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5部 よみがえる月神編

神馬と月の腕輪

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 目の前に射抜くように見てくる青年がいる。燃えるような赤髪に、強い力を宿した金色の瞳。

 自分の好きだった輝き。常に隣でキラキラと輝いていた青年が戻ってきた。残念なのは、彼の隣に立つことは二度とないということ。

 関係は隣で戦うものから、大切な者を奪う敵となってしまったのだから、仕方ないことだ。

(やっぱ、見たか……)

 最初に思ったのは、やはり夢を見たかということ。そして、これは彼の終わりを見せているのだろうこともわかる。

 次に思ったのは、なぜこのような状態になっているのかというもの。リオン・アルヴァースの記憶を見るようになってわかったのは、彼は兄が誰よりも大切だったということだ。

 そんな彼が、なぜ兄と敵対しているのだろうか。

(さすがに、これだけじゃわからねぇか)

 わかるのは、心が痛むということ。

 おそらく同調しているのだろう、とはクロエの考えだ。夢だが夢ではない。リオン・アルヴァースの記憶を見ることで、その当時の感情がそのまま流れ込んできているのではないか、と言われたのだ。

 そうかもしれない、とクオンも思っている。自分ではないが自分が感じた感情なのだから。

 周囲を見渡せば、他にも仲間がいるとわかる。自分の傍らにいるのは、血まみれになって死んだセイレーンの女性。

(そうか、あの夢もここだったのか)

 今から始まろうとしている戦いで、彼女は死んでしまったのだ。

 どことなく冷え切った表情。けれど、彼女は本来こうではないと、なぜか知っている。なぜかではないな、と思い直す。

(俺はあいつだから、知ってる。彼女は、本当はあのような表情を浮かべる女じゃない。そうだ、本当ならここに連れてくるつもりじゃなかった……)

 でも、どうすることもできずに巻き込んだ。だから同じことをしないために、彼は警告を発してきた。

 このままだと、同じ道を歩むかもしれない。可能性があることは、あの戦いで理解しているつもりだ。

 リオン・アルヴァースが手を貸してくれなければ、リーナは死んでいたかもしれない。いや、間違いなく死なせていただろう。

(クロエは手を貸すと言ってくれたが……)

 だからといって、クロエが無事という保証もない。ないのだと気付かされてしまった。

 目の前で繰り広げられる戦いは、次元が違うと冷や汗が流れる。これはまるで、神々の戦いだ。

(神……メリシル国では太陽神と呼ばれていたシオン・アルヴァース)

 本当に神なのか。どこか信じていなかったが、この戦いを見れば信じるしかない。

 目を離すことができない戦いは、クロエですら敵わないだろうと言い切れた。幼馴染みの本気を見たことはないのだが、この次元で戦える者などいないと思ったのだ。

(シオン・アルヴァースは生きてるんだよな…)

 以前イクティスから聞いた話を思いだせば、この戦いを続けるのかと思う。

 どのような理由でこうなったのかわからないが、この二人が戦うほどのことがあった。再び戦うかもしれないと思う。

(もしも、そうなれば……リーナもクロエも死ぬ)

 自分のせいで死なせてしまうかもしれない。そんな風に思ったら、急に怖くなってきた。

 クオンにとって、二人は大切な幼馴染み。友人がいない中、騎士団でなんとかやってこられたのは二人がいたからだ。絶対に失いたくない存在を巻き込んでいいのか。

 このままセレンへ行っていいのか、迷いが生じた瞬間だった。

 先を見ていれば、答えはあるかもしれない。けれど、そこに答えはないかもしれない。

(……選択肢なんてねぇ。見続けるしか道はない)

 この状態になってしまえば、自分から起きることはできないと知っている。

 夢で苦しんだ日々、何度も試したのだ。見たくなくて、どうにかして起きられないのかと。

 起きられたことは一度もない。誰かが叩き起こしてくれれば、起きることができるのだろう。だが、寝ている自分があからさまに見せない限り、さすがのクロエも起こしてくれることはない。

 いくら勘がよかったとしても、さすがにそこまで察知はできないだろう。

(この戦いは……)

 どうして起きたのか。教えてくれと思った。

『……この戦いは、俺が始めたもの。シオンが始めたものじゃねぇ。そして、シオンは恨むような奴でもねぇ。お前が見て、感じたものを信じろ』

 お前は俺だ、とどこからか声をかけられ、ハッとしたように見渡す。

 当然ながら、声をかけてきたもう一人の自分はいない。目の前にいるのは、記憶でしかないのだ。

 なぜ、急に話しかけてきたのだろうか。気になるが、問いかけたところで答えてくれないのだろう。

 なにを考えているのかわからない。自分であろうが自分ではないのだから、こればかりは仕方ないと思う。

『一度起きろ』

 今までのような、クオンで遊んでいた声ではない。真剣に言っているのだ。

「どうしたんだよ、急に」

『客が来てる』

「客?」

 こんなところに誰が訪ねてくるのか。そもそも、自分を訪ねるような者などいないはずだ。

 けれど、真剣な声で言われると誰か来ているのかも、と思い直す。彼が起きろと言うほどの誰かが。

『……あれを残したのも忘れてたぜ』

 起きろと言われたところで、どうしたら起きられるのかと思ったとき、そんな声が聞こえてきた。小さく呟くような声で、なんのことかと問いかけようとした瞬間、目を覚ます。

「どうした?」

 不思議そうに見てくるクロエを見れば、本当に起きたのだと思う。これもリオン・アルヴァースがやったのだろうかと思うほど、目覚めが悪くない。

 自分でも驚いているのだから、なにかあると思っていたクロエも驚いているだろうと思う。わかりづらいが。

 とにかく、夢を見たのか確認されれば、少しだけ見たと答える。

「客が来たって、あいつに起こされた」

 誰か来てるかと視線だけで問いかければ、クロエは来ていないと首を振った。少なくとも、彼は気付いていない。

 ならばこれから来るのかもしれないと思う。自分が気付かなくても、彼なら気付くと思っていたのだ。

「ふむ……リオン・アルヴァースが言うなら間違いはないと思うが……会話できるのか?」

 どことなく困惑したように聞いてくるから、言っていなかったと思いだす。

 さすがに、こんなことを言って信じてもらえるのかと思ったのもあるが、必要ないとも思っていたのだ。接触したくてできるかもわからないのだから、ないものと考えるべきだと思い。

「……怒ってるのか?」

 言葉を発しない幼馴染みに、また怒っているのかもと見上げる。彼は怒らせると大変なだけに、なるべく怒らせたくない。

「いや、そうじゃない。考えもしなかっただけだ」

 転生という概念自体はわかっているのだが、転生前の自分と話せるということは考えもしなかった。自分と自分が話すということなのだから、当然かもしれない。






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