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1部 転生する月神編

旅立ちの決意3

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 何事もない日常を送った深夜、動きやすい私服に着替えると剣を腰に差す。

 どれだけかかるかわからないが、短い旅ではないだろう。ここへ帰ってくるかも、正直なところわからない。

 帰ってこないかもと思いはしたが、だからといって置き手紙の類いは似合わないと思う。このままでいいのだ。

 玄関から出ればバレてしまう。クオンは窓の縁へ手をかけると、そのまま飛び降りた。

(雪が積もってなくてよかった)

 足跡が残り、窓を飛び降りて抜け出したと知られたら、うるさく言われそうだと思う。

(帰ってきたらの話か)

 そう思えば、急いで敷地を抜け出す。なるべく夜勤の騎士には見つかりたくない。

 考えを察し、クロエが勤務に合わせて脱出の計画を立てたのだ。せっかくの計画、壊すわけにはいかない。

 高い塀に囲まれた国。それは魔物を警戒してではなく、当初は獣を警戒してだったと言われている。

 そんな塀にも実は抜け道があると知っているのは、一体何人いるだろうか。

「無事、抜け出せたか」

「あぁ」

 先に待っていたクロエとリーナを見て、やっぱ来るんだなと思わずにはいられない。

「つうか、なに持ってんだ?」

 リーナが謎の包みを持っていて、クオンは怪訝そうに見る。

 あれを持っていくつもりなのか。そもそも、あれはなんだと思う。

「もぉ、忘れたの。前に武器作ってもらったじゃん。昨日届いたのよ」

「あー…忘れてた」

 そんなことがあったなと思いだす。色々あったからというよりは、元々興味がなかったから忘れてしまったと言うべきだろう。

 包みを受けとりながら、苦笑いを浮かべた。

 一体どのような剣を作ったのか。抜き身の剣を月明かりに照らせば、これが武器職人かと思わされた。

 普通の長剣よりも長く太いが、大剣というわけでもない。まるで大剣と長剣の間ぐらいだなと思う。

「オーヴァチュア家が専属にしてる、あの武器職人か」

「うん。見たときはピンとこなかったけど」

 クオンが持つのを見て、イメージは真逆まで変わる。

「さすがだ。確かに、あれならあいつに合うかもしれない」

 二人がいい代物だと話す中、今まで武器は使えればいいと思っていたクオンも、手に馴染むそれに満足していた。

「いつか、礼でもすっか」

「クスクス」

 気に入ったと知りリーナも笑う。これで使えればいいとは言わなくなるかもしれない。

「行くぞ」

 こんなところにいつまでもいれば、誰かに気付かれてしまう。クオンとリーナも頷くと、抜け道を使って塀を出た。

 目的地へ行くためどうすればいいのか。さすがにクロエでも見つけられなかったが、西へ行けば見つかるかもしれない。

 そう考え、話し合って西へ行くと決めていた三人は、森の中を西へ向けて歩き出す。

「まったく、困った奴らだな」

「セルティ様…」

 しかし、行く手には聖虹騎士団の団長セルティ・シーゼルがいた。

 悟られないように動いたつもりだったが、見抜かれてしまったことにクロエは珍しく舌打ちする。

「いつか抜け出すと思っていたからな。クオンが目を覚ましてから、毎晩警戒させてもらった」

「それで、連れ戻そうと?」

 一戦交えることになるかもしれない。そんな緊張感が三人の間に広がる。

「いいや。忘れ物だ」

 セルティが自分の後ろへ視線を向ければ、一人の女性が現れた。

 微かな明かりに照らされたその人は、旅装したフィーリオナ。さすがに三人ともが絶句する。

「行き先はセレンだろ。これが近道を知ってる」

「これって…」

 世界一のバルスデ王国を治める王に向け、まるで道具のような言い方。

 リーナが思わず漏らせば、二人も苦笑いしかでない。

「うるさくてな、仕事の邪魔なんだ。引き取ってくれ」

「セルティ、私の扱いが酷くないか」

「気のせいだろ」

 気のせいではないと三人とも思った。思ったが、この人も苦労しているんだな、という思いが勝る。

「フィオナがいれば、王家しか使えない道を使える。それでセレンへ行けばいい。お前達は職務扱いにしてやる。だから、必ず帰ってこい」

 帰る場所はここだと言われれば、三人は顔を見合わせたあとに頷いた。

 すべてを捨てる覚悟で抜け出したが、こんな風に言われたあげくフィーリオナを預かってしまったのだ。

 なにがなんでも帰らなくてはいけないな、と決意を新たにするのだった。





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