上 下
21 / 276
1部 転生する月神編

魔物討伐3

しおりを挟む
 一ヶ月の滞在期間を終えようという頃、月光騎士団の元へ女王フィーリオナ・バルスデ・フォーランがやってきた。

 女王の主催する食事会で、供としてセルティ・シーゼルが同行している。

「そなた達のお陰で、魔物の出没は減った。ご苦労であった」

 被害が一般人に出なかったと言えば、何人かは当然という表情を浮かべるから楽しいのだ。

「気にせず、食べてくれ」

 立食という形を選んだのは、おそらくセルティだろう。冷静に見ながらクオンはため息を吐く。

(行かないわけには、いかないよなぁ)

 団長という肩書きがある以上、ここで逃げ出すわけにはいかない。

「リーナ、付き合ってくれっか」

 ついてこいと言えなかった。フィーリオナといると、彼女は機嫌が悪くなるからだ。

「行くよ。私だって、副官だからね」

「…わりぃな」

 貸しを作ったばかりなだけに、これは他にもなにかしなければと思う。

 深呼吸を一回するとクオンは歩き出す。さすがに、公式である以上は問題はないだろう。

 後ろには監視役もいる。下手なことはしないはずだと信じたい。

「陛下、今夜は…」

「堅苦しい挨拶はやめろ。お前らしくない」

 一瞬で不安が占めた。ちらりとセルティへ視線を向ければ、表情からはまったく読めない。

「クオン…」

 髪に触れた手に気付き、油断したと背後が気になった。リーナがどんな表情をしているのか怖くて見られない。

「お前、髪の色が変わってないか」

「えっ…」

 なにを言ってるのかと思ったが、背後でリーナが息を呑むのを感じた。つまり、彼女も同じことを感じていた証だ。

 振り向いた先でリーナの表情が揺らいでいる。動揺を必死に隠そうとしているのだろう。彼女のことだから、よくわかった。

「まぁ、こうやって見たから、そう見えただけかもしれないが」

 フィーリオナもリーナの動揺はわかっている。彼女が感じているなら、自分が感じているのも間違いではないだろう。

「苦労が絶えず、色素が落ちたのかもしれないな。誰かが迷惑をかけているし」

「誰のことだ」

「さて、誰だろうな」

 しれっと言うセルティ。場の空気を変えてくれているのだ。

「……ん? それってよ、俺がじじいになってるって意味か」

 ここは乗るべきだと思う。リーナを笑わせるためなら、相手が誰であろうが関係ない。

「このままだと、そうだろうな」

 真顔でセルティが言えば、思わず想像してしまった。

「まぁ、いいか。リーナみたいにきれいな…」

「バカか。リーナは銀髪だが、お前は白髪になるんだぞ」

 なにを言ってるんだとフィーリオナは苦笑いする。
 
 次の瞬間、後ろから吹き出すのが聞こえる。リーナが想像して笑ったのだろう。

「笑うなよ」

「だって、白髪のクオンってさ…」

 肩を震わせて笑う姿に、セルティも笑みを浮かべた。

(俺としては、クオンとリーナがうまくいってほしいのだが…)

 二人のことは騎士見習いから見てきたのだ。家同士も婚約ぐらい考えたかもしれない、と思っている。

 ここにクロエが混ざっていただけに、家は慎重だっただけだろう。

「フィオナ、他の騎士にも労いの言葉をかけてやれ」

 割り込まないよう、セルティは遠ざけることにした。二人の邪魔をさせるべきではないと。

「お前…」

 わかっているからこそ、フィーリオナは恨めしげに見上げる。

「公式、だろ」

「ぐっ…」

 クオンばかり構っているわけにはいかない。

 悔しげに睨み付けると、女王は歩き出した。





.
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...