上 下
3 / 276
1部 転生する月神編

最年少団長2

しおりを挟む
 男性はオズ・ベラーシルといい、城下街の一角で店を開いている。

「適当に座ってろよ。すぐに作るから」

 基本的には、夕方から朝方にかけてやっている店。つまり飲み屋なのだが、知人などには昼も食事を提供しているのだ。

 この店のすごいところは経営歴であろう。同じ場所で三千年は続けていると言われており、その昔は英雄達が通っていたと噂されている。

「なぁ、三千年続く店ってほんとか?」

 内装や外装は定期的に補修したりしているが、基本的な部分は変わっていないらしい。騎士達の間でもそれなりに有名な話だ。

「本当だ。ハーフエルフが途中やってたらしいからな。だから続いたんだろ」

 あっさりと言われれば、ふーんと小さく言う。こんな小さな店が、と思ったのかもしれない。

 おそらく、クオンの内心に気付いたのだろう。オズが苦笑いを浮かべた。

「繁盛はしたらしいが、ハーフエルフ達がこれを維持したいってさ」

 大きくすることも、お洒落な内装にすることも簡単だが、店のよさが失われるのは嫌だと言ったらしいとオズも聞いている。

 すでに確かめようのないことなのだが、この雰囲気が好きだと旅人などが来るからよしとしていた。

「英雄が来てたって話は?」

「あー、それな…」

 どこから広がった噂なのか知らないが、オズにはわからないとしか言えない。

「だってよ、そんな証があるわけじゃ…」

 そこまで言い、オズは言葉に詰まる。そういえば、とひとつのクリスタルを取り出す。

「騎士団長なら、これわかるか?」

「ん?」

「なんでか大切に保管されてるんだよな」

 宝石の類いでもないのに、とオズがぼやく。

 差し出されたクリスタルは、まるでガラクタのようだとクオンは見る。オズも思うからこそ聞いてきたのだろう。

 差し出された食事を食べながら、片手はクリスタルを持ったまま。

「大切に保管された物だから、誰も触れないでいたんだよな」

「ふーん…」

 なにが大切なのかと考えて、騎士学校で習ったことを思いだす。

(まさか…)

 試してみればわかること。手にしたクリスタルを壁にかざし、魔力を少し送り込む。

 推測が当たっていれば、答えが目の前に現れるはずだとクオンは見る。

「これは…魔力装置か!?」

 壁には光がかざされただけだが、答えとしては十分だ。オズも驚いたようにクリスタルを見る。

 なぜ店にあるのかも不思議だが、見たことのない魔力装置にも驚きだ。小型の魔力装置は一般的には聞いたことがない。

「英雄が来てたっつうのは、ほんとだったんだな。ほら」

 クリスタルを返せば、クオンは再び食事に戻る。

 彼は知っていた。魔力装置を作ったのが誰であるのか。その人物が、この国では英雄と呼ばれていることも。

「一人で納得してるな。俺にも教えろよ」

 サービスだとデザートを差し出されれば、クオンが仕方ないと言うように話し出す。

「オズは、学校には?」

「あー、俺は行ってない。店を継ぐと決めてたしな。ほら、長男だからよ」

 はじめから学校へ行くつもりはなかったと言われれば、そこからかとも思う。

「じゃあ、国の成り立ちはまったく知らねぇのか?」

「ハーフエルフが建国した、ぐらいしかな。親父も、料理しか教えてくれなかったし」

 冷めた視線を投げ掛けられ、オズも慌てたように視線を逸らす。

 北の大陸を治めるバルスデ王国。その成り立ちは遥か昔、一人のハーフエルフが建国した。名をフォーラン・シリウスと言う。

「七英雄のハーフエルフか。それならわかるぜ」

「この国でわからない奴がいたら、それこそ問題だ」

 魔王と七英雄の話なら芝居小屋からおとぎ話まで、数多く残されている。特にこの城下街では、一度は聞いた話だ。

 すでにどれほど続く国なのかわからないが、今や世界を支える大国となっている。そのきっかけとなったのが、もう一人の英雄だ。

「エルフの血が絶えた王家に、再びエルフの血が戻った。フォーラン・シリウスの再来と言われてる英雄だな」

「へぇ」

 誰も使いこなすことができなかったフォーラン・シリウスの聖剣を使いこなした王、グレン・バルスデ・フォーラン。

 偉大な王として名を残しているが、在位は決して長くない。





.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

堕天使転生 ~Lip Magic Generations~

すふぃんくす のーば
ファンタジー
太古の地球。そこには有象無象の魔物がいた。神などいない。悪魔などいない。 龍も、獣も、人間の祖先も、宇宙から飛来した生物さえ全て魔物である。 その中から、4つの秀でるものが生まれた。 力に秀でる龍王。 魔力に秀でる魔王。 剣に秀でる剣王。 知力と忘却に秀でる人王。 それぞれの王(創造神)が治める4世界。 ショウはこの世界の神に敗れ去り、堕天使へ。さらに人の世界へ更迭され、きつねそして人間と生まれ変わる。封印されてた能力が目覚めようとしたとき、ショウは死んでしまい、また転生して別世界へ。 ショウのスキルはLip Magic、少しコミカルで、恋多き乙女達と歩むショウの冒険譚です。

盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)
SF
 空色の髪をなびかせる玉虫色の騎士。  それは王位継承戦に持ち出されたチェスゲームの中で、駒が取られると同事に現れたモンスターをモチーフとしたロボット兵”盤上戦騎”またの名を”ディザスター”と呼ばれる者。  彼ら盤上戦騎たちはレーダーにもカメラにも映らない、さらに人の記憶からもすぐさま消え去ってしまう、もはや反則レベル。  チェスの駒のマスターを望まれた“鈴木くれは”だったが、彼女は戦わずにただ傍観するのみ。  だけど、兵士の駒"ベルタ”のマスターとなり戦場へと赴いたのは、彼女の想い人であり幼馴染みの高砂・飛遊午。  異世界から来た連中のために戦えないくれは。  一方、戦う飛遊午。  ふたりの、それぞれの想いは交錯するのか・・・。  *この作品は、「小説家になろう」でも同時連載しております。

美少女エルフ隊長へ転生した俺は、無能な指揮官に愛想がついたので軍隊を抜けました ~可愛い部下たちとスキル【ダンジョン管理】で生きのびます~

二野宮伊織
ファンタジー
ブラック企業で働いていた俺は、なぜか30歳になった瞬間、異世界に転生してしまう。 しかも、転生先はカルロス帝国第7特殊魔法中隊という、エルフのみで編成された亜人部隊の十人隊隊長だった。 その名はアレー。前世の姿とは似ても似つかない19歳の巨乳で美しい女エルフだ。 最初はその容姿に喜んだ俺だったが、この世界の亜人の立場はかなり低く、無能な人間の指揮官に振り回される日々を過ごしていた。 そんなある日、俺たちは進軍の休憩中に敵の襲撃にあってしまう。その戦力十倍差という圧倒的不利な戦いにも関わらず、無謀な作戦を実行する指揮官。 それを見て俺たちは愛想をつかし、軍を脱走し敵兵から逃げる事にした。 必死に逃亡して逃げ込んだ洞窟で主人公は神様に出会い、【ダンジョン管理】というスキルを与えられる。これは、洞窟を自分の意のままに変えられるという能力だ。 主人公はこのスキルを使って、仲間たちと共にダンジョンで生き残ることを決意する。敵兵や帝国の追っ手に脅えながらも、俺は美少女エルフの仲間たちと共に異世界でサバイバルを始めたのだった。 ※誤字、脱字等がありましたら、感想欄等で報告していただければありがたいです。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

World a king~異世界転生物語~

bakauke16mai
ファンタジー
6/9 本編(?)が完結しました!! 30歳で亡くなった主人公の佐藤亮太は、女神の手違い(以下略)異世界に転生する。 その世界は、魔物も魔法も貴族も奴隷も存在する、ファンタジー全開な世界だった!! 国王による企みに嵌ったり、王国をチートで救ったり、自重する気は無い!? 世界の歯車が刻まれていく中で、亮太の存在はその歯車さえ狂わせる。 異世界に転生した彼が、快適な生活を手に入れるまでの、チートな生活が始まる! な、はずだったけど!!なんだか最強街道を直進中!!イチャイチャとバトルだけが延々と繰り返されています!!

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

処理中です...