49 / 276
2部 二刀流の魔剣士編
永遠の魔剣士2
しおりを挟む
長居すればエシェルの仕事を妨げてしまう。夕方までどこかで時間を潰そうと街へ向かう。
傭兵組合の本部があるのはメディス地方のラッテストという街。三千年前には小さいながらに国があったのだが、面影はどこにもない。
唯一残されているのは、力がすべてという考え方だけであろう。傭兵の街へと変わり果ててもそれだけは消えずに残ったのだ。
(よく、ここまで変わったよな)
昔を知っているからこそ、グレンはしみじみ思う。
人間とエルフとハーフエルフ。当たり前のように街を歩く姿には、種族差別など存在しない。まるであの村のようだと思うほどに。
もちろん、完全になくなったわけでもない。それは仕方ないとも思っている。違いがあれば考え方も違うのだから。
差別による争いが最低限にできているのだから、これ以上は求めるのは無理だろうとグレンは思っている。遥か昔から続くのだから。
「あれ、ヴィルか」
のんびりと歩いていれば、見慣れたハーフエルフが向かいから歩いてくる。
少しばかり薄い金髪が特徴的な青年で、以前グレンが組んでいた一人だ。これから傭兵組合へ向かうところなのだろう。
「久しいな、シュレ」
傭兵組合では珍しいことに、弓の使い手であるシュレ・エーレルカ。元々、接近戦ができないことから、誰かと組むことで傭兵をしている彼はグレンと組むにはちょうどいいと選ばれた。
判断力もあることからグレンも助かったのは事実なのだが、その反面、偽名だと気付かれていることが少しばかり問題だったりもする。
「戻ってきてたんだな」
「ついさっきな。また組むことになるだろうから、頼む」
鋭い視線を感じながら言えば、短くわかったと言って去っていく。
深く突っ込まれなかったことにホッとしつつ、なにかがあったぐらいは思われたと察する。
なにがあるかわからない。なにもないことが一番望ましいこと。
わかっているが、なにかあったときに彼は最適な人材だと思えるからこそ、組む相手として狙っていたのは事実。
(まぁ、いざってときはバラしてもいいかと思ってるしな)
自分がグレン・フォーランだと言うことは別段問題ではない。信じない者は同じ名前のハーフエルフとしか思わないだろうし、信じたとしてどう動くかは相手側の問題だ。自分が不利になるわけではない。
名前を聞いただけで、不死だと思う者などそういないと思っていた。不死など非現実的なこと、信じたりはしないだろう。
(とはいえ、シュレは例外だな。あれは、俺がそうだと思ってるみたいだったし)
変わったハーフエルフだと思えば、時間を潰すために歩き出す。ここには数多の傭兵がいるのだから、情報も聞けるだろうと。
とりあえず、今は考えなくてもいいだろうとグレンは思うことに。
なにもなければ、傭兵を辞めてしばらく離れればいいことだ。それだけでこの時代での関わりはすべて切ることができるのだから。
(北の情報でも探るか)
生まれ育った地であるだけに、定期的に情報は得るようにしていた。なにかあっても傾くような国ではないし、そのような脅威もない。
わかっているが、気になってしまうのは仕方ないことだ。これだけは何年経っても変わらないだろう。
「情報屋が裏道にあったか……」
酒場などでも情報は手に入るのだが、この時間から開いている店などない。
それに酒を頼まないと情報も得られないのがほとんどだ。基本的には酒を飲まないグレンとしては、最終手段で使う場所だった。
時折ごろつきに絡まれる裏道だが、彼なら問題もない。軽く運動するような感覚でグレンは目的地へ向かうのだった。
慣れたように向かった情報屋。今日はごろつきがいなかったな、などと思いながら行けば、少し前まで世話になっていたハーフエルフが一人。
「ウドル、情報が欲しいんだが」
ウドル・ノーシス、情報屋としては有名なハーフエルフで、カロルが育てた情報屋でもあった。
「あんたか。どこの情報が欲しいんだい」
視線だけ向けて確認すれば、ウドルは分厚いノートを取り出す。
「北だ。なにか変わったことはないか」
かつての仲間が意図的に育て上げた情報屋はどこよりも信頼できる。さすがに自分の正体までは知らないのだが、それもわざとだとグレンは知っていた。
「北か……五十年ぐらい前に女王が即位したな。そこは知ってるか?」
「あぁ、それは知ってる」
バルスデ王国には、王族が天空城へ行く習わしがある。その関係でいつ新しい王が即位したかぐらいは把握していた。
それ以降だと言えば、ウドルはノートを捲り始める。
女王が即位は初めてのこと。色々問題が起きているかもしれないという心配はあったりもした。
「そうだな…女王の側近はシュトラウス家の坊やだな。騎士団も兼任しているみたいだが、あの坊やは情報がない」
だろうなと苦笑いを浮かべる。シュトラウス家はすべてを知っているのだから、この情報屋も知っているはずなのだ。
カロルの養子であったクレド・シュトラウスが継いだのだから、情報屋に情報が漏れるような真似は絶対にしないと言い切れた。
「もう一人、面白いのが側近としているな。聖虹騎士団の団長殿だ」
「これは…」
見せられた資料に、グレンは確かに面白いと思う。まさか、このタイミングでこの名前を見るとは思わない。
「セルティ・シーゼル…かなり強いらしいぞ」
興味があるだろと言われれば、ニヤリと笑って応える。
ウドルの言う意味が、強さについてだとわかったからだ。当然ながら、強いと言われれば興味はある。
.
傭兵組合の本部があるのはメディス地方のラッテストという街。三千年前には小さいながらに国があったのだが、面影はどこにもない。
唯一残されているのは、力がすべてという考え方だけであろう。傭兵の街へと変わり果ててもそれだけは消えずに残ったのだ。
(よく、ここまで変わったよな)
昔を知っているからこそ、グレンはしみじみ思う。
人間とエルフとハーフエルフ。当たり前のように街を歩く姿には、種族差別など存在しない。まるであの村のようだと思うほどに。
もちろん、完全になくなったわけでもない。それは仕方ないとも思っている。違いがあれば考え方も違うのだから。
差別による争いが最低限にできているのだから、これ以上は求めるのは無理だろうとグレンは思っている。遥か昔から続くのだから。
「あれ、ヴィルか」
のんびりと歩いていれば、見慣れたハーフエルフが向かいから歩いてくる。
少しばかり薄い金髪が特徴的な青年で、以前グレンが組んでいた一人だ。これから傭兵組合へ向かうところなのだろう。
「久しいな、シュレ」
傭兵組合では珍しいことに、弓の使い手であるシュレ・エーレルカ。元々、接近戦ができないことから、誰かと組むことで傭兵をしている彼はグレンと組むにはちょうどいいと選ばれた。
判断力もあることからグレンも助かったのは事実なのだが、その反面、偽名だと気付かれていることが少しばかり問題だったりもする。
「戻ってきてたんだな」
「ついさっきな。また組むことになるだろうから、頼む」
鋭い視線を感じながら言えば、短くわかったと言って去っていく。
深く突っ込まれなかったことにホッとしつつ、なにかがあったぐらいは思われたと察する。
なにがあるかわからない。なにもないことが一番望ましいこと。
わかっているが、なにかあったときに彼は最適な人材だと思えるからこそ、組む相手として狙っていたのは事実。
(まぁ、いざってときはバラしてもいいかと思ってるしな)
自分がグレン・フォーランだと言うことは別段問題ではない。信じない者は同じ名前のハーフエルフとしか思わないだろうし、信じたとしてどう動くかは相手側の問題だ。自分が不利になるわけではない。
名前を聞いただけで、不死だと思う者などそういないと思っていた。不死など非現実的なこと、信じたりはしないだろう。
(とはいえ、シュレは例外だな。あれは、俺がそうだと思ってるみたいだったし)
変わったハーフエルフだと思えば、時間を潰すために歩き出す。ここには数多の傭兵がいるのだから、情報も聞けるだろうと。
とりあえず、今は考えなくてもいいだろうとグレンは思うことに。
なにもなければ、傭兵を辞めてしばらく離れればいいことだ。それだけでこの時代での関わりはすべて切ることができるのだから。
(北の情報でも探るか)
生まれ育った地であるだけに、定期的に情報は得るようにしていた。なにかあっても傾くような国ではないし、そのような脅威もない。
わかっているが、気になってしまうのは仕方ないことだ。これだけは何年経っても変わらないだろう。
「情報屋が裏道にあったか……」
酒場などでも情報は手に入るのだが、この時間から開いている店などない。
それに酒を頼まないと情報も得られないのがほとんどだ。基本的には酒を飲まないグレンとしては、最終手段で使う場所だった。
時折ごろつきに絡まれる裏道だが、彼なら問題もない。軽く運動するような感覚でグレンは目的地へ向かうのだった。
慣れたように向かった情報屋。今日はごろつきがいなかったな、などと思いながら行けば、少し前まで世話になっていたハーフエルフが一人。
「ウドル、情報が欲しいんだが」
ウドル・ノーシス、情報屋としては有名なハーフエルフで、カロルが育てた情報屋でもあった。
「あんたか。どこの情報が欲しいんだい」
視線だけ向けて確認すれば、ウドルは分厚いノートを取り出す。
「北だ。なにか変わったことはないか」
かつての仲間が意図的に育て上げた情報屋はどこよりも信頼できる。さすがに自分の正体までは知らないのだが、それもわざとだとグレンは知っていた。
「北か……五十年ぐらい前に女王が即位したな。そこは知ってるか?」
「あぁ、それは知ってる」
バルスデ王国には、王族が天空城へ行く習わしがある。その関係でいつ新しい王が即位したかぐらいは把握していた。
それ以降だと言えば、ウドルはノートを捲り始める。
女王が即位は初めてのこと。色々問題が起きているかもしれないという心配はあったりもした。
「そうだな…女王の側近はシュトラウス家の坊やだな。騎士団も兼任しているみたいだが、あの坊やは情報がない」
だろうなと苦笑いを浮かべる。シュトラウス家はすべてを知っているのだから、この情報屋も知っているはずなのだ。
カロルの養子であったクレド・シュトラウスが継いだのだから、情報屋に情報が漏れるような真似は絶対にしないと言い切れた。
「もう一人、面白いのが側近としているな。聖虹騎士団の団長殿だ」
「これは…」
見せられた資料に、グレンは確かに面白いと思う。まさか、このタイミングでこの名前を見るとは思わない。
「セルティ・シーゼル…かなり強いらしいぞ」
興味があるだろと言われれば、ニヤリと笑って応える。
ウドルの言う意味が、強さについてだとわかったからだ。当然ながら、強いと言われれば興味はある。
.
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
逆行令嬢と転生ヒロイン
未羊
ファンタジー
【注意】この作品は自己転載作品です。現在の他所での公開済みの分が終了後、続編として新シリーズの執筆を予定しております。よろしくお願い致します。
【あらすじ】
侯爵令嬢ロゼリア・マゼンダは、身に覚えのない罪状で断罪、弁明の機会も無く即刻処刑されてしまう。
しかし、死んだと思った次の瞬間、ベッドの上で目を覚ますと、八歳の頃の自分に戻っていた。
過去に戻ったロゼリアは、処刑される未来を回避するべく、経過を思い出しながら対策を立てていく。
一大ジャンルとも言える悪役令嬢ものです
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
World a king~異世界転生物語~
bakauke16mai
ファンタジー
6/9 本編(?)が完結しました!!
30歳で亡くなった主人公の佐藤亮太は、女神の手違い(以下略)異世界に転生する。
その世界は、魔物も魔法も貴族も奴隷も存在する、ファンタジー全開な世界だった!!
国王による企みに嵌ったり、王国をチートで救ったり、自重する気は無い!?
世界の歯車が刻まれていく中で、亮太の存在はその歯車さえ狂わせる。
異世界に転生した彼が、快適な生活を手に入れるまでの、チートな生活が始まる!
な、はずだったけど!!なんだか最強街道を直進中!!イチャイチャとバトルだけが延々と繰り返されています!!
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる