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第19話 求:つっこみ 譲:お菓子
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「まあ宴の件についての理由付はまだこういうことにあまり慣れていなくてかつ優秀だからとでも言っておけばいいだろう」
余ったお菓子を包んでもらいながら陛下がそう言った。いや私が来た意味よ。私に全部押し付けといてそれって酷くないか。
「月華、明日からは原則出仕だぞ」
「お菓子で釣ってもだめでしたか……」
さすがにだめだと思うよ月華さん。
「え~! もう帰ってしまわれるのですか~!?」
おそらく月華さんが自分のために用意したであろう棗花酥を口いっぱいに頬張りながら玉蘭が悲しそうな声を出す。おいおい玉蘭さん?
「こら玉蘭、それは私のだよ?」
「んむー?」
苦笑しながら月華さんはそう言ったが、玉蘭は聞こえない口に物が入っているから喋れないを貫き通した。可愛いのだがあなたさっき普通に話してましたよね。私の気のせいかな?? この空間が圧倒的つっこみ不在で本気で心配なんだけど。樟石さんももうあきらめてるもん。
「せっかくここまで来られたのにもう帰るだなんて面白くありませんわ!」
「ふむ、確かにその通りだな」
何が。何がなんだ。ああ、この人たちはやらかし組なんだなあって今私は嫌というほど痛感している。物事を良い悪いじゃなくって面白い面白くないで決めてるんだもん。
「では久々にアレをしてはいかがですか?」
月華さんがにっこりと笑った。その笑顔はとても綺麗だ。なのに……私はその笑顔の中にまぎれもない悪役顔を見た。気がした。
「ああ、アレ、ですわね! ここ数か月やっておりませんでしたから腕が落ちてしまったかもしれませんわ」
アレって……アレって何なの!! 誰か教えて!!
「仕方がありませんね。アレはやっておいて悪い事はありませんし、特別に許可しましょう。お妃様は危険ですから入れる役をしてください。決して真似はしないように」
もう我慢できない。絶対この人たちは何かよからぬ遊びをしだすつもりだ。不敬を承知で私は陛下の服の裾を握った。
「アレってなんなん! ですか……!」
「それはだな」
もったいぶらずに早く教えてよ!!!
「毒当てだ」
「は?」
あまりにも内容が衝撃的過ぎて私は思わず間抜けな声を出してしまった。なにそれ? 毒当て? それって遊びなの?
「まあここにいる全員がいつも持ち歩いている毒薬を入れる役に渡してだな。入れる役以外が背を向けて、入れる役はここにある菓子のどれか一つに好きな毒薬を入れる。あとはくじ引きで順番を決めて、それぞれ一つずつ食べていくだけだ。毒薬が当たった者が負け。罰としてその毒薬の成分をあてる」
「何ですかそれ聞いたことないんですけど!?」
そもそも毒薬にいい思い出などないのだ。あまりにも危なすぎる遊びではないか。
「私たちはもう何年も前からこの遊びをやり続けているから問題はないぞ。それに自分が毒を盛られた時すぐに気づけるようになるし、耐性がつくから万が一気がつかなくても命に支障はなくなる」
うーん、それならいいのかなあ……
「とりあえず鈴華は好きな毒薬を選んでそこの菓子にいれればいいだけだ。あまり種類が多くてもあれだからな。一人二種類にしておけ」
「わかりましたわ~」
のんきにそんな返事をして、四人はごそごそと懐を探り出した。目を瞑って適当に取り出した毒薬の瓶を机に置き、くるりと後ろを向く。うええ、私責任重大じゃん……
「あ、えーっと……い、入れましたよお……」
机の上にそのお菓子だけをおいてみんなに振り返ってもらう。これってさ、たぶん見ただけで毒が入ってないやつを選ぶんだよね? そんな高度なことできるのかなあ……
「一番は私かな?」
「二番は私か」
「三番はわたくしですわ~」
「では私が最後ですね」
その辺にあった適当な紙きれで――なんだか書類のような気もしたが、くじ引きをした四人は順番を発表すると早速お菓子を見つめ始めた。正直言ってどこにいれたか分かっているはずの私でも分からない。
「んー、これかな」
一番の月華さんが一つをつまんで口に入れた。あ、あれは確か入れてないやつだ。ほんとに見破ってるのかな? それとも勘なのかな? いや全然分からん。
「……これだな」
「これですわ」
「これでしょうか……」
みんなどんどんお菓子を口に含んでいく。私はあなたたちが時々怖い。一体どんな生き方をしてきたんだ……って思ったけどまあそうか。冷酷王とその側近とその隠密とその鳥使いだもんな……普通だな……
「もう残り三つですわね。私はこれをいただきますわ」
小さいお菓子だったので三週目に突入した時、この勝負に終わりが見えてきた。玉蘭が今食べたものには毒が入っていなかったようなので、どうやらこのどちらかが毒入りらしい。樟石さんは眉間にしわを寄せて不機嫌そうな顔を見せた。
「あー……もうどちらでもいいですよ……」
彼は向かって右側にあったお菓子をつまみ上げる。と同時に、残りの三人がふき出した。
「ははは、やはりお前は最高だな樟石!」
「ふふふ、最後の最後で間違えるだなんて変わってませんわねえ」
「昔から苦手でしたからね、この遊び」
まだ食べてないのにわかるんかい。やっぱりこの三人はどれに入っているか最初から見極めていたらしい。樟石さんこの遊び不得意なのか。へえー。
「う、うるさいですね! 食べますよ、たとえ毒入りだろうとね!」
彼は嫌そうな顔をしながらそれを口に入れた。途端に眉をひそめる。え!? まさか私めちゃくちゃやばいやつ入れちゃった!?
「鳥兜……」
「正解ですわ!」
は!? 鳥兜!? そんな猛毒だったの!? どうして玉蘭も陛下も月華さんも食べてないのにわかったの!? そして誰!?
「誰なの!? 鳥兜なんて常備してる人は!?」
あまりに衝撃的過ぎたので、私は思わず叫んでしまった。すると四人はきょとんとした顔でこちらを見つめてきた。
「えっと……みんな持ってます……ね……?」
誰かつっこんで。
余ったお菓子を包んでもらいながら陛下がそう言った。いや私が来た意味よ。私に全部押し付けといてそれって酷くないか。
「月華、明日からは原則出仕だぞ」
「お菓子で釣ってもだめでしたか……」
さすがにだめだと思うよ月華さん。
「え~! もう帰ってしまわれるのですか~!?」
おそらく月華さんが自分のために用意したであろう棗花酥を口いっぱいに頬張りながら玉蘭が悲しそうな声を出す。おいおい玉蘭さん?
「こら玉蘭、それは私のだよ?」
「んむー?」
苦笑しながら月華さんはそう言ったが、玉蘭は聞こえない口に物が入っているから喋れないを貫き通した。可愛いのだがあなたさっき普通に話してましたよね。私の気のせいかな?? この空間が圧倒的つっこみ不在で本気で心配なんだけど。樟石さんももうあきらめてるもん。
「せっかくここまで来られたのにもう帰るだなんて面白くありませんわ!」
「ふむ、確かにその通りだな」
何が。何がなんだ。ああ、この人たちはやらかし組なんだなあって今私は嫌というほど痛感している。物事を良い悪いじゃなくって面白い面白くないで決めてるんだもん。
「では久々にアレをしてはいかがですか?」
月華さんがにっこりと笑った。その笑顔はとても綺麗だ。なのに……私はその笑顔の中にまぎれもない悪役顔を見た。気がした。
「ああ、アレ、ですわね! ここ数か月やっておりませんでしたから腕が落ちてしまったかもしれませんわ」
アレって……アレって何なの!! 誰か教えて!!
「仕方がありませんね。アレはやっておいて悪い事はありませんし、特別に許可しましょう。お妃様は危険ですから入れる役をしてください。決して真似はしないように」
もう我慢できない。絶対この人たちは何かよからぬ遊びをしだすつもりだ。不敬を承知で私は陛下の服の裾を握った。
「アレってなんなん! ですか……!」
「それはだな」
もったいぶらずに早く教えてよ!!!
「毒当てだ」
「は?」
あまりにも内容が衝撃的過ぎて私は思わず間抜けな声を出してしまった。なにそれ? 毒当て? それって遊びなの?
「まあここにいる全員がいつも持ち歩いている毒薬を入れる役に渡してだな。入れる役以外が背を向けて、入れる役はここにある菓子のどれか一つに好きな毒薬を入れる。あとはくじ引きで順番を決めて、それぞれ一つずつ食べていくだけだ。毒薬が当たった者が負け。罰としてその毒薬の成分をあてる」
「何ですかそれ聞いたことないんですけど!?」
そもそも毒薬にいい思い出などないのだ。あまりにも危なすぎる遊びではないか。
「私たちはもう何年も前からこの遊びをやり続けているから問題はないぞ。それに自分が毒を盛られた時すぐに気づけるようになるし、耐性がつくから万が一気がつかなくても命に支障はなくなる」
うーん、それならいいのかなあ……
「とりあえず鈴華は好きな毒薬を選んでそこの菓子にいれればいいだけだ。あまり種類が多くてもあれだからな。一人二種類にしておけ」
「わかりましたわ~」
のんきにそんな返事をして、四人はごそごそと懐を探り出した。目を瞑って適当に取り出した毒薬の瓶を机に置き、くるりと後ろを向く。うええ、私責任重大じゃん……
「あ、えーっと……い、入れましたよお……」
机の上にそのお菓子だけをおいてみんなに振り返ってもらう。これってさ、たぶん見ただけで毒が入ってないやつを選ぶんだよね? そんな高度なことできるのかなあ……
「一番は私かな?」
「二番は私か」
「三番はわたくしですわ~」
「では私が最後ですね」
その辺にあった適当な紙きれで――なんだか書類のような気もしたが、くじ引きをした四人は順番を発表すると早速お菓子を見つめ始めた。正直言ってどこにいれたか分かっているはずの私でも分からない。
「んー、これかな」
一番の月華さんが一つをつまんで口に入れた。あ、あれは確か入れてないやつだ。ほんとに見破ってるのかな? それとも勘なのかな? いや全然分からん。
「……これだな」
「これですわ」
「これでしょうか……」
みんなどんどんお菓子を口に含んでいく。私はあなたたちが時々怖い。一体どんな生き方をしてきたんだ……って思ったけどまあそうか。冷酷王とその側近とその隠密とその鳥使いだもんな……普通だな……
「もう残り三つですわね。私はこれをいただきますわ」
小さいお菓子だったので三週目に突入した時、この勝負に終わりが見えてきた。玉蘭が今食べたものには毒が入っていなかったようなので、どうやらこのどちらかが毒入りらしい。樟石さんは眉間にしわを寄せて不機嫌そうな顔を見せた。
「あー……もうどちらでもいいですよ……」
彼は向かって右側にあったお菓子をつまみ上げる。と同時に、残りの三人がふき出した。
「ははは、やはりお前は最高だな樟石!」
「ふふふ、最後の最後で間違えるだなんて変わってませんわねえ」
「昔から苦手でしたからね、この遊び」
まだ食べてないのにわかるんかい。やっぱりこの三人はどれに入っているか最初から見極めていたらしい。樟石さんこの遊び不得意なのか。へえー。
「う、うるさいですね! 食べますよ、たとえ毒入りだろうとね!」
彼は嫌そうな顔をしながらそれを口に入れた。途端に眉をひそめる。え!? まさか私めちゃくちゃやばいやつ入れちゃった!?
「鳥兜……」
「正解ですわ!」
は!? 鳥兜!? そんな猛毒だったの!? どうして玉蘭も陛下も月華さんも食べてないのにわかったの!? そして誰!?
「誰なの!? 鳥兜なんて常備してる人は!?」
あまりに衝撃的過ぎたので、私は思わず叫んでしまった。すると四人はきょとんとした顔でこちらを見つめてきた。
「えっと……みんな持ってます……ね……?」
誰かつっこんで。
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