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4部 女神の末裔編

メイスへ帰還2

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 今すぐにでも飛び出しそうなヴェルトを引き留め、アシルはその一帯の情報を精霊から求める。

 精霊が妨害しているなら、精霊から聞き出すしかない。幸いにも精霊と契約しているのが二人もいるのだから、利用させてもらおうということだ。

「我々が到着したときには、入れてもらえるようです」

 トレセスが伝えれば、助かるとアシルが地図を見る。どの辺りから精霊が守っているのか、今回特別だと精霊達が教えてくれた範囲を丸で囲う。

 そこまで広くはないが、精霊の巫女のためだけにしていると考えれば広いとも思えた。

「村は襲われていないということだが、俺達が向かう道のりは魔物が増えてるそうだ。あと、誰かが村を守ってるみたいだ」

 それが誰なのかまでは、精霊達は教えてくれない。契約精霊でも、そこは濁しているのだ。

 聞き出そうとすれば聞き出せるかもしれないが、そうまでして聞き出そうとは思っていない。精霊達にも隠していることぐらいあるだろうと。

「……戦力のある村なのか?」

「ねぇ。少なくとも、あの村に戦える奴はいない。魔法は得意だが」

 魔法に関しては、誰よりも得意だろう。それで持ちこたえているのかもしれないと、思うことにした。

 だからこそ、早く行きたいと思っているのだ。こんなところでのんびりしている暇はない。

 だが、休息も大切だとわかっている。支度もせずに行ける距離ではないこともだ。普通に行っても一月ぐらいはかかる距離。

 一日休むぐらいでは響かない。

「アシル、あれは使えるようになっているわ」

「あぁ、助かる」

 シザが耳打ちすると、これで少しは彼の機嫌も戻るだろうとアシルは笑う。

「ヴェルト、秘密兵器が使えるってさ。これで、十日もあればメイスに行ける」

 なにを言うのかと見るヴェルトに、ニヤリと笑うアシル。

 傭兵組合だけが使う秘密兵器。これがあれば短縮できると言う彼は、嘘をついている表情ではない。本当にそのようなものがあるのかと、ヴェルトは見る。

「少数にしたのも、あれを使う為でしょ」

「あぁ。乗れる人数が限られてるからな」

 制限内で行かなくてはいけないという問題はあるが、動かせる人数が少なければ便利な代物。馬よりも速く動くし、魔力装置が動力なので使用方法も難しくはない。

 問題があるとしたら、動力となる魔力装置の数だけだ。足りずに切れたら動かなくなってしまう。

「船の改良型みたいなものだな。今の船はすべて魔力装置によって動くだろ。そこから考えられた代物だ」

 飛行船だと言われれば、酷く驚かされる。誰も空を飛ぶ船があろうとは思わないだろう。

「もちろん、飛行ということで普通の船より魔力装置も多く使うのです」

 本当に困ったときだけ使うと言われれば、それは大変だと苦笑い。魔力装置に詳しくはないが、高額な物だということだけはわかっている。

 それを大量に使うとなれば、簡単に使えるものではないことぐらいわかるというもの。使わせてくれることに感謝するべきなのだろう。

「精霊の巫女に危機が迫っているとなれば、さすがに出し惜しみしている場合じゃないからな」

「えぇ。私達は直接的なやり取りをしていませんが、精霊の巫女は北とのやり取りをしていますから」

 繋がりでそのまま北から情報が流れてくることもある。それも、連絡のすべてが魔物に関することだ。

 お陰で困った事態になったことはない。事前に対処することができているからだ。

「恩がある以上、ここで俺達が行かないという選択肢はない。もちろん、出し惜しみをする必要性もないだろ」

「可能な限り迅速に動きます」

 アシルとシザが言えば、ヴェルトは手を組んでよかったと思う。そうでなければ、こうも早く情報が入ることはなかったかもしれないし、情報を得てもすぐに行くことはできなかっただろう。



 飛行船は想定以上の速さで動いてくれた。しかし、それは魔物が増えている地点に行くまでのこと。

 魔物が増えているだけあって、定期的に止めて討伐しなくてはいけない。これを繰り返せば、時間は奪われていくだけ。

 焦る気持ちを抑えながら、ヴェルトは早く向かうために魔物を倒しては進むを繰り返す。

 傭兵達には感謝するべきなのだろう。魔物を倒すために飛行船を止めているのに、予定通り十日で村まで着けてくれたのだから。

 けれど、その周辺に魔物は溢れていた。精霊の守りが崩されているのだ。

「突破する。精霊達から許可は下りているから、暴れてやれ!」

 アシルが声をかければ、傭兵達は一気に斬りかかった。集まっている魔物が村へ襲い掛からないようにと。

「船は大丈夫なのか?」

 すべて動かすのを見て、守らなくていいのかとヴェルトが見る。

「結界の魔力装置がある。問題ない」

 しっかりと守ってあると知れば、ならば気にする必要はないかと安心した。貴重な物を使わせてもらっただけに、なにかあったらと気にしていたのだ。

 切り崩しに向かえば、村に入ろうとしているが入れない、という状態なのがわかった。

 魔物が増えたことで、精霊達は村へ入れないことを一番にしているのかもしれない。

 ならば今のうちに殲滅するだけだ。中へ入れてしまえば、村人達に戦う術はない。逃げ場もないのだと、ヴェルトは誰よりも知っている。

「ヴェルト様、村の入り口に誰かおります。守ってくれていたという人物ではないでしょうか」

 魔物が中へ入れないのは、精霊だけが原因ではない。入り口を死守するように戦う男性がいたのだ。

「あれは、ハーフエルフだな」

 近くで剣を振るっていたアシルが言えば、精霊からもハーフエルフがいると言われたヴェルト。

 村を出る前にはいなかったことから、留守にしている間に誰か訪ねて来たのかもしれないと思う。精霊が受け入れた客人に興味がでる。

「ある程度は問題なさそうだが、一人で戦うにはきつい状況だろう。誰でもいい! 隙を見て助っ人に行け!」

 声を張り上げれば、他の傭兵達から了承の返事。

 彼らも言われるまでもなく、助っ人に行くつもりでいたのだ。

 参加している傭兵達は、ほとんどがハーフエルフだ。中にはエルフもいるのだが、どちらにとっても同族と変わらない。

 助けに行かなくては、と思っていたのだ。

「数だけ無駄に多いな」

 次から次へと襲い掛かってくる魔物に、アシルですら苛立ちを覚える。彼でこうなのだから、ヴェルトはもっとだろうとシザは思っていた。

 けれど、隣を見てみれば誰よりも冷静に判断している。

(意外だわ)

 大切な者が狙われている状態で、こうも冷静になれるとは思っていなかった。

 彼の評価を変えるべきだろうかと思ったほどに。

「シザ、サポート頼む。あちら側に行きたい」

「任せて」

 突破しようとすればするほど、魔物が集まってくるような気がしていた。強引に突破するしかないだろうと判断すれば、そのための補佐を頼むアシル。

 自分が突き破れば、ヴェルトはついてくるだろう。彼がついてくれば、トレセスも同様についてくる。

 三人が助っ人に行ければ入り口が突破されることはないだろう。

 真剣な表情で前を見ると、アシルはシザが動くのを待った。彼女に任せれば間違いないと。







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