たからだというなら、他の二人も同じことだ。
だが、イリティス・シルヴァンとエリル・シーリスも不死でなければ、怪我がすぐさま治るなどということはない。
同じではなかった。そこに意味があると思えたのだ。
「そう。それはわかったら教えてね」
「お、おう……」
ニッコリと笑いながら言われれば、頷くしかない。
「死ななくなる……少し前なら、どういうことかわからなかっただろうけど、俺はあいつの記憶を見てるから」
どういうことか理解しているつもりだと言う。自分ではないが自分の記憶。そこで長い時を生きる姿を見てきたから。
「そう……私より長生きになったのね」
「これからなるんだよ!」
まだだと突っ込めば、クオンはフッと笑う。まさか、自分より長生きになった、などと言われるとは思わない。
次に思ったのは、自分が置いていかれると思っていたが、置いていくのか、ということだ。
「ふーん……俺はじじいになるのを見られるんじゃなくて、お前がばばあになるのを見るのか…いってぇ!」
思い切り殴られ、思わず身体を離すクオン。恨めしげに見て、すぐさま視線を泳がせた。
リーナはどう見ても怒っているからだ。
「あんたは……クオンのバカー!」
「ちょっ…」
再び迫ってきた拳にどうするかと思ったが、失言したのは自分なのでおとなしく受けることにした。
(クソ……ばばあってダメだったのか)
クロエが聞いていたなら、ダメだろうと言われたことは間違いない。呆れてため息をつかれていたかもしれないが、彼はここにいなかった。
「信じられない。こんなのがモテるなんて」
女心などなにも理解していない幼馴染み。騎士団の女性からモテているとは、信じられないと思っていた。
「第一、私はまだ、クオンに老いていく姿を見せるとは言っていないからね」
「えっ…」
次の瞬間、リーナが思っていたのとは違う反応が返ってくる。彼がこのような反応をするなど、おそらくクロエでも思わないだろう。
捨てられた子犬のようなクオンにリーナも驚く。けれど、だからほっとけないのだとも思う。
彼は強い。しかし、それは支えてくれる人がいるからこそだ。自分やクロエが、彼が強く在れるための存在となれるのならば、悪くないとすら思える。
「クオンの傍にいるために必要なら、私は星の女神になっても構わないよ」
深いことはわかっていない。それでも決意できたのは、相手がクオンだからだと言われれば、何度目かわからない言葉を呟く。
彼女に、まいったな、と思うのは何度目だろうか。
「どうなるか、マジでわからねぇからな」
月神が必要となる事態が起きているから、自分は今この状態なのだ。神が必要となる事態など、普通ではない。
リオン・アルヴァースが警告するように、大切だからこそ巻き込まない方がいい事態である可能性は高いだろう。
「望むところよ」
だが、彼女がこう答えることはらしいと思うし、それでも自分といたいと言われるのは嬉しくも思う。
(手放さなくても、いいのか……)
彼女を手放さなくてもいい。どこかで安堵している自分がいて、これは二度と手放せないという諦めにもなる。ならば、彼女を守りながら戦うのだ。
今のままでは力不足だが、リオン・アルヴァースの経験をすべて自分のものにすることができたら、そのときはもっと強くなれるのではないか。
(リーナを手放せないなら、俺はリーナを手放さないまま強くなるしかねぇ。やれる、やれないじゃねぇんだ。やるしか、俺には選択肢がない)
他に道がないと、これも受け入れるしかない。むしろ喜ぶべきなのか、とすら思えてくるから不思議だ。
彼女を手放さなくてよくなった現状に、感謝するべきだと。
「リーナ…」
痛みは感じなくなっているが、それでも身体は動かしにくい。負荷がかかっているのだから、仕方ないことだと引き寄せる。
理解してくれているからこそ、軽く引き寄せるだけで身を任せてくれた。
「痛くないの?」
「今は、な。聖獣と話してから、痛みは消えた。感じてねぇだけかもしれねぇが」
身体の怠さなどは残っていることから、ただ感じていないだけかもとは思っている。考えたくないだけで。
この後、もっと酷くなることも理解している。あの聖獣を受け入れるとは、そういうことだ。
だから、その前に済ませなくてはいけないことがある。ここまできて、なにも言わないわけにはいかないとクオンは温もりを感じていた。
深呼吸を一回。気持ちを落ち着かせると、真っ直ぐにリーナを見た。
真っ直ぐに見れば、クオンが好きな群青色の瞳が真っ直ぐに見てくる。ずっと自分だけを見ていてほしいと思う。
「俺はお前を手放したくない。だから、ずっと俺の隣にいろ。聖獣を受け入れ、月神となったあともだ」
彼女にすべてを捨てろと言っているに等しい。
クオンは国を出ると決めている。不死となってしまうなら、このまま国へいることはできないだろう。別の地で、暮らしていける場所を見つけるしかない。
ずっと傍にいてくれということは、一緒に国を捨ててくれと言っているのと同じだ。
リーナの頬に手を添えながら、一瞬も逸らすことなく見る。考えていることを伝えるかのように。
「仕方ないから、一緒にいてあげるわよ。どこまでも一緒にね」
言わなくても考えていることを察してくれるリーナ。国を捨てるということも、しっかりと察したのだ。
「だから、二度と私を手放そうとしないでね」
頬を触れるクオンの手に、自分の手を重ねて微笑むリーナ。
「あぁ。二度と手放さねぇ。誰にも、お前をくれてやらねぇさ」
力強い眼差しに、久々に大好きなクオンが戻ってきたとリーナは思う。
・
一心同体の意味は、どういうことなのか。その辺りはまだ曖昧だとしか答えられない。
「容量オーバーってところだな。これ以上を思いだすには、完全に受け入れろということらしい。もっと早くに言ってほしかったぜ」
聖獣と接触したからだろうか。あれほど酷かった痛みが、今は感じられない。あの痛みはすべて、記憶を受け入れることへ限界がきていたからだ。
わかっているからこそ、もっと早く接触してくれればと思わずにはいられない。
「わかってるのは、聖獣がいないと力は不完全だってことぐらいだな。半減するって、前にあいつが言ってた。それでも、俺やリーナで手も足も出なかった魔物を倒したわけだが」
あのときか、とリーナも頷く。倒したのはリオン・アルヴァースだと知っているが、それだけしか知らない。リーナは見ていなかったからだ。
「受け入れると、クオンはどうなるの?」
彼は受け入れるつもりだということはわかっている。けれど、受け入れずに今いるのは、自分が関係しているのだろうということも、なんとなくわかった。
帰したくない癖に、帰そうとしたのがその証拠だ。
「……月神は、人間じゃねぇってさ。言葉通り、神様なのかは……先を受け入れねぇとわからねぇな」
死なないということを考えたら、神様なのかもしれないとも思う。
夢で見たリオン・アルヴァースは、老いることもなく、怪我はすぐに治る。あれが女神の力を得たからだというなら、他の二人も同じことだ。
だが、イリティス・シルヴァンとエリル・シーリスも不死でなければ、怪我がすぐさま治るなどということはない。
同じではなかった。そこに意味があると思えたのだ。
「そう。それはわかったら教えてね」
「お、おう……」
ニッコリと笑いながら言われれば、頷くしかない。
「死ななくなる……少し前なら、どういうことかわからなかっただろうけど、俺はあいつの記憶を見てるから」
どういうことか理解しているつもりだと言う。自分ではないが自分の記憶。そこで長い時を生きる姿を見てきたから。
「そう……私より長生きになったのね」
「これからなるんだよ!」
まだだと突っ込めば、クオンはフッと笑う。まさか、自分より長生きになった、などと言われるとは思わない。
次に思ったのは、自分が置いていかれると思っていたが、置いていくのか、ということだ。
「ふーん……俺はじじいになるのを見られるんじゃなくて、お前がばばあになるのを見るのか…いってぇ!」
思い切り殴られ、思わず身体を離すクオン。恨めしげに見て、すぐさま視線を泳がせた。
リーナはどう見ても怒っているからだ。
「あんたは……クオンのバカー!」
「ちょっ…」
再び迫ってきた拳にどうするかと思ったが、失言したのは自分なのでおとなしく受けることにした。
(クソ……ばばあってダメだったのか)
クロエが聞いていたなら、ダメだろうと言われたことは間違いない。呆れてため息をつかれていたかもしれないが、彼はここにいなかった。
「信じられない。こんなのがモテるなんて」
女心などなにも理解していない幼馴染み。騎士団の女性からモテているとは、信じられないと思っていた。
「第一、私はまだ、クオンに老いていく姿を見せるとは言っていないからね」
「えっ…」
次の瞬間、リーナが思っていたのとは違う反応が返ってくる。彼がこのような反応をするなど、おそらくクロエでも思わないだろう。
捨てられた子犬のようなクオンにリーナも驚く。けれど、だからほっとけないのだとも思う。
彼は強い。しかし、それは支えてくれる人がいるからこそだ。自分やクロエが、彼が強く在れるための存在となれるのならば、悪くないとすら思える。
「クオンの傍にいるために必要なら、私は星の女神になっても構わないよ」
深いことはわかっていない。それでも決意できたのは、相手がクオンだからだと言われれば、何度目かわからない言葉を呟く。
彼女に、まいったな、と思うのは何度目だろうか。
「どうなるか、マジでわからねぇからな」
月神が必要となる事態が起きているから、自分は今この状態なのだ。神が必要となる事態など、普通ではない。
リオン・アルヴァースが警告するように、大切だからこそ巻き込まない方がいい事態である可能性は高いだろう。
「望むところよ」
だが、彼女がこう答えることはらしいと思うし、それでも自分といたいと言われるのは嬉しくも思う。
(手放さなくても、いいのか……)
彼女を手放さなくてもいい。どこかで安堵している自分がいて、これは二度と手放せないという諦めにもなる。ならば、彼女を守りながら戦うのだ。
今のままでは力不足だが、リオン・アルヴァースの経験をすべて自分のものにすることができたら、そのときはもっと強くなれるのではないか。
(リーナを手放せないなら、俺はリーナを手放さないまま強くなるしかねぇ。やれる、やれないじゃねぇんだ。やるしか、俺には選択肢がない)
他に道がないと、これも受け入れるしかない。むしろ喜ぶべきなのか、とすら思えてくるから不思議だ。
彼女を手放さなくてよくなった現状に、感謝するべきだと。
「リーナ…」
痛みは感じなくなっているが、それでも身体は動かしにくい。負荷がかかっているのだから、仕方ないことだと引き寄せる。
理解してくれているからこそ、軽く引き寄せるだけで身を任せてくれた。
「痛くないの?」
「今は、な。聖獣と話してから、痛みは消えた。感じてねぇだけかもしれねぇが」
身体の怠さなどは残っていることから、ただ感じていないだけかもとは思っている。考えたくないだけで。
この後、もっと酷くなることも理解している。あの聖獣を受け入れるとは、そういうことだ。
だから、その前に済ませなくてはいけないことがある。ここまできて、なにも言わないわけにはいかないとクオンは温もりを感じていた。
深呼吸を一回。気持ちを落ち着かせると、真っ直ぐにリーナを見た。
真っ直ぐに見れば、クオンが好きな群青色の瞳が真っ直ぐに見てくる。ずっと自分だけを見ていてほしいと思う。
「俺はお前を手放したくない。だから、ずっと俺の隣にいろ。聖獣を受け入れ、月神となったあともだ」
彼女にすべてを捨てろと言っているに等しい。
クオンは国を出ると決めている。不死となってしまうなら、このまま国へいることはできないだろう。別の地で、暮らしていける場所を見つけるしかない。
ずっと傍にいてくれということは、一緒に国を捨ててくれと言っているのと同じだ。
リーナの頬に手を添えながら、一瞬も逸らすことなく見る。考えていることを伝えるかのように。
「仕方ないから、一緒にいてあげるわよ。どこまでも一緒にね」
言わなくても考えていることを察してくれるリーナ。国を捨てるということも、しっかりと察したのだ。
「だから、二度と私を手放そうとしないでね」
頬を触れるクオンの手に、自分の手を重ねて微笑むリーナ。
「あぁ。二度と手放さねぇ。誰にも、お前をくれてやらねぇさ」
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