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4部 女神の末裔編

王子の幼馴染み2

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 意外な反応に笑みを浮かべつつ、リーシュはこれがずっと続けばいいのにと思う。

(隠してるつもりなんだよね)

 彼が見せかけ通りではないと、今のリーシュにはわかっている。いや、出会ったときからと言うべきなのかもしれない。

 ヴェルトは知らないだろう。リーシュがあのとき一目惚れしていたなど。

 互いに一目惚れしていたなど、どちらも思いもしないことだ。

「あれ?」

 恥ずかしがるヴェルトをチラチラと見ながら歩いていれば、精霊達がそっちじゃないと呼びかける。目当ての人物はあっちだと広場を示す。

「どうした?」

「精霊達が、ヴェルトのお知り合いはあっちにいるって」

 どうして広場にいるのだろうかと思うリーシュに、そういうことかとヴェルトは笑う。

「運動でもしてるんだろ」

 彼は騎士である。おそらく身体を動かしに広場へ行っているのだろう。ここでやることなど、他になにもない。

 想像がつくだけに笑うだけ。この時間から動いているなら、寝泊まりのお代としてなにかしら手伝っているのだろう。トレセスとはそういう男だ。

 だからこそ、ヴェルトは彼だけは信じている。

 ならばそちらへ行くかと、行き先を変更してすぐのこと。子供達が笑う声が響き渡る。

 広場を遊び場にしている子供達が、外から来た客人を警戒することもなく無邪気に囲っている光景は珍しい。ヴェルトは数ヶ月も警戒されていたほどだった。

 もちろん、その原因となるひとつは彼がピリピリしていたのが響いているのだろう。

「もう馴染んでるのかよ」

「あっ、巫女様だー!」

「巫女様―!」

 ヴェルトの声に反応した子供達が、隣にいるリーシュに気付き駆け寄る。

 慌てたように手を離すのと、子供達が飛びつくのが同時。

 どことなくムッとしたようにヴェルトが見れば、トレセスは笑いながら近づいてきた。

「なに笑ってんだよ」

「いえ、随分と可愛らしい姿があるのだなと思いましてね」

 子供に妬くなど、大人げないと言われているようで、ヴェルトはさらに苛立つ。トレセスが相手だからこそ、苛立つのだ。

 信頼しているが、その反面嫌な奴とも思う。見た目に反して性格はよくないと知っているから思うのだ。

 リーシュは子供達と少し話した後、トレセスへと向き直った。

「あなたがヴェルトの幼馴染み?」

「はい。トレセス・ブローディアと申します。精霊の巫女にお会いできて光栄です」

 笑みを浮かべながら挨拶をすれば、隣で不機嫌そうに見ているヴェルトにどちらも吹き出す。

「困ったものね。私はリーシュ・シーゼルです。あなたさえよければ、うちへどうぞって言うつもりだったんだけど」

 やめたと言うリーシュは、ヴェルトを見ながら苦笑いを浮かべている。

 彼のこの様子では、そんなことをした瞬間からずっと不機嫌になるだろう。そうすると、精霊達も機嫌が悪くなる。

(自覚がないのよね。精霊達がヴェルトを気に入っているって)

 ここまで精霊が誰かを気に入るのは珍しいだけに、リーシュですら不思議に思っていた。

 それと同時に、だからこそ彼には国へ戻ることを勧めたい。きっといい王になれると思うから。

(王になったら……)

 けれど、と思ってしまう。彼が王になれたら、そのときは完全に別れのときだ。精霊の巫女と王が一緒になることなどない。

 いつか本来の場所へ帰っていく彼が、一時の憩いを得る場としてここがあるならば、それだけでも十分かもしれない。

「トレセス殿もシュスト国の出身でいいの?」

「そうです。このどうしようもない王子様が、城下をウロウロしていたときに出会ったのです」

 この辺りは真実なだけに、ヴェルトも視線を逸らして誤魔化そうとする。

 だが、できるわけがない。リーシュと出会ったときも同じなのだから。彼が城を抜け出していたことを誰よりも知っている。

「私のときと同じ」

「なるほど。巫女様も脱走した王子様と出会ったわけですね」

「そうなの」

 笑いながら二人が会話を交わせば、ヴェルトはムスッとしながらも黙っていた。

 嘘でも言われればトレセスに噛みつけたのだが、この会話は事実なだけになにも言えない。内心は罵詈雑言なのだが、リーシュの前だからと耐えているといったところ。

「脱走の常習犯が、二年も同じ場所にいたと聞いて驚いております」

 澄ましたように言えば、リーシュは吹き出していた。確かにそうかもしれないと、思ってしまったのだ。

 この村では、確かに脱走のようなことはしていない。やったら精霊達から追い出されると思っているのか、本気で考えてしまったほどだ。

「そんなわけで、こちらお借りしてもいいでしょうか」

 こちら、とヴェルトを示すトレセスに声を上げて笑った。

 友人が訪ねてきて、ちょっと出かける。これなら精霊達はなにも言わないだろう。彼も気分転換ができるだろうし、悪くないかもしれない。

「ご自由にどうぞ。たまにはお出かけもいいでしょ」

「お土産は持ち帰るように言っておきますね」

 手ぶらでは帰しませんと言えば、クスクスと笑うリーシュ。さすが彼が知人と言うだけあると思ったのだ。

 ヴェルトが王子だとわかっていて、こうまで言えるのだから感心すらできる。逆にそれだけの関係を築き上げたということだ。

「戻るときには、精霊に声をかけておいてね。急に帰ってくると、食事とか困るから」

「わかってる。ちゃんと一言頼んでおく」

 声を聞くことはできなくても、呼びかければ伝言ぐらいはできる。わかっているからこそ、ヴェルトもその辺りはよく頼むことがあった。

 むしろ、精霊達の提案で動くのだから、しっかりと伝えてもらえないと困るとも思うところだ。






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