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1部 転生する月神編

女王と騎士3

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 城の奥、そこに飾られた一本の剣。聖剣と呼ばれるそれは、誰も使うことができない。

 たった一人のために与えられた物だから。

「また、世界に危機が訪れるのか」

 予言が普通のものなら、ここまで気にすることはなかっただろう。けれどそうではなかった。

「これが使えれば、私も力になれるのだが」

「諦めろ。それが使えるのは、ヴェストリア・バルスデ・フォーランだけだ」

 またここに来ていたのか、と呆れたようにセルティが言う。

「お前は、本当に英雄が好きだな。自分が女だからか」

「そういうわけでは…」

 違うと言おうとしたが、図星だった。否定したところで、幼馴染みでもある彼にはバレてしまうだろう。

 幼い頃からずっと傍で見てきたのだから。

 なにかが違っていれば、隣にいる彼が恋人になっていたのだろうか。ふと、そのようなことを考えてやめる。

「父上には、男児が生まれなかった。私とシュナしか跡継ぎはいなかった」

「だから、手に血豆作りながら頑張ったんだろ」

 姫という立場でありながら、騎士学校に入りたいと言ったのは忘れない。周りが慌てたように止め、イクティスが見ることで話をつけた。

 すぐに諦めると誰もが思ったのだ。

「お前の努力は認めるが、できないものはある。強ければ使える代物ではない」

 どう足掻いても、誰も使えない代物だとセルティは言う。彼だって使えない物なのだ。

 こればかりは、どうすることもできない。しかし、これを求める気持ちは理解できる。女王でも問題ないと周りに見せつけたいのだ。

 バルスデ王国の長い歴史、女王が即位したのは初めてだった。理由として、側室が当たり前にいたのも大きい。

 王子が一人もいない、なんてことはなかったのだ。

「私は、強くなくてはいけない」

「それで、自分より弱い男は認めない、だろ」

 何度聞いたことかとため息を吐く。

 彼女が女王として強くなるほど、壁が高くなっている。これではいつになるかわからない。

 婿は現れないかもとすら思ったほどだ。

「クオンを狙ってるのか」

「気に入っているのは、事実だな」

(狙ってたのか)

 さらりと言われてしまえば、やれやれと思う。彼が予言の通りなら、フィーリオナより強くなるだろうが、幼馴染みのリーナがいる。

 二人の関係は見ているだけで十分にわかるものだ。

「月神は蘇る。覚醒は世界へ災厄が訪れた証、か」

 厄介な予言が下ったものだ、とセルティは聖剣を眺める。

 月神が蘇るだけなら、ここまで大事にはならなかっただろう。それが、世界へ災厄が来るとついていた。

「予言者の予言は外れない、と言うよな」

「らしい。私も詳しくはないが、セイレーンでは絶対としてる」

 今までも当ててきた結果があるだけに、信じないわけにはいかない。四人で話し、決めたことだった。

 これが外れたなら問題ないが、当たってしまえば大変なことになる。ほっとけるわけがなかった。

「私も、魔物討伐に行こうかな」

「おい…」

 そこまでやるのかと言いたかったが、笑いながら見てくる姿にため息が漏れる。

 これは止めても無駄だとわかったからだ。

 魔物討伐は、月光騎士団と聖虹騎士団の協力戦となっている。セルティが行くなら問題ないだろうと視線が語りかけていた。

 確かに、誰もいないよりはいいかもしれない。おとなしく自分の傍にいてくれればの話だったが。

「変な真似しないか」

「約束できん」

「即答かよ」

 あっさりと言われてしまえば、一瞬殴りたくなったから困るのだ。

 さすがに女を殴る真似はしないが、時折この女王ならいいのではないかと思う。少しぐらいなら殴っても問題ないと。

「夜這いぐらいは許されるだろ」

「許されるわけないだろ!」

 女王ともあろう者がなにを言うのかと怒鳴る。さすがに許されない。

「既成事実を作ってしまえばと思ったのだが、ダメか」

 本気でクオンを狙うのかと呆れた。彼女もリーナのことはわかっているだろうにと。

「なんで、クオンなんだ?」

 クオンほどの強さでいいなら、他にもいるだろう。まだハードルは高くない。

 それこそ、クロエやフォルスといった若手もいる。イクティスも未だに独り身だ。

「月神だからか?」

 月神を夫にできたなら、女王としても揺るがない立場となるかもしれない。

 けれど、それでいいのかと言いたかった。立場のためだけに夫を選ぶので、彼女は幸せになれるのか。

「私は強い男がいいだけだ。あれは強くなるからな」

「否定はしないが」

 彼が月神だろうが、そうでなかろうが構わない。強くなるからと言われれば、強くなるという部分は否定できなかった。

 今よりもっと強くなる。それだけは事実だとセルティも言い切れた。彼には底知れないものを感じるのだ。

 とにかく魔物討伐に連れて行けと言われれば、仕方ないと折れる。定期的に言われることなだけに、もう慣れたというのが正解だ。

「俺についてきてもらう。それは譲らないからな」

「仕方あるまい」

 不満げに見てくるフィーリオナに、これは抜け出すなと表情は引きつる。

「フィオナ…」

「自分の身は自分で守れる」

 澄ましたように言うから、わざとらしくため息を吐く。

「せめて、夜営のときに顔を出すだけにしろ」

 女王が行ってしまえば、他の騎士達がどのような反応をするかわからない。

 年若いことを除けば、クオンや副官二人に問題はないと思っていたが、気を付けるに越したことはないだろう。

 挨拶程度なら、女王がいても問題にはならないだろうとも思っていた。

「……わかった」

 こちらが妥協したのだからお前も妥協しろと視線で訴えれば、フィーリオナも渋々頷く。

 さすがに、彼が許可を出さないと行けないのだ。





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