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第10話 天女の化身
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「ねえ、葉家のご令嬢ってどんな方なの?」
「もうすぐお見えですから、ご自分の目で確認していただくのが一番ですわ」
あーもう、どうして教えてくれないのよ。ちょっとぐらいいじゃないの!
さっきから女官が、頑なに葉家の令嬢について何も教えてくれない。陛下に口止めされているのか私に何の情報もなしに会ってほしいのか。どっちかは分からないけど名前ぐらいは教えてくれてもいいじゃないのよ。
「あら、いらっしゃったみたいですわ。行きましょうお妃様」
仕方なく、私は女官について部屋を出た。
ふわふわきらきら。この部屋のには妖精がいる。その微笑みは、天女のごとく美しく、その声は鈴の音のごとく透き通っている。
「初めましてお妃様。葉玉蘭と申しますわ。なんて素敵なお妃様なのでしょう。お会いできて光栄ですわ」
愛くるしいとびきりの笑顔を浮かべて、彼女はそう言った。本当に人間? 天女か何かじゃないかしら? あまりにも美しくて、この世の者とは到底思えないのだ。
「ありがとう。玉蘭というのね、素敵な名前。私は邑鈴華よ」
「ああ、本当にお妃様に会えるだなんて……今日ほどうれしい日は他にはございませんわ!」
はあ、癒される……だめだめ、相手は正妃第一候補の可能性があるんだもの。気を抜いたらつけこまれちゃうかも。
「どうぞ仲良くしてくださいませね? お妃様」
……だめだ、気が抜けるわ。勝てない。そんな私の顔を見てか、玉蘭はふふっと笑う。
「面白い方ですのね。紅蘭国の姫君は鳥も見惚れて空から落ちるほどの絶世の美姫と噂されておりましたけれど親しみやすそうな方で安心しました」
困ったような顔まで可愛い。これだけの美しさがあるのなら正妃第一候補なんて誰もが納得するに違いない。
「そうかしら? そんな噂、私もここに来るまでは全く知らなかったのよ?」
「まあ、そうなのですか? ふふ、実はわたくしとても心配しておりましたの。それほどお美しい方ならわたくしと親しくなどともってのほかなのではないかと……」
私はそんな気位の高い人じゃないから大丈夫よ。
「ああ、そんなお妃様と今お話しできているだなんて……あとで皆様に自慢しておきますわね! 素敵な方だったって!」
はあでも可愛いなあ、陛下だってお会いになったらきっとそう思うに違いないわ。
「お妃様?」
「はあい?」
玉蘭が私の顔を覗き込んだ。私、そんなにぼーっとしてたかしら? じっと私の顔を見つめた後、面白そうに笑った。
「お妃様、わたくしを陛下の正妃第一候補と思っておいでなのでしょう?」
「えっ……」
ばれた……でも事実でしょ? こんなに可愛くて地位もあるのに正妃第一候補じゃないはずがないわ。だが何が面白いんだろう。玉蘭はずっと笑っている。
「確かにそうですのよ? お父様はわたくしを陛下の後宮にいれようと必死ですわ。でもわたくし、後宮に入る気なんてさらさらありませんの。ご安心くださいな」
入る気がない!? なんで!? 第一候補なんだよね!?
彼女の言葉があまりにも衝撃的過ぎて、私はついこう言ってしまった。
「い、いえ、誰が後宮に入ろうと陛下がお嫌でなければかまわないのだけれど……国王の後宮なんて、みんな入りたいものではないの?」
間違えた。ここは陛下の後宮に他の方が入るのは嫌とでも言っておいた方がよかったかもしれない。そんなことを考えていると、玉蘭が口を開いた。
「皆様はきっとそう思われていることだと思いますわ。妃になれば王家との繋がりができて家の利益になりますし、次期国王の母になる可能性だって十分にあるのですから。ですがわたくし、好きでもない方のもとに嫁ぎたくなんてありませんの……」
「玉蘭は陛下が好きではないの?」
それならわからなくもないわ。王族や貴族の結婚なんて本人の意思を無視したものが多いものね。
でも、玉蘭は首を横に振った。予想していなかった行動に私は驚く。
「陛下のことは好きなのですよ? 恋愛対象として見ることができないだけですの」
うん? 恋愛対象として見ることができない? 会ったことがあるのかしら? 会っただけじゃ判断できないか。話したことがある? 意外だった。確かに陛下は怖いけど、顔はいいと思うのだ。かっこいいと思うし、やっぱり性格と怖さだろうか? ああいう顔は好みじゃない?
「お妃様、わたくしお妃様に大事な要件がございますの。今の話とも関係がありますわ。お話してもよろしいでしょうか?」
「ええもちろん」
玉蘭の目が、先程とは全く違う真剣な目になった。先程だって真剣な目だったのだが、どこか違うのだ。
「お話しするより、実際に見て頂いた方が早いかもしれませんわね。お妃様、わたくしね」
おもむろに玉蘭は立ち上がる。片足で地面をけった彼女は、背中で綺麗な弧を描いて空中で一回転する。何が起きているのか理解が追い付かなくて、ただただ私はその美しい宙返りを見守ることしかできなかった。音もたてずに地面に降り立った彼女を見て私の思考は完全に停止した。
「玉蘭……よね……?」
そこにいたのは先程のふわふわの桃色の衣装をまとった美しい少女ではなく、髪を二つくくりのお団子頭に結って、黒い覆面と黒い動きやすそうな衣装をまとい、両手に暗器を持った少女だったからである。
「もうすぐお見えですから、ご自分の目で確認していただくのが一番ですわ」
あーもう、どうして教えてくれないのよ。ちょっとぐらいいじゃないの!
さっきから女官が、頑なに葉家の令嬢について何も教えてくれない。陛下に口止めされているのか私に何の情報もなしに会ってほしいのか。どっちかは分からないけど名前ぐらいは教えてくれてもいいじゃないのよ。
「あら、いらっしゃったみたいですわ。行きましょうお妃様」
仕方なく、私は女官について部屋を出た。
ふわふわきらきら。この部屋のには妖精がいる。その微笑みは、天女のごとく美しく、その声は鈴の音のごとく透き通っている。
「初めましてお妃様。葉玉蘭と申しますわ。なんて素敵なお妃様なのでしょう。お会いできて光栄ですわ」
愛くるしいとびきりの笑顔を浮かべて、彼女はそう言った。本当に人間? 天女か何かじゃないかしら? あまりにも美しくて、この世の者とは到底思えないのだ。
「ありがとう。玉蘭というのね、素敵な名前。私は邑鈴華よ」
「ああ、本当にお妃様に会えるだなんて……今日ほどうれしい日は他にはございませんわ!」
はあ、癒される……だめだめ、相手は正妃第一候補の可能性があるんだもの。気を抜いたらつけこまれちゃうかも。
「どうぞ仲良くしてくださいませね? お妃様」
……だめだ、気が抜けるわ。勝てない。そんな私の顔を見てか、玉蘭はふふっと笑う。
「面白い方ですのね。紅蘭国の姫君は鳥も見惚れて空から落ちるほどの絶世の美姫と噂されておりましたけれど親しみやすそうな方で安心しました」
困ったような顔まで可愛い。これだけの美しさがあるのなら正妃第一候補なんて誰もが納得するに違いない。
「そうかしら? そんな噂、私もここに来るまでは全く知らなかったのよ?」
「まあ、そうなのですか? ふふ、実はわたくしとても心配しておりましたの。それほどお美しい方ならわたくしと親しくなどともってのほかなのではないかと……」
私はそんな気位の高い人じゃないから大丈夫よ。
「ああ、そんなお妃様と今お話しできているだなんて……あとで皆様に自慢しておきますわね! 素敵な方だったって!」
はあでも可愛いなあ、陛下だってお会いになったらきっとそう思うに違いないわ。
「お妃様?」
「はあい?」
玉蘭が私の顔を覗き込んだ。私、そんなにぼーっとしてたかしら? じっと私の顔を見つめた後、面白そうに笑った。
「お妃様、わたくしを陛下の正妃第一候補と思っておいでなのでしょう?」
「えっ……」
ばれた……でも事実でしょ? こんなに可愛くて地位もあるのに正妃第一候補じゃないはずがないわ。だが何が面白いんだろう。玉蘭はずっと笑っている。
「確かにそうですのよ? お父様はわたくしを陛下の後宮にいれようと必死ですわ。でもわたくし、後宮に入る気なんてさらさらありませんの。ご安心くださいな」
入る気がない!? なんで!? 第一候補なんだよね!?
彼女の言葉があまりにも衝撃的過ぎて、私はついこう言ってしまった。
「い、いえ、誰が後宮に入ろうと陛下がお嫌でなければかまわないのだけれど……国王の後宮なんて、みんな入りたいものではないの?」
間違えた。ここは陛下の後宮に他の方が入るのは嫌とでも言っておいた方がよかったかもしれない。そんなことを考えていると、玉蘭が口を開いた。
「皆様はきっとそう思われていることだと思いますわ。妃になれば王家との繋がりができて家の利益になりますし、次期国王の母になる可能性だって十分にあるのですから。ですがわたくし、好きでもない方のもとに嫁ぎたくなんてありませんの……」
「玉蘭は陛下が好きではないの?」
それならわからなくもないわ。王族や貴族の結婚なんて本人の意思を無視したものが多いものね。
でも、玉蘭は首を横に振った。予想していなかった行動に私は驚く。
「陛下のことは好きなのですよ? 恋愛対象として見ることができないだけですの」
うん? 恋愛対象として見ることができない? 会ったことがあるのかしら? 会っただけじゃ判断できないか。話したことがある? 意外だった。確かに陛下は怖いけど、顔はいいと思うのだ。かっこいいと思うし、やっぱり性格と怖さだろうか? ああいう顔は好みじゃない?
「お妃様、わたくしお妃様に大事な要件がございますの。今の話とも関係がありますわ。お話してもよろしいでしょうか?」
「ええもちろん」
玉蘭の目が、先程とは全く違う真剣な目になった。先程だって真剣な目だったのだが、どこか違うのだ。
「お話しするより、実際に見て頂いた方が早いかもしれませんわね。お妃様、わたくしね」
おもむろに玉蘭は立ち上がる。片足で地面をけった彼女は、背中で綺麗な弧を描いて空中で一回転する。何が起きているのか理解が追い付かなくて、ただただ私はその美しい宙返りを見守ることしかできなかった。音もたてずに地面に降り立った彼女を見て私の思考は完全に停止した。
「玉蘭……よね……?」
そこにいたのは先程のふわふわの桃色の衣装をまとった美しい少女ではなく、髪を二つくくりのお団子頭に結って、黒い覆面と黒い動きやすそうな衣装をまとい、両手に暗器を持った少女だったからである。
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