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第14話 国王と側近のコント((
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「私が一体いつ主観だけで物事を他人に説明したというのだ?」
「大抵いつもですねえ」
陛下……せめてちゃんと説明してから自分の主観を入れてください…… 樟石さんの黒い微笑みが怖い。
「お妃様、私が主観は一切交えずに説明するので陛下の言うことには惑わされないでくださいね?」
この人は自分の主をなんだと思っているのだろう。うん。
「春の宴はその名の通り、春に王宮で行われる宴です。多くの植物が芽吹く季節の訪れを祝うものですね」
ふーん、うちの国にもあったのかしら。この国だけかなあ……
「出席するのはこの王宮に勤める人々。原則男だけです」
「つまりあの古狸どもしか参加せぬのだ」
「陛下は黙っていてください」
むすっとした表情でそう言った陛下を、樟石さんが一蹴する。陛下がちょっとしゅんってなってるの面白すぎて笑いそうなんだけど。笑ったら殺されるから耐えなきゃ……
「給仕は女官がやりますが、それだけでは春の宴なのに花がありません。歴代の国王たちは即位するときもうすでに妃が一人以上いましたから、その妃を花で飾って庭園を歩かせたのです」
「即位した時点で妃がすでに複数人いるなどありえん」
「陛下がおかしいだけです」
無理っ笑うっ……! 私まだ死にたくないのに!
「はあ……やっと一人妃ができたというのに……」
「妃など複数人持っても面倒なだけだろう。一人で何が悪い。これでも妥協した」
国王って大変そうだなあ……お妃候補いっぱいいそうだし。正妃第一候補は絶対に嫁いでこないっていう自信があるんだろうけどさ。よく考えたら私正妃じゃないんだよね。もしかして薄紅蘭舐められてる? いつものことだけど。
「ですからやるとなればあなたが宴の花……花……」
「私じゃあ花になれないっていうんですかねえ? え?」
彼は明らかに私が花なんて無理だと思っている表情をしている。それは私も重々承知しているのだが、そんな風に言われるととても腹が立つ。のでつい言い返してしまった。
「ほう、ではできる自信がおありなので?」
「ないです」
もちろん即答させていただく。自信なんてない。ほんとになんなのこの人、想像してた感じと違う人なんですけど! あんたは姑か! すると全力でいがみ合っているところに、突然誰かがふき出す音が聞こえた。
「くっ、ははっ、ははは」
「……」
何を隠そう、この国を治める冷酷王の笑い声である。笑うんじゃない。
「面白い、春の宴はすることにしよう」
「えっ? 面倒だって言ってたじゃないですか!」
なんで!? ついさっきまで死んでもやりたくないって顔してたのに! どんな心境の変化があったの!?
「気が変わった。我が妃が宴の花になっている様子を見てみたい。連中も一度やれば満足するだろう」
なっ、なっ、なっ~! この国王、いつも私のこと未知の生命体みたいな目でしか見てないじゃない!
「玉蘭」
「はあいー?」
呼ばれて窓から飛び込んできた玉蘭。なんか空気が緩い。こっちが素? ならこの前見た時のはいったい何だったのか…… 私の存在に慣れたのか……?
「聞いていたと思うが、春の宴を催す。同時に妃への注目も集まることだろう。いつもより気を引き締めろ」
「もちろんですわ」
そっか、みんな“絶世の美女”である私に関心があるけど、今回のことでもっと注目されるんだもんね。王宮内には私の顔を見たことがある人はほとんどいない。だからどの家もみんな私の様子見をしたいはず。密偵増えるのかなあ……玉蘭がいれば心強いけど。
「それと」
再び窓の外に出ていこうとした玉蘭を、陛下は呼び止めた。私より何倍も“絶世の美女”が似合う彼女が、ふわりと前髪を揺らして振り返る。
「いい加減出仕せよとあれに言っておけ。鳥を通して仕事をするな。才能があるのになぜやる気にならん」
「よく言い聞かせておきますわ。まあわたくしが説得したところで、王宮の土は踏んだだとか理由をつけてすぐに帰ってきますけれど」
誰のことだろう……全然知らない人だろうから申し訳ないんだけど、仕事嫌いすぎない……? 鳥? 出仕しろっていわれて王宮に来て何もせずに帰るのは普通じゃないと思うよ……?
「ふむ……では出仕する理由をくれてやるから覚悟しておけとでも言っておけ」
「あらあら、ご愁傷様ですこと」
くすくすと笑いながら窓から飛び出す玉蘭。誰か私にあれとはだれのことなのか説明してください。
「仲間はずれにしてすまぬな。あれとは玉蘭の兄のことだ。鳥使いで、名を葉月華という」
鳥使い……鳥使い……ああ、玉蘭がこの前話してたあの人のことね!
「まったくやり始めれば何でもこなすのにやる気がないと申すから呆れたやつだ」
「あの、鳥を通して仕事、とは……?」
やる気が出ないっていう理由で仕事に来ない人初めて見たんだけど。陛下の手先だから許されるのか……? ううん?
「そのままだ。その日にやった書類一枚を毎日鳥に運ばせてよこしてくる。一枚だぞ? しかも大体が手間のかからない簡単なものだ」
「それってただのさぼりでは……」
真理に気が付いてしまったかもしれない……
「大抵いつもですねえ」
陛下……せめてちゃんと説明してから自分の主観を入れてください…… 樟石さんの黒い微笑みが怖い。
「お妃様、私が主観は一切交えずに説明するので陛下の言うことには惑わされないでくださいね?」
この人は自分の主をなんだと思っているのだろう。うん。
「春の宴はその名の通り、春に王宮で行われる宴です。多くの植物が芽吹く季節の訪れを祝うものですね」
ふーん、うちの国にもあったのかしら。この国だけかなあ……
「出席するのはこの王宮に勤める人々。原則男だけです」
「つまりあの古狸どもしか参加せぬのだ」
「陛下は黙っていてください」
むすっとした表情でそう言った陛下を、樟石さんが一蹴する。陛下がちょっとしゅんってなってるの面白すぎて笑いそうなんだけど。笑ったら殺されるから耐えなきゃ……
「給仕は女官がやりますが、それだけでは春の宴なのに花がありません。歴代の国王たちは即位するときもうすでに妃が一人以上いましたから、その妃を花で飾って庭園を歩かせたのです」
「即位した時点で妃がすでに複数人いるなどありえん」
「陛下がおかしいだけです」
無理っ笑うっ……! 私まだ死にたくないのに!
「はあ……やっと一人妃ができたというのに……」
「妃など複数人持っても面倒なだけだろう。一人で何が悪い。これでも妥協した」
国王って大変そうだなあ……お妃候補いっぱいいそうだし。正妃第一候補は絶対に嫁いでこないっていう自信があるんだろうけどさ。よく考えたら私正妃じゃないんだよね。もしかして薄紅蘭舐められてる? いつものことだけど。
「ですからやるとなればあなたが宴の花……花……」
「私じゃあ花になれないっていうんですかねえ? え?」
彼は明らかに私が花なんて無理だと思っている表情をしている。それは私も重々承知しているのだが、そんな風に言われるととても腹が立つ。のでつい言い返してしまった。
「ほう、ではできる自信がおありなので?」
「ないです」
もちろん即答させていただく。自信なんてない。ほんとになんなのこの人、想像してた感じと違う人なんですけど! あんたは姑か! すると全力でいがみ合っているところに、突然誰かがふき出す音が聞こえた。
「くっ、ははっ、ははは」
「……」
何を隠そう、この国を治める冷酷王の笑い声である。笑うんじゃない。
「面白い、春の宴はすることにしよう」
「えっ? 面倒だって言ってたじゃないですか!」
なんで!? ついさっきまで死んでもやりたくないって顔してたのに! どんな心境の変化があったの!?
「気が変わった。我が妃が宴の花になっている様子を見てみたい。連中も一度やれば満足するだろう」
なっ、なっ、なっ~! この国王、いつも私のこと未知の生命体みたいな目でしか見てないじゃない!
「玉蘭」
「はあいー?」
呼ばれて窓から飛び込んできた玉蘭。なんか空気が緩い。こっちが素? ならこの前見た時のはいったい何だったのか…… 私の存在に慣れたのか……?
「聞いていたと思うが、春の宴を催す。同時に妃への注目も集まることだろう。いつもより気を引き締めろ」
「もちろんですわ」
そっか、みんな“絶世の美女”である私に関心があるけど、今回のことでもっと注目されるんだもんね。王宮内には私の顔を見たことがある人はほとんどいない。だからどの家もみんな私の様子見をしたいはず。密偵増えるのかなあ……玉蘭がいれば心強いけど。
「それと」
再び窓の外に出ていこうとした玉蘭を、陛下は呼び止めた。私より何倍も“絶世の美女”が似合う彼女が、ふわりと前髪を揺らして振り返る。
「いい加減出仕せよとあれに言っておけ。鳥を通して仕事をするな。才能があるのになぜやる気にならん」
「よく言い聞かせておきますわ。まあわたくしが説得したところで、王宮の土は踏んだだとか理由をつけてすぐに帰ってきますけれど」
誰のことだろう……全然知らない人だろうから申し訳ないんだけど、仕事嫌いすぎない……? 鳥? 出仕しろっていわれて王宮に来て何もせずに帰るのは普通じゃないと思うよ……?
「ふむ……では出仕する理由をくれてやるから覚悟しておけとでも言っておけ」
「あらあら、ご愁傷様ですこと」
くすくすと笑いながら窓から飛び出す玉蘭。誰か私にあれとはだれのことなのか説明してください。
「仲間はずれにしてすまぬな。あれとは玉蘭の兄のことだ。鳥使いで、名を葉月華という」
鳥使い……鳥使い……ああ、玉蘭がこの前話してたあの人のことね!
「まったくやり始めれば何でもこなすのにやる気がないと申すから呆れたやつだ」
「あの、鳥を通して仕事、とは……?」
やる気が出ないっていう理由で仕事に来ない人初めて見たんだけど。陛下の手先だから許されるのか……? ううん?
「そのままだ。その日にやった書類一枚を毎日鳥に運ばせてよこしてくる。一枚だぞ? しかも大体が手間のかからない簡単なものだ」
「それってただのさぼりでは……」
真理に気が付いてしまったかもしれない……
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