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1部 転生する月神編
魔物討伐3
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一ヶ月の滞在期間を終えようという頃、月光騎士団の元へ女王フィーリオナ・バルスデ・フォーランがやってきた。
女王の主催する食事会で、供としてセルティ・シーゼルが同行している。
「そなた達のお陰で、魔物の出没は減った。ご苦労であった」
被害が一般人に出なかったと言えば、何人かは当然という表情を浮かべるから楽しいのだ。
「気にせず、食べてくれ」
立食という形を選んだのは、おそらくセルティだろう。冷静に見ながらクオンはため息を吐く。
(行かないわけには、いかないよなぁ)
団長という肩書きがある以上、ここで逃げ出すわけにはいかない。
「リーナ、付き合ってくれっか」
ついてこいと言えなかった。フィーリオナといると、彼女は機嫌が悪くなるからだ。
「行くよ。私だって、副官だからね」
「…わりぃな」
貸しを作ったばかりなだけに、これは他にもなにかしなければと思う。
深呼吸を一回するとクオンは歩き出す。さすがに、公式である以上は問題はないだろう。
後ろには監視役もいる。下手なことはしないはずだと信じたい。
「陛下、今夜は…」
「堅苦しい挨拶はやめろ。お前らしくない」
一瞬で不安が占めた。ちらりとセルティへ視線を向ければ、表情からはまったく読めない。
「クオン…」
髪に触れた手に気付き、油断したと背後が気になった。リーナがどんな表情をしているのか怖くて見られない。
「お前、髪の色が変わってないか」
「えっ…」
なにを言ってるのかと思ったが、背後でリーナが息を呑むのを感じた。つまり、彼女も同じことを感じていた証だ。
振り向いた先でリーナの表情が揺らいでいる。動揺を必死に隠そうとしているのだろう。彼女のことだから、よくわかった。
「まぁ、こうやって見たから、そう見えただけかもしれないが」
フィーリオナもリーナの動揺はわかっている。彼女が感じているなら、自分が感じているのも間違いではないだろう。
「苦労が絶えず、色素が落ちたのかもしれないな。誰かが迷惑をかけているし」
「誰のことだ」
「さて、誰だろうな」
しれっと言うセルティ。場の空気を変えてくれているのだ。
「……ん? それってよ、俺がじじいになってるって意味か」
ここは乗るべきだと思う。リーナを笑わせるためなら、相手が誰であろうが関係ない。
「このままだと、そうだろうな」
真顔でセルティが言えば、思わず想像してしまった。
「まぁ、いいか。リーナみたいにきれいな…」
「バカか。リーナは銀髪だが、お前は白髪になるんだぞ」
なにを言ってるんだとフィーリオナは苦笑いする。
次の瞬間、後ろから吹き出すのが聞こえる。リーナが想像して笑ったのだろう。
「笑うなよ」
「だって、白髪のクオンってさ…」
肩を震わせて笑う姿に、セルティも笑みを浮かべた。
(俺としては、クオンとリーナがうまくいってほしいのだが…)
二人のことは騎士見習いから見てきたのだ。家同士も婚約ぐらい考えたかもしれない、と思っている。
ここにクロエが混ざっていただけに、家は慎重だっただけだろう。
「フィオナ、他の騎士にも労いの言葉をかけてやれ」
割り込まないよう、セルティは遠ざけることにした。二人の邪魔をさせるべきではないと。
「お前…」
わかっているからこそ、フィーリオナは恨めしげに見上げる。
「公式、だろ」
「ぐっ…」
クオンばかり構っているわけにはいかない。
悔しげに睨み付けると、女王は歩き出した。
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女王の主催する食事会で、供としてセルティ・シーゼルが同行している。
「そなた達のお陰で、魔物の出没は減った。ご苦労であった」
被害が一般人に出なかったと言えば、何人かは当然という表情を浮かべるから楽しいのだ。
「気にせず、食べてくれ」
立食という形を選んだのは、おそらくセルティだろう。冷静に見ながらクオンはため息を吐く。
(行かないわけには、いかないよなぁ)
団長という肩書きがある以上、ここで逃げ出すわけにはいかない。
「リーナ、付き合ってくれっか」
ついてこいと言えなかった。フィーリオナといると、彼女は機嫌が悪くなるからだ。
「行くよ。私だって、副官だからね」
「…わりぃな」
貸しを作ったばかりなだけに、これは他にもなにかしなければと思う。
深呼吸を一回するとクオンは歩き出す。さすがに、公式である以上は問題はないだろう。
後ろには監視役もいる。下手なことはしないはずだと信じたい。
「陛下、今夜は…」
「堅苦しい挨拶はやめろ。お前らしくない」
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「クオン…」
髪に触れた手に気付き、油断したと背後が気になった。リーナがどんな表情をしているのか怖くて見られない。
「お前、髪の色が変わってないか」
「えっ…」
なにを言ってるのかと思ったが、背後でリーナが息を呑むのを感じた。つまり、彼女も同じことを感じていた証だ。
振り向いた先でリーナの表情が揺らいでいる。動揺を必死に隠そうとしているのだろう。彼女のことだから、よくわかった。
「まぁ、こうやって見たから、そう見えただけかもしれないが」
フィーリオナもリーナの動揺はわかっている。彼女が感じているなら、自分が感じているのも間違いではないだろう。
「苦労が絶えず、色素が落ちたのかもしれないな。誰かが迷惑をかけているし」
「誰のことだ」
「さて、誰だろうな」
しれっと言うセルティ。場の空気を変えてくれているのだ。
「……ん? それってよ、俺がじじいになってるって意味か」
ここは乗るべきだと思う。リーナを笑わせるためなら、相手が誰であろうが関係ない。
「このままだと、そうだろうな」
真顔でセルティが言えば、思わず想像してしまった。
「まぁ、いいか。リーナみたいにきれいな…」
「バカか。リーナは銀髪だが、お前は白髪になるんだぞ」
なにを言ってるんだとフィーリオナは苦笑いする。
次の瞬間、後ろから吹き出すのが聞こえる。リーナが想像して笑ったのだろう。
「笑うなよ」
「だって、白髪のクオンってさ…」
肩を震わせて笑う姿に、セルティも笑みを浮かべた。
(俺としては、クオンとリーナがうまくいってほしいのだが…)
二人のことは騎士見習いから見てきたのだ。家同士も婚約ぐらい考えたかもしれない、と思っている。
ここにクロエが混ざっていただけに、家は慎重だっただけだろう。
「フィオナ、他の騎士にも労いの言葉をかけてやれ」
割り込まないよう、セルティは遠ざけることにした。二人の邪魔をさせるべきではないと。
「お前…」
わかっているからこそ、フィーリオナは恨めしげに見上げる。
「公式、だろ」
「ぐっ…」
クオンばかり構っているわけにはいかない。
悔しげに睨み付けると、女王は歩き出した。
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