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第17話 冷酷狼じゃなくてぽんこつ犬説。
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「いやいやいや寵愛じゃないですよ?」
月華さんの意見を全力で否定させてもらう。なんにもしてないしなんにもされてないのに寵愛って言わないよ?
「ですが世間は陛下とお妃様が夜お部屋で何をなさっているのかなんて知りませんからそう思うと思いますよ。実際王都でもそんな噂はちらほら聞きますが」
なんですって!? 王都で!? 私の事噂になってるわけ!? 後で問いつめておこう。
「それで……私になにか御用ですか?」
月華さんが、にっこりと笑った。うわー、美形だ……葉家の人達って、頭くらくらするぐらい綺麗よね。男の人も女の人も。
「えっとあの、陛下に月華さんに会ったことがないなら会ってみたらどうだって……」
「なるほど。確かに、私は滅多に出仕しませんからね」
笑顔で言ってるけどそれさぼりだからね。
「月華さんって……なんで出仕しないんですか……?」
ちょっと呆れつつ、興味があるので本人に聞いてみる。やる気がないとか言ってたけどほんとなのかな……
「……やる気が出ないから、でしょうか。急な案件の時は出仕させられますが」
まさかのほんと。出仕させられるって言い方がもう、ね。
「家で音楽を嗜んだり書物を読んでいる方が楽しいですから」
それで陛下に認められてるってすごいな。幼い頃から仕えてるからかな。……ちっちゃい時からこれとかある……?
「それに出仕したらしたで陛下が怖いですしね。いつも無能な文官に怒っていらっしゃる。ああいった場所は私には合っていないのかもしれません」
無能な文官……そっか、陛下は人々が恐れる冷酷な狼。私目線でいくとちょっとぽんこつな犬みたいだけど、怒ったら怖いんだもんね。失礼か。聞かれてないからいいや。でもさ、月華さん。それ、出仕したくない理由にはならなくないですか。
「そ、そうなんですか……」
そんな意見を呑み込んであはは、と笑いながら私は本題を切り出す。
「あの月華さん、春の宴ってどう思いますか?」
「春の宴、ですか?」
突然言われて驚いたのか、彼は首を傾げた。とても絵になる姿だ。
「とても――雅なものだと思いますね。私は陛下が即位されてから官吏になったので、あまり詳しくは知りませんが」
雅なもの。ふーん、そうなのか。私にとっては月華さんが雅な者だけどね?
「春の訪れを祝い、花を愛でる宴なのですからさぞかし美しいものなのでしょう。花の形を模した料理などを出すと趣があるのでは?」
さすが優雅な人だ。考えることが優雅すぎる。
「とっても……」
これは使えるぞ、と思った私は彼ににっこりと微笑みかけた。
「とっても具体的で素敵なお考えをお持ちなのですね!」
「え?」
「そうだな。妃の言う通りだ」
げ、聞こえるはずのない声が聞こえる。私はばっと窓の方を振り向いた。そこに居たのは陛下。さっき塀の向こう側に置いてきたはずの陛下と、樟石さんだった。玉蘭ったら私と月華さんが話してる隙に連れてきたのね?
「随分の良い考えを持っているではないか」
「は、お、お褒めに預かり光栄で……」
絶対光栄だと思ってないじゃん……声震えてるよ……
「ところで葉月華。いつになったら出仕するのだ?」
「……今後特に出仕する予定はございませんね……」
この人震えながら笑顔で何言ってるんだ……
「……ほう?」
陛下が黒い頬笑みを浮かべる。でも怒んないんだよね。他の人なら問答無用で切り捨てるのに。主従関係が出来上がってるのかな。
「……あ、そうだ。陛下、お菓子ありますよ」
急に、月華さんの声が震え無くなった。いきなりどうしたんだろ?
「……それは……お前の作った菓子か……?」
ん? こっちも食いついたんだけど?
「そうですよ。陛下のお好きな棗花酥です」
え、陛下って棗花酥好きなの……? 棗花酥とは、胡桃と棗餡の酥。確かに美味しいし形も可愛いけど、陛下が好きだとは知らなかった。意外と可愛いもの好きなのかな……?
「欲しいですか?」
彼は、机の上に置いてあった棗花酥の皿を手に取ると、自分の背中に隠した。さっきまでの怯え様はどこへ行ったのか。
「葉月華。私を菓子で釣ろうとはいい度胸だな?」
「いらないのなら私が食べますが」
なに、月華さんは陛下のことお菓子で釣ろうとしてるの? この冷酷王がたかがお菓子なんかに釣られるわけ……ってなんか犬のしっぽの幻覚が見えるんですけど!? 全力でぱたぱた振ってるようにみえるよ!?
長い間睨み合いが続いたような気がする。睨んでたのは陛下だけだけど。あまりにもずっとその状態から動かないので、玉蘭と世間話をしていたらいつの間にか勝敗がついていた。勝利したのは――
「今日は見逃してやろう葉月華。次はないぞ」
「それはそれは。作ったかいがありましたね」
月華さんだった。もう一度言おう。勝利したのは月華さんだ。主従関係の従の方が勝っている。陛下、そんなに美味しそうに月華さんの手作り棗花酥をもぐつきなら言っても怖くないですよ。
「では今日のところはこれで……」
「そうだな。帰るぞ樟石、鈴華」
「陛下?」
樟石さんの笑みが黒い。
「陛下、わたくしにも分けてくださいな」
玉蘭、先に奪ってから聞いてもそれは許可とったとは言わないよ。
「なんだ、樟石も欲しいのか? 今は機嫌がいいのでな。分けてやらんこともないぞ」
陛下、多分樟石さん分けて欲しいわけじゃないと思う。結論、陛下は月華さんの手作りのお菓子に簡単に釣られる。本格的に陛下が狼じゃなくて犬に見えてきた。
月華さんの意見を全力で否定させてもらう。なんにもしてないしなんにもされてないのに寵愛って言わないよ?
「ですが世間は陛下とお妃様が夜お部屋で何をなさっているのかなんて知りませんからそう思うと思いますよ。実際王都でもそんな噂はちらほら聞きますが」
なんですって!? 王都で!? 私の事噂になってるわけ!? 後で問いつめておこう。
「それで……私になにか御用ですか?」
月華さんが、にっこりと笑った。うわー、美形だ……葉家の人達って、頭くらくらするぐらい綺麗よね。男の人も女の人も。
「えっとあの、陛下に月華さんに会ったことがないなら会ってみたらどうだって……」
「なるほど。確かに、私は滅多に出仕しませんからね」
笑顔で言ってるけどそれさぼりだからね。
「月華さんって……なんで出仕しないんですか……?」
ちょっと呆れつつ、興味があるので本人に聞いてみる。やる気がないとか言ってたけどほんとなのかな……
「……やる気が出ないから、でしょうか。急な案件の時は出仕させられますが」
まさかのほんと。出仕させられるって言い方がもう、ね。
「家で音楽を嗜んだり書物を読んでいる方が楽しいですから」
それで陛下に認められてるってすごいな。幼い頃から仕えてるからかな。……ちっちゃい時からこれとかある……?
「それに出仕したらしたで陛下が怖いですしね。いつも無能な文官に怒っていらっしゃる。ああいった場所は私には合っていないのかもしれません」
無能な文官……そっか、陛下は人々が恐れる冷酷な狼。私目線でいくとちょっとぽんこつな犬みたいだけど、怒ったら怖いんだもんね。失礼か。聞かれてないからいいや。でもさ、月華さん。それ、出仕したくない理由にはならなくないですか。
「そ、そうなんですか……」
そんな意見を呑み込んであはは、と笑いながら私は本題を切り出す。
「あの月華さん、春の宴ってどう思いますか?」
「春の宴、ですか?」
突然言われて驚いたのか、彼は首を傾げた。とても絵になる姿だ。
「とても――雅なものだと思いますね。私は陛下が即位されてから官吏になったので、あまり詳しくは知りませんが」
雅なもの。ふーん、そうなのか。私にとっては月華さんが雅な者だけどね?
「春の訪れを祝い、花を愛でる宴なのですからさぞかし美しいものなのでしょう。花の形を模した料理などを出すと趣があるのでは?」
さすが優雅な人だ。考えることが優雅すぎる。
「とっても……」
これは使えるぞ、と思った私は彼ににっこりと微笑みかけた。
「とっても具体的で素敵なお考えをお持ちなのですね!」
「え?」
「そうだな。妃の言う通りだ」
げ、聞こえるはずのない声が聞こえる。私はばっと窓の方を振り向いた。そこに居たのは陛下。さっき塀の向こう側に置いてきたはずの陛下と、樟石さんだった。玉蘭ったら私と月華さんが話してる隙に連れてきたのね?
「随分の良い考えを持っているではないか」
「は、お、お褒めに預かり光栄で……」
絶対光栄だと思ってないじゃん……声震えてるよ……
「ところで葉月華。いつになったら出仕するのだ?」
「……今後特に出仕する予定はございませんね……」
この人震えながら笑顔で何言ってるんだ……
「……ほう?」
陛下が黒い頬笑みを浮かべる。でも怒んないんだよね。他の人なら問答無用で切り捨てるのに。主従関係が出来上がってるのかな。
「……あ、そうだ。陛下、お菓子ありますよ」
急に、月華さんの声が震え無くなった。いきなりどうしたんだろ?
「……それは……お前の作った菓子か……?」
ん? こっちも食いついたんだけど?
「そうですよ。陛下のお好きな棗花酥です」
え、陛下って棗花酥好きなの……? 棗花酥とは、胡桃と棗餡の酥。確かに美味しいし形も可愛いけど、陛下が好きだとは知らなかった。意外と可愛いもの好きなのかな……?
「欲しいですか?」
彼は、机の上に置いてあった棗花酥の皿を手に取ると、自分の背中に隠した。さっきまでの怯え様はどこへ行ったのか。
「葉月華。私を菓子で釣ろうとはいい度胸だな?」
「いらないのなら私が食べますが」
なに、月華さんは陛下のことお菓子で釣ろうとしてるの? この冷酷王がたかがお菓子なんかに釣られるわけ……ってなんか犬のしっぽの幻覚が見えるんですけど!? 全力でぱたぱた振ってるようにみえるよ!?
長い間睨み合いが続いたような気がする。睨んでたのは陛下だけだけど。あまりにもずっとその状態から動かないので、玉蘭と世間話をしていたらいつの間にか勝敗がついていた。勝利したのは――
「今日は見逃してやろう葉月華。次はないぞ」
「それはそれは。作ったかいがありましたね」
月華さんだった。もう一度言おう。勝利したのは月華さんだ。主従関係の従の方が勝っている。陛下、そんなに美味しそうに月華さんの手作り棗花酥をもぐつきなら言っても怖くないですよ。
「では今日のところはこれで……」
「そうだな。帰るぞ樟石、鈴華」
「陛下?」
樟石さんの笑みが黒い。
「陛下、わたくしにも分けてくださいな」
玉蘭、先に奪ってから聞いてもそれは許可とったとは言わないよ。
「なんだ、樟石も欲しいのか? 今は機嫌がいいのでな。分けてやらんこともないぞ」
陛下、多分樟石さん分けて欲しいわけじゃないと思う。結論、陛下は月華さんの手作りのお菓子に簡単に釣られる。本格的に陛下が狼じゃなくて犬に見えてきた。
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