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5部 よみがえる月神編

記憶の聖獣2

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 二人と二匹の旅が始まった。それは終わりの見えない旅で、母親を捜すよりも苦しい旅にもなった月日だ。

 最初のうちは問題なかったのだが、月日が経つことで彼らは気付く。自分達が老いないということを。老いないということは、死なないのではないかと思った辺りで考えることを放棄した。

 考えたくなかったのだ。死なない身体だなんて。

 傷がすぐに癒えるということに気付いたのはいつだっただろうか。魔物が出るようになってからだ。

「クッソー! 俺らがなにしたっつうんだよ!」

 燃え盛る炎の中心、そこに立っているシオン・アルヴァースとリオン・アルヴァース。

「化け物を殺せ!」

「あの化け物がいるから、魔物が溢れてるんだ!」

「女神様が消えてしまったのもすべてあいつらのせいだ!」

 叫ぶ人間達に、そうじゃないと言っていたのは最初のうちだけ。何度も続くようになれば、なにを言っても無駄だと諦めるように。

 ただ、だからといってそのことに慣れるわけでもなく、痛みを感じる身体が憎たらしくなっていく。空腹も痛みも感じなければいいのに、と何度思ったかわからない。

 焼かれた苦しみも繰り返せば、限界だというようにやり返してしまったこともある。辺り一面を氷漬けにしてしまったことで、人間以外からも狙われることとなった。

 魔物はもちろんだが、雇われエルフやハーフエルフが襲い掛かってくることもあったのだ。

 多少の人種差別はあるものの、この当時は共存していた。人間が暮らす集落を守ったり、魔物が現れてからは討伐したりもしていたのだ。

 そのまま、二人の噂を知った者が魔物の元凶と勘違いして襲い掛かってきたわけで、退ける度に悪い噂が増えていく。

「シオン!」

 反撃してもいいかと言うように兄を見れば、静かに首を振るだけ。シオン・アルヴァースはなにをされても、基本的に反撃することはない。

 自分達がどんな目に遭ってもだ。

「お前、なんで黙ってやられてるんだよ!」

 ここまでされて、どうして反撃しないのか。気になって聞いてみたところで、相手は人間だからと答えるだけ。

 魔物には容赦しないシオン・アルヴァースは、人間を相手に剣を抜くことも、力を使うこともしない。女神が守る者、だからだ。

 結局、いつも一番やられるのは兄だった。リオン・アルヴァースは兄に庇われることが多く、ある程度軽減しているからだ。

 傷ついた兄を連れ、どこかへ隠れるまでがいつもの行動。一晩も経てば、傷は自然と完治する。

 わかっているからこそ、反撃したいと思うのだ。これ以上、兄が苦しむ姿を見たくない。

「リオン、炎で視界が奪われる。抜け出すよ」

「あぁ」

 燃え上がる炎が高くなり、自分達を隠すようになると抜け出そうと腕を引っ張るシオン・アルヴァース。

 炎への耐性が強いのか、兄はある程度のことは平然としている。逆に、使う力に関係があるのか、炎には弱いリオン・アルヴァースはダメージが大きい。

 火傷はそれほどでもないのに、兄のように動くのもやっとだった。

 だが、抜け出してしばらくすれば立場は逆になる。回復したリオン・アルヴァースが、兄を抱えるように動くのだ。

「ヴェガ!」

『俺達はここだ。先にシオンが逃がしてくれたからな』

 繰り返せば聖獣達もどんな状態でやってくるかわかる。寝床になるようなところを見つけ、そこへ案内するのが二匹の役割になっていた。

 聖獣は自分達と繋がっている。強く感じるようになったのは、兄の怪我が酷いと影響を受ける姿を見たときだった。

 一晩もあれば治るとはいえ、痛むことは間違いがない。特に焼かれたあとは聖獣も一緒に寝込むことがあったのだ。

『また、酷くやられたな』

 聖獣が寝込むほどやられたのかと、水色の獣が言う。これで何度目だと言いたいのだろうが、そんなことは自分が一番思っていること。

 何度言っても、兄は決して反撃することなく耐える道を選ぶ。

『チッ、シオンの奴。ティアだって巻き込むっつうのに』

 苛立ったように言うから、逆に自分の怒りが静まるのを感じるリオン・アルヴァース。

 こいつはやっぱり、自分によく似ているとすら思った。考えていることも同じなのだと。だからこそ、同じことで苛立つ。

『まぁ、これがシオンなんだから仕方ないか』

「結局、その考えに落ち着くんだよな。困ったものだぜ」

 二人が同時にため息を吐くと、苦労が絶えないなと似た者同士は顔を見合わせた。

『説教ぐらいはしておけよ』

 聞かないぐらいはわかっているが、言わないよりは言った方がマシだ。任せたと言われれば、わかったと頷く。

 翌日、うなだれながら説教を聞く兄と、そんな兄を説教する弟。ここまでが一連の流れなのだ。

『せめて、ティアに影響が出ないようにやれっつうの』

 説教に便乗するのはリオン・アルヴァースの聖獣で、のんびりと毛繕いするのがシオン・アルヴァースの聖獣。この辺りもそっくりな二匹。

「次は気を付けるって」

「それ、何度目だよ。シオンの気を付けるほどあてにならないことねぇし」

「リオンの大丈夫だってあてにならないだろ」

「そうだったか?」

「そうだよ」

 お互い様だと言われれば、渋々引き下がるリオン・アルヴァース。

 仲のいい兄弟を見ていると、少しだけ羨ましいと思うクオン。兄のような存在はいても、兄弟はいない。両親は家を空けることが多かっただけに、兄弟がいたらと思ったことがある。

 誰にも言ったことはないし、実際に一人で寂しいと思うときはリーナがいた。

 睨みつけるだけのフォルスですら、そういったときには救いだと思える。一人ではないということは、血の繋がりに関係なくいいものだ、と思いながらクオンは闇に身を任せた。






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