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続・執事、自らを踏み台に。

04旅が始まった。

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「ダメよ。確かにここですぐ追いかけたくなる気持ちはわかるけど、それは自己満足でしかない。ちゃんと彼女をとむらって、彼女ののこした人々や関係各所にもしっかりと説明して、ちゃんと彼女が生きてきたということを世界にきざみなさい。やり直せたり死ななかったりするからといって、生きるということをないがしろにしてはならないのよ」

 俺のナイフに魔法をかけた魔女は、何度も恋人との死別を経験してきた不老長寿ふろうちょうじゅとしての心得をべて。

「辛いけど、これは別れなのよ。しっかりと受け入れなさい」

 力強く、きびしく、魔女は俺にそう言った。

 確かに。
 俺は根本的に自分の命というものに対しての執着しゅうちゃくどころか頓着とんちゃくすらない。

 相討あいうちすらいとわない、殺人用自動人形としての習性が抜けきらない。
 人間として生きてきたこの人生ですら、アビィというブレーキがあったから命を捨てずにいられただけだ。

 殺せば解決するなら殺すだけ、死ねば解決するなら死ぬだけ。

 でも確かにこれは、俺の物語としての話だ。
 アビィは俺の物語だけの登場人物ではない、グロリア嬢やモーラ嬢やルーシィの友人たちや様々な人間関係がある。

 

 意味のあるものにしたい。
 アビィが駆け抜けた、この人生を。
 無駄にはしない。

「……わかった。そうするよ」

 俺は握り手だけになったナイフを捨てながら、そう言った。

 そこからの日々は淡々と過ぎた。
 まあ淡々と、というのはあくまでも俺の行動の話であって。

 俺以外の物語としては激動だったと思う。
 グロリア嬢やモーラ嬢やルーシィは泣きじゃくり。
 アーチはただただ、お嬢様たちを気遣きづかった。
 キャロライン嬢もリングストン公爵も、かなり衝撃を受けていた。

 葬儀そうぎには聖女や第二王子、王妃や国王まで参列する運びとなった。

 教会の裏にある墓地に、墓も立てて、埋葬まいそうもした。
 墓の位置は俺の……ナンバーナインの墓の隣だ。

 前にアビィが俺の墓になんか祈っていたことがあるが、俺の墓に俺の魂はない。けずり出したでかいただの石を死体の上に乗せただけのものだ。

 でも、なんかわかった。
 祈りたくなる気持ち、ここにアビィはいないけどアビィはここに居たんだという証拠がきざまれている。

 これは大事にしたくもなる。

 アビィの葬儀そうぎを終えて。
 アビィと暮らした家の荷物の整理や家の引き払い。

 準備を終えたところで。
 俺は一応、ことのあらましを全てアーチに話した。

「…………なるほどな。そういう話か……、だから思ってたより落ち着いてられたんだな。まあ共感とか同調とか同情とかなぐさめみたいな寒いことを野郎同士でするつもりはねえけど、理解はできるよ。僕だってそうするだろうな」

 俺の話を聞き終えて、アーチは眉間にしわを寄せて足りない頭で話を飲み込む。

「グロリア嬢たちには、旅に出たってことにしといてやる。変な心配させたくねえし、知り合いの訃報ふほうが立て続けに起こるのは重いからな」

 アーチは続けてそう言いながら、自分でれた茶を飲み干す。

 流石に優秀な立ち回りだ。
 こいつは馬鹿だが、状況判断力はわりとある。

 実際旅に出るようなものだ。
 長く長く続くであろう、旅路たびじだ。

「そうか、助かる。おまえはおまえで達者に暮らせよ馬鹿」

 俺はアーチに向かって、別れの言葉を告げる。

「おまえもな馬鹿、達者に死ねよ。アビィ嬢によろしくな」

 アーチはあきれるように、別れの言葉を返した。

 俺はそこから、ナイフ一本だけ持って行方ゆくえをくらました。

 せっかくアーチが旅に出たことにしたのに、死体が見つかったら俺の死がバレてしまう。
 死体を残さない、死んだことにも気づかせない。
 幸い、それは俺の得意とすることだ。

 さあ、必ず会いに行くぞ。
 どれだけかかろうと、何度生まれ変わっても、必ず。

 俺は、アビィを幸せにするんだ。
 そして、俺も幸せにしてほしいんだ。

 こうして、俺は世界から消えて。
 自分の命すらも踏み台にし、旅が始まった。
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