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3部 永久の歌姫編

神殿への道のり

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 メリシル国からセレーネ神殿までは、徒歩で三日ほどかかる。セイレーン達が暮らす地ということもあって、西の大陸には馬がほとんどいない。

 まったくいないわけではないが、セイレーン達は馬に乗るぐらいなら飛んで移動する。一昔前までは道すら整備されていなかったほど、西の大陸は空移動が当たり前。

「のんびりしていていいのですか?」

 飛んで行けば、徒歩より早い一日半で行ける。むしろ、アクアは歩くことができない。

 彼女が生まれた頃は、歩かないのが当たり前だったのだから仕方ないことではある。

「いいのー。グレン君もしばらく傭兵としてお仕事するって言ってたし」

 そんなに急ぐ必要はないと思っているアクア。そもそも、自分に期待されていることは星視だ。

 他のことは一切期待されていない。

「そ、そんなことは……」

 聞いたソニアは、ないと言い切れなかった。彼女の性格を知れば知るほど、あり得ると思うほどだ。

「いいのいいの。気にしてないから」

 色々と考えたり調べたりは苦手だと認識している。必要であればやるが、そうでないならやりたくないと思うほどに。

 星視をする上で必要なことであれば調べるが、それ以外は基本的にグレン任せにしているのがアクアだ。

 王として国を治めていただけではなく、傭兵としても各地を渡り歩いていたグレン。知り合った当時から知識の差は明らかだった。

 嫁ぐ際には色々と頑張ったのだが、あくまでも頑張っただけ。なにか身に付いたのかと問われれば、わからないと答えただろう。

(うん、なにも身に付いてないかな)

 結局のところ、王妃となったあともなにか特別なことをした記憶はない。

 あくまでも、アクアの認識ではの話だ。

「そんなわけで、あたしがここでするのは星視だけ。まぁ、なにか視てほしいことがあれば、連絡がくるんじゃないかな」

 他の仲間が自分を頼るほどのことが起きた、ということにもなるのだが。

 そのことはあえて考えないようにする。今考えても仕方ないからだ。

 ことが起きてからでもいいだろう、と考える辺りがアクアらしい。なるべく考えることを放棄していたいというのが、彼女の考え方だ。

 考えるのが嫌いという理由だけではなく、一人ぐらいお気楽がいた方がいい、という考えがあるのを知る者はイリティスだけだ。

 グレンは色々と考え込むタイプなだけに、これぐらいがちょうどいいと思っている。

「ソニアも、もうちょっと気楽にいこうよ。なんか固いんだよなぁ」

 自分の護衛になる騎士は、大体がこうだと拗ねたように言う。

 そもそも護衛などいらないと思っているのだが、言ったところで聞いてもらえないこともわかっている。

「いつ魔物に襲われるかわからないのですよ。外にいるからこそ、気を抜くわけにはいかないんです」

 気楽になど行けるわけがないと言われれば、ムスッとしたように頬を膨らませるアクア。

 三千年も生きているはずなのだが、その行動は子供のようで可愛いと思ってしまう。

「本来なら、もっと護衛を付けて行くべきだというのに」

 アクアが嫌がるから、女王もルアナもソニア一人に任せている。彼女の実力なら、ある程度のことは一人で対応できるから。

 けれど、絶対はない。彼女でも対応できないようなことが起きたときを考えれば、護衛を増やしたいというのが本音だ。

 ソニアはわかっているからこそ、外へ出たときはさらに警戒するようにしていた。

 彼女だけは絶対に守らなければいけないからだ。

「アクア様、私は職務中です」

「うん、でもさ、外に出てるときは誰も見てないじゃん」

 だからもっと気楽にしてと上目遣いで言われてしまえば、心が揺らぐのがわかる。

 簡単に揺さぶってくるのだが、それによってなにかあったらと思い振り払う。

「外にいるからこそ、ですよ。魔物がどこから来るかわからないんですから」

「それはそうなんだけどさぁ」

 グレンからも、外へ行くなら気を付けろと言われているだけに、これは反論できない。自分は騎士でなければ傭兵でもないのだ。

 なんとなく察知することはできるが、そのときには近づかれていて逃げるには遅い。

 少数なら戦うことができるが、数が多くなればどこまで戦えるかはわからなかった。普段はグレンの後ろでサポートするだけだからだ。

 長い月日でそれなりの訓練はしているが、前衛がいてこその訓練しかしていない。ソニアがいてこそ戦えることは、しっかりと自覚していた。

 ソニアと軽く話せる関係を諦めたアクア。とりあえず外にいる間は無理と思ったのだ。

(ヴァルス君やリオ君みたいには、いかないんだなぁ)

 北の大国で王妃をしていた頃、気さくだった騎士二人は珍しいのだと思う。それとも土地柄だろうかと思わずにはいられない。

 自分の存在はたいしたものではないと思っているだけに、土地柄だと納得して進むことにだけ集中する。

「アクア様、セレーネ神殿へ行かれたことがあるんですか?」

 迷うことなく道を進む姿に、歌姫だった彼女が舞姫のいた神殿へ行ったことがあるのかと不思議に思う。

 本来なら神殿の行き来はない。移動するということもほとんどない。

 当然と言えば当然だろう。それぞれ、素質に合わせて配属されていくのだから。

「あるよー。お姉ちゃんがセレーネ神殿だったから」

「お姉様が」

 姉妹で神官も珍しいことではない。神官になることが当たり前に近いのだから、当然ながら姉妹で神官になるし、所属が違うこともある。

 素質で決まるからだ。どちらかが歌で、どちらかが舞い。別の神殿へ配属されると、会うことは難しくなる。

 神殿の位置が遠すぎるのだが、歌姫であったアクアのためなら奥の手を使って移動できただろう。

 どのような仕組みなのかはわからないが、各神殿には魔法移動できる手段がある。

 この世界では魔法の移動手段はない。瞬間移動のような魔法があればどれだけ便利だろうと思うが、なぜか使うことができないのだ。

 長い月日の間、誰も試さなかったわけではないだろう。それなのに使えたという話はない。

「あれを使っていたのですか?」

 ソニアも話で聞いた程度のもので、使ったことはなかった。おそらくソル神殿にあるのだと思っている。神官長が城と神殿を行き来するためのものだと。

「あれねー。エトワール神殿から城へ行くときは使ってたかな。陛下が使えって言ってたから」

 神殿を繋ぐためにあると知っているのは、神官長と王族だけ。当時、王族と変わらない待遇を受けていたアクアだからこそ、それが使えたのだ。

「あれがなんなのかは、聞いてもいいことですか」

 使う日がくるとは思っていないが、少しばかり気になってはいた。どのような技術なのだろうかと。






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