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4部 女神の末裔編

魔物の気配

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 メイスの村に戻り二日後、妙な気配が村の中を漂っていた。嫌な気配がすると、誰もが警戒する。

 特殊な村なこともあって、村人ですらその異様さは感じていたことだろう。

「村の中と外で警戒しているが、なるべくなら外で起きてほしいものだな」

 家の中から外を見るアシルは、困ったものだとぼやく。さすがに村の中だとやりづらい。

 決して広くはない村。魔物がやってきたら、逃げ場がないどころか壊されてしまうだろう。

 よくて半壊ぐらいだと思っていたが、最悪は全壊も覚悟しなくてはいけない。いっその事、全員で外にいた方がいいのではないかと思うほどだ。

 けれど、全員が外へ出て中でなにかあったらと思えば実行できない。

「なにを考えてんだ?」

「ん? 外で待ち伏せた方がいいのかな、といったところだ。村壊したくないだろ」

「あー、なるほどな」

 実行して村の中に現れたら、というのが気になっているのだと、ヴェルトは察した。

 彼が考えていることはどちらも理解できる。ヴェルトも難しい問題だなと、険しい表情を浮かべた。

「あら、日が暮れたら外へ行くわよ。村を巻き込む気はないもの」

 二人が難しい表情を浮かべて考えていると、イリティスはあっさりと言う。

 思わず、聞き間違えたかと二人は顔を見合わせたほどに。

「これは外から来る魔物でしょうから、外で待ち受けるわ。狙いは私の可能性が高いしね。けど、絶対ではないわ。中も現れる可能性は否定できない」

 来るのが外からの魔物であるなら、間違いなく自分を狙ってくると思っていた。

 けれど、シオンと縁のあるここを壊したいということなら、中に現れるだろう。村を壊すためというよりは、この家を壊すために現れるはずだ。

「両方という可能性も考えた方がいいかと」

 彼女の言葉を聞き、シャルがその可能性も考えるべきだと言う。

「そうね。どちらにしても、私は外へ出ようかと思うわ。村の中では聖弓も力を弱めないと使えないし。私が外へ出れば、なにかしらは引き寄せられるでしょう」

 イリティス一人を狙ってのことなら、村を巻き込まなくて済む。そうではなく両方だった場合、襲い掛かる魔物を分断できるだろう。

 この判断ができるのも、傭兵達が手を貸してくれるからだ。人手が増えたからできることで、そうでなかった場合はどうしたものかと悩んだことだろう。

「シャルについてきてもらうかが、ちょっと悩むところなのだけど」

「ついていきますよ。俺はそのために来てるんですから」

 なにを言っているのかとシャルが見れば、ヴェルトは苦笑いを浮かべる。

 言っている意味はわかるのだが、目の前にいる女神の相手をできる者など他にいない。是非とも連れて行ってほしいものだと思う。

「そうですよ。イリティスお姉様の護衛として来てくれているのですから、連れて行くべきです」

 話を聞いていたリーシュまで言えば、イリティスは渋々という表情で了承した。

「聖槍を使えるシャルを中に残そうかと思ったのだけど」

「もしものときは、早急に外を倒して中へ行けばいいではないですか」

 聖弓と聖槍があれば可能なはずだと言えば、それもそうね、とイリティスは呟く。シャルは手にしたばかりで倒しているし、サポートが自分なら時間はかかわらず倒せるだろう。

 リーシュの傍には彼もいるし、なんとかなるだろうか、と思うことにした。

 リーシュを守る青年。彼がいれば時間稼ぎぐらい可能だろう。傭兵組合のアシル達もいる。

「では、イリティス殿とシャル殿が外で待機する間、村の中は我々が守るということで伝えましょう。人手は不要ですか?」

 戦闘になった際、前線で戦えるのがシャルだけなのは、大丈夫なのかとアシルが問いかければ、イリティスはシャルへ視線を向けた。

 これに関しては、判断するのはシャルだ。彼が一人で戦うか、誰かを伴って戦うかという問題になるのだから。

「……そうですね。聖槍でなければ倒せない魔物だった場合は、いらないと言うところなのですが」

「そうでない可能性と、そうではない魔物も一緒の可能性ですね。ならば、アシルが適任かもしれません」

 判断力はもちろんだが、動ける傭兵がいいだろうとシザが言う。

「アシルは一人で勝手に判断して動いてくれますよ」

 微笑みながら言えば、肝心のアシルは引きつった笑みを浮かべている。シザの微笑みが恐ろしいものに見えていたのだ。

 判断ミスしてなにかあっても、知らないわよ、という含みがあると気付いてしまった。なんなら、妻にチクられるとすら思っていたかもしれない。

 背中を冷や汗が流れるのを感じながら、やるしかないと引き受けたアシル。

「精霊の巫女には王子様がいるし、王子様には護衛騎士がいる。アシルが外へ出ても問題ないわよ。安心してね」

「はい……」

 二人のやり取りを見ていたイリティスが笑いを堪えていると、シャルも視線を逸らす。いい関係だと思ったのかもしれない。

「傭兵組合って、面白いのね。グレンが連れてきたのもそうだけど、あなた達も見ていて飽きないわ」

「傭兵王が連れてきた傭兵、ですか」

 いつの間に、とシザが言うから、東で傭兵をして情報収集をしていたとだけ伝える。そのまま行動を共にしていた傭兵を連れて来たのだと言われれば、なるほどと頷く。

「カルヴィブなら、そのままつかせそうですね」

「そうだな。あいつも前に組んでたと」

「奥様ね」

「……あぁ、妻がな」

 視線を逸らしながら言えば、イリティスはここも繋がるのかと笑う。

 彼の妻が、今セレンに来ている傭兵組合の副組合長だと気付いたのだ。グレンと一度組んだことのある元傭兵のことを言っているのだと。



 とりあえず方向性が決まったとわかれば、それまではゆっくりしようと言うイリティスに、それぞれが己の考えに動き出す。

 リーシュも駄目元と思いながら連絡を取ろうとした。予定外の連絡なだけに、取れなければ諦めるつもりで。

「どうした?」

 だから、応えてくれたときにはホッとした。

「魔物が村を襲ってくるかもしれないのです。この村か、もしくはイリティスお姉様を狙って」

「……可能な限り手短に詳しく話せ」

 村が魔物に襲われると聞いた瞬間、セルティはリーシュが見たこともないほど険しい表情を浮かべる。一大事だと判断したのだろう。

「外からの魔物は、太陽神の力を感知して襲っているようです。初めに東で英雄王が、その次に西で歌の女神が襲われたそうです。イリティスお姉様は、ここが太陽神縁の地であるから、ここが狙われるかもと」

 村はもちろん、虹の女神も太陽神の力を元にしていることから狙われるかも、という結論を出していたことを伝える。

 同時に、朝から村を包む妙な気配も伝えれば、セルティは険しい表情を浮かべたまま考え込む。

 待つべきかと思ったが、おそらくこのまま話を続けて問題ないだろうとリーシュは判断する。

「現在、傭兵組合の方々が十人ちょっと滞在されています。彼らに村の守護をお任せすることになっているのですが」

「問題は外からの魔物か。虹の女神を狙ってなら、それだけを倒せばいい。虹の女神なら聖弓があるしな」

 けれど、そうではなかった場合が問題だとセルティも言う。

 彼もすべてを伝え聞く家系。外からの魔物がどのようなものなのか理解しているし、喋る魔物と英雄達の戦いも聞いただけだが知っている。

 喋る魔物とまともに戦うには聖剣や聖槍といった、この世界では神の力とも言うべきものが必要になってくるのだ。

「そうではなかった場合どうするのか決めてるのか」

「一先ず、村を巻き込まないためにとイリティスお姉様は外で待機することになりました。傍には二人ハーフエルフが付きます。中にも現れた場合、外を倒してすぐに戻るということです」

 それまでは中に残っているメンバーで耐えなければいけない。

 中に残るのは傭兵達と精霊契約を交わしている人間二人。普通の魔物を相手にするなら、それほど問題はない戦力だ。





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