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第23話 みんなの特技:話を脱線させること
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「気を取り直して犯人ですけれど」
気を取り直し過ぎだと思うわ。
「やはり葉家と菫家が手を取って同じ仕事をするという状況が気に食わない連中の犯行と見ていいですわ。どちらの管理が甘かったかと意見を衝突させ、仲をさらに険悪にさせるつもりだったのでしょう」
「あの二人を対立させたところでいつもと変わらないのだから、意味などなかったろうに」
月華さんと青鋭様、いつも言い合いしてるものね。どうせここで意見を対立させてもまたやってるぐらいにしか思われないだろう。残念でした。
「それにお二人とも何気に陛下への忠誠心だけは厚いですからね……陛下さえいてしまえば下手なことは起きないでしょう。相性がいいのでは?」
「わたくしもそう思いますわ」
私も意外と相性いいとは思うけどね。なんだかんだすべてのことを完璧にやってくれるもの。他の人とじゃそうはいかないわ。
「玉蘭殿、目星はついていると言っていましたね。一言喋るごとに話が脱線するのは非常にいただけませんが、重要な書類ですからさっさと取り返してきてください」
「お任せを」
玉蘭は華麗に宙に飛び上がると、さっさと書類を取り返しに向かっていった。いちいち動きが滑らかなことで。
「まあこの件は犯人がぽんこつだったということでいいだろう。対立させるべき相手を間違えたな」
「まったくです。あの二人がそんなことで意見を衝突させるはずがありませんからね」
え? なんで? いっつも二人で意見を衝突させて言い合いしてるじゃない!
「どうしてそんなこと言えるの?」
意味が分からないので樟石さんに聞いてみたら少々鼻で笑われた。一つの動作ごとにむかつくわね。
「月華殿も青鋭殿もそんな安い理由で言い合いしませんよ。彼らは常に最高のものを作り上げるため、完璧に仕上げるために意見を衝突させていますからね」
「一見頭の固い頑固者と能天気に見えるが、意外と色々考えている。頭がいい者は大体変わった人間だと思った方がいいぞ」
へえ、なるほどね。確かにそれは一理あるかもしれない。
「さて、我々は仕事に戻りますよ、陛下」
樟石さんがそう言うと、陛下はあからさまにいやそうな顔をした。うん?
「書類はまだ見つかっていないし少しくらい……」
「だめです」
食い気味に叱られたので彼は、最悪だとでも言わんばかりにため息をついて両手をあげる。
「たかだか書類が1枚なくなった程度、何のために月華殿と青鋭殿にこの件を一任してるんです? 陛下はあの書類などなくても仕事が何の滞りもなくできるんですよ。ええ? 玉蘭殿は優秀だと常々おっしゃられているでしょう。そんな陛下も認める実力の持ち主ですから心配する必要は全くないんですさあ仕事に戻りますよ」
「こんなところで自分の発言が仇になるとは思いもしなかった」
確かにそうね。ご愁傷様です、陛下。
「お妃様はいつものようにどうぞ。やることがなければ美しく歩く練習でもなさっておいてください。宴で顔は見えなくとも仕草で嘘とばれてはいけませんからね」
それは私の顔が美しくないと言ってるのと同義ということでいいのかしら。ねえ。どうせ私は絶世の美姫でも何でもないわよ、あなたたちが勝手にそれを想像したんじゃないのよ。言いたいことは山盛りあるが、ここで反撃すると後が怖いのでやめておこう。それにしてもなんで樟石さんって正論しか言わないのかしら。
「では行きましょうか」
「最悪だ……せっかく今日は書類が見つかるまで仕事をしなくていいと思っていたのに……」
そんなこと思ってたんかい。どうせそれにしても玉蘭なら簡単に見つけてしまうから意味ないと思うわ。
「お妃様、お茶のご用意はいかがいたしましょう」
悔しいが樟石さんの言う通り何もやることがないので仕方なく歩く練習をしていたら、女官の一人が顔を出した。
「ありがとう、いただくわ」
「かしこまりました」
ここの女官はみんな綺麗な方ばかりなのよね。もちろん薄紅蘭の女官も美人だったけど、ここの人たちはえりすぐりの美人ばっかり集めた感じ。因みにさっきの女官は珍しく美人って感じじゃないのよね。どちらかと言えばかわいい感じ。やっぱり国王のお眼鏡にかなうように、なんていうかんじできらきらした人たちばっかりなのかなあ……
「失礼いたします。お茶をお入れいたしました。本日のお菓子は芝麻球です」
わーい、芝麻球! 美味しいのよねえ。ちょっと手が油になるけど。
「まだ熱いから、少し冷めてから飲もうかしら。下がっていいわ」
再び誰もいなくなった部屋で私は歩く練習を再開した。にしてもこれだって退屈じゃない。歩いてるだけなら何もしてないのと変わりないわ。芝麻球食べよ。
「お妃様!」
明るい声が部屋に響いた。
「玉蘭! 帰って来たのね」
「はい! 首尾は上々ですわ」
さっすが玉蘭。すると彼女ははっと何かに気が付いた様子を見せる。どうしたの?
「まあお妃様、髪がはねているところがありますわ。少しあちらを向いていただいてもよろしくて?」
「うそ!」
さっきまで動いていたせいね。私ははねてたところで構わないけど、樟石さんにあれこれ言われるのは嫌だし。
「ん、もう大丈夫ですわ。わたくしはそれでは陛下に報告してまいりますわね」
玉蘭はそう言って風のように去っていった。
気を取り直し過ぎだと思うわ。
「やはり葉家と菫家が手を取って同じ仕事をするという状況が気に食わない連中の犯行と見ていいですわ。どちらの管理が甘かったかと意見を衝突させ、仲をさらに険悪にさせるつもりだったのでしょう」
「あの二人を対立させたところでいつもと変わらないのだから、意味などなかったろうに」
月華さんと青鋭様、いつも言い合いしてるものね。どうせここで意見を対立させてもまたやってるぐらいにしか思われないだろう。残念でした。
「それにお二人とも何気に陛下への忠誠心だけは厚いですからね……陛下さえいてしまえば下手なことは起きないでしょう。相性がいいのでは?」
「わたくしもそう思いますわ」
私も意外と相性いいとは思うけどね。なんだかんだすべてのことを完璧にやってくれるもの。他の人とじゃそうはいかないわ。
「玉蘭殿、目星はついていると言っていましたね。一言喋るごとに話が脱線するのは非常にいただけませんが、重要な書類ですからさっさと取り返してきてください」
「お任せを」
玉蘭は華麗に宙に飛び上がると、さっさと書類を取り返しに向かっていった。いちいち動きが滑らかなことで。
「まあこの件は犯人がぽんこつだったということでいいだろう。対立させるべき相手を間違えたな」
「まったくです。あの二人がそんなことで意見を衝突させるはずがありませんからね」
え? なんで? いっつも二人で意見を衝突させて言い合いしてるじゃない!
「どうしてそんなこと言えるの?」
意味が分からないので樟石さんに聞いてみたら少々鼻で笑われた。一つの動作ごとにむかつくわね。
「月華殿も青鋭殿もそんな安い理由で言い合いしませんよ。彼らは常に最高のものを作り上げるため、完璧に仕上げるために意見を衝突させていますからね」
「一見頭の固い頑固者と能天気に見えるが、意外と色々考えている。頭がいい者は大体変わった人間だと思った方がいいぞ」
へえ、なるほどね。確かにそれは一理あるかもしれない。
「さて、我々は仕事に戻りますよ、陛下」
樟石さんがそう言うと、陛下はあからさまにいやそうな顔をした。うん?
「書類はまだ見つかっていないし少しくらい……」
「だめです」
食い気味に叱られたので彼は、最悪だとでも言わんばかりにため息をついて両手をあげる。
「たかだか書類が1枚なくなった程度、何のために月華殿と青鋭殿にこの件を一任してるんです? 陛下はあの書類などなくても仕事が何の滞りもなくできるんですよ。ええ? 玉蘭殿は優秀だと常々おっしゃられているでしょう。そんな陛下も認める実力の持ち主ですから心配する必要は全くないんですさあ仕事に戻りますよ」
「こんなところで自分の発言が仇になるとは思いもしなかった」
確かにそうね。ご愁傷様です、陛下。
「お妃様はいつものようにどうぞ。やることがなければ美しく歩く練習でもなさっておいてください。宴で顔は見えなくとも仕草で嘘とばれてはいけませんからね」
それは私の顔が美しくないと言ってるのと同義ということでいいのかしら。ねえ。どうせ私は絶世の美姫でも何でもないわよ、あなたたちが勝手にそれを想像したんじゃないのよ。言いたいことは山盛りあるが、ここで反撃すると後が怖いのでやめておこう。それにしてもなんで樟石さんって正論しか言わないのかしら。
「では行きましょうか」
「最悪だ……せっかく今日は書類が見つかるまで仕事をしなくていいと思っていたのに……」
そんなこと思ってたんかい。どうせそれにしても玉蘭なら簡単に見つけてしまうから意味ないと思うわ。
「お妃様、お茶のご用意はいかがいたしましょう」
悔しいが樟石さんの言う通り何もやることがないので仕方なく歩く練習をしていたら、女官の一人が顔を出した。
「ありがとう、いただくわ」
「かしこまりました」
ここの女官はみんな綺麗な方ばかりなのよね。もちろん薄紅蘭の女官も美人だったけど、ここの人たちはえりすぐりの美人ばっかり集めた感じ。因みにさっきの女官は珍しく美人って感じじゃないのよね。どちらかと言えばかわいい感じ。やっぱり国王のお眼鏡にかなうように、なんていうかんじできらきらした人たちばっかりなのかなあ……
「失礼いたします。お茶をお入れいたしました。本日のお菓子は芝麻球です」
わーい、芝麻球! 美味しいのよねえ。ちょっと手が油になるけど。
「まだ熱いから、少し冷めてから飲もうかしら。下がっていいわ」
再び誰もいなくなった部屋で私は歩く練習を再開した。にしてもこれだって退屈じゃない。歩いてるだけなら何もしてないのと変わりないわ。芝麻球食べよ。
「お妃様!」
明るい声が部屋に響いた。
「玉蘭! 帰って来たのね」
「はい! 首尾は上々ですわ」
さっすが玉蘭。すると彼女ははっと何かに気が付いた様子を見せる。どうしたの?
「まあお妃様、髪がはねているところがありますわ。少しあちらを向いていただいてもよろしくて?」
「うそ!」
さっきまで動いていたせいね。私ははねてたところで構わないけど、樟石さんにあれこれ言われるのは嫌だし。
「ん、もう大丈夫ですわ。わたくしはそれでは陛下に報告してまいりますわね」
玉蘭はそう言って風のように去っていった。
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