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3部 永久の歌姫編

預言者と対面

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 暗闇を照らす淡い光。城の隠された一室、そこにアクアはいた。一枚の絵を眺めながら。

 背後にはそっと付き添うソニアの姿。彼女の護衛であるからこそ、この隠された部屋へ入ることが許されている。

 この部屋は、城の奥底と言ってもいいほど地下にあった。代々、女王のみが入ることを許された部屋であり、かつては七英雄の絵が飾られていた場所でもある。

 現在は中央の大陸セレンにある天空城へ運ばれてしまったが、代わりというように一枚の絵が飾られていた。

 三千年前、メリシル国の女王が描いた一枚の絵だ。

「ソニアはこの絵を見るのは初めて?」

「はい。ここへ入れるのは、アクア様の護衛だからですし」

「そっかぁ。まだその決まりあるのかぁ」

 もう七英雄の絵はないのにな、と呟くから苦笑いを浮かべる。

 そういう問題ではないのだろう。ここはすべてを管理する場所として、今現在使われているのだということぐらいソニアでもわかる。

 アクアを含め、セレンの秘密は女王が管理しているのだから。

 護衛という立場を得ても、完全にすべてを知っているわけではない。

 知っているのは、北の大陸で王妃であったこと。メリシル国で歌姫という立場にあり、星視の能力も非常に高いということ。

 そして、太陽神と友人で不死となっているということのみだ。

 その他のことは、歴史として残されている通りの内容でしか知らない。

「これはね、女神メルレール様なんだって。昔は歴史書にも残されてたんだけど、わざと違う姿で描かれてたから消されちゃったんだ」

 目的があって、意図的にされていたこと。もう必要はないだろうと判断され、歴史書に載せていた絵は削除されてしまった。

 その後、すべてを伝える国であることから、この絵が描かれて女王に継がれているのだ。数冊の本と共に。

「気になるようでしたら、ソニアも読んでいいですよ」

「陛下!」

 突然聞こえてきた声に、慌てたように振り返るソニア。すぐさま脇へと移動するから、入って来た女王は苦笑いを浮かべた。

 そこまでしなくても、と思っているのだ。

「お待たせしました、アクア様」

 ようやくすべての政務が終わり、女王はこの場へやって来たのだ。

 話す場にここを選んだのは言うまでもないだろう。もしも、ということもあり得る。誰かに聞かれては困ることから、絶対に安心できる場所を選んだのだ。

 現在この国を治める女王レウィシア・リア・ゼフィラントは、即位してから五十年。

 月神の予言が下ったのは先代の時代であったが、当然ながらそれらもすべて受け継がれている。

「ご無沙汰しております、アクア様」

 背後には女王の夫となるソル神殿の神官長シルベルト・リア・ゼフィラン。

「シルベ、また一段と猫かぶりが上手くなった?」

 温厚そうに見えるシルベルトだが、実際は違うと知っているのは身内だけ。親しい友人などは誰もが知っている彼の性格は、荒くれものと称されている。

「そうだろ、そうだろ! やっぱ上手くなったよな!」

 すげぇだろ、と胸を張る姿に女王の鋭い視線が投げかけられた。

 慣れたもので、シルベルトは平然と受け流すから笑ったのはアクアだ。

 唖然としたように見ているのは、ソニアともう一人やってきた青年だ。表向きはこのような態度を見せない二人なだけに、意外な姿を見たと思っているのかもしれない。

「昔からこうだよ。幼馴染みだもんね」

「おうよ! 俺はいつもこんなんだぜ」

「誇れない」

 ため息をつく女王を尻目に、シルベルトとアクアは意気投合。当然ながら、彼のことも昔から知っているのだ。

 昔は二人で悪戯をする仲であったのも、城の一部では有名な話。アクアが一緒なこともあって、誰も叱れないという厄介さでもあった。

「お前な、騎士になりたかったのを神官になってやったんだからいいだろ」

「頼んでない」

「はぁ? 頼んだだろ」

「忘れた」

「てめぇ…」

「その辺りにしてください。お二人とも、話が進みませんよ」

 誰が止めるのか、という雰囲気が辺りを包みだした頃、一人の騎士が二人を止める。天空騎士、騎士団長のルアナ・サーランドが。

「私がいなかったらどうする気だったんですか。アクア様も止めてください」

 アクアなら止められただろ、と言われれば、彼女は笑って誤魔化した。

 話をする雰囲気へと変われば、ふざける者など誰もいない。これ以上ふざけた場合、ルアナの雷が落ちるとわかっているからだが、そのような場合でもないからだ。

「アクア様、お初にお目にかかります。ソル神殿所属のセネシオ・ファラーダと申します」

 落ち着いたのを見て、ようやく挨拶ができると一人の神官が名乗る。

 ソル神殿の所属なのは、言われなくても性別でわかること。わざわざ連れてきたということは、そうなのだろうかとアクアは見た。

「お察しの通りです。私は予言者の位についております」

 一見、普通の神官と変わらない。今の時代だからなのか、それとも予言者とバレないためなのか。

 こっちの方がよかったな、と内心思う。自分が歌姫だった頃は、服装だけでそうだとバレてしまったから。

「セネシオは普段、普通の神官として過ごしている。当然だろ。予言者はその存在をバラすわけにはいかねぇからな」

 歌姫、舞姫とは扱いが違う。表に出ていい立場と、そうではない立場の違いがあるのだ。

 納得がいくが、納得がいかない。歌姫という立場にいた頃を思いだせば、目立つのはいいことばかりではないと知っているから。

 妬みはもちろんだが、媚びた神官達も寄ってくる。媚びることで自分達の立場を得ようとするのだ。

 すべてがそんな神官達ではない。アクアは誰よりも神官を知っている。

「肩書きがっていうよりは、ほら、ここは男の方がな」

「なので、予言者として特別扱いというわけにはいかないということですね。それと、次の予言者を探すためでもあるんです」

 歌姫や舞姫は名前の通り、歌と舞いの能力で決まるもの。歌声のきれいさ、舞いの美しさが重視されるのだ。

 けれど、予言者だけは違う。

「予言者と接されるのは初めてのようですね」

 不思議そうにしているアクアを見て、セネシオは長く生きる彼女でも、予言者との接点はないのだと気付く。

 それならば知らなくても当たり前だ。いくら彼女でも、予言者という存在を一般的な知識でしか伝えていないのだろう。

 秘密を洩らさないためというよりは、本人が意図的に首を突っ込まなかったのかもしれないが。





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