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49・総員、クライマックスを駆け抜ける。
07真打ち。
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真打ち。
プッツンお嬢様アビゲイル・バセット。
これが真の狙い。
アビィはずっと、俺の背中にしがみついていた。
俺がアビィを含む自身の気配を殺し続け、アビィ自身も気配を殺し息を潜めていた。
誰にも気づかれずに、俺の背に張り付き続けていのだ。
俺は前世での自分の死という経験によって、世界から消失出来るほどに気配を殺せるようになった。
死のイメージを明確にする、経験。
この世界において、アビィ以上に自身の死を明確にイメージが出来る人間は他にいない。
アビィの前世、タカダマリエは異世界でも特異な存在だった。
産まれてすぐに難病を発症。
産まれて死ぬまでを、ほぼ病院の中で過ごし。
穴という穴に管を繋がれ声も出せず経口摂取での食事も行えず、胃に直接流動食を流し込んだり点滴にて栄養を摂取し。
身体は動かせず筋肉は発達せずに骨と皮の状態、投薬治療の影響で髪の毛も抜け落ちていた。
月に一度は自発呼吸も止まり、高い頻度で意識も失う。
その度に、次に目覚める確率に絶望し。
目覚めた奇跡にすら、絶望する。
そして、確率通りに当たり前のように死んでアビゲイル・バセットへと生まれ変わった。
アビィにとって自分の死というのは、もっと身近なもので。
当たり前に隣にあったもの。
元暗殺者の俺からすれば、当然ではある。
人はいつだって死ねる生き物だ。
重要な動脈が皮一枚挟んで、ナイフの切っ先が食い込むだけで届くような位置に配置されている。自身が思っている以上に死は身近にある。
でもアビィの場合はそんな話とは訳が違う。
俺は簡単に殺せることや簡単に殺されたことも合わせた目線での話だが。
アビィの前世タカダマリエの人生は産まれた時からずっと……いや、死を抱きかかえて産まれてきたようなものだ。
世界に干渉できず、死を抱いたまま。
世界から切り離されて、生きてきた。
そんなアビィ以上に、己を殺し世界からの消失を明確に想像して思いと想いの重さによって実現出来る人間は他にいない。
実際、この作戦が決行され魔女が一枚目の障壁に触れたところからアビィはその存在を匂わせてもいない。
この世界という物語から、俺という物語からも存在を消していた。
だからこその、最後の一撃担当。
俺でもなく、誰でもなく、アビィだからこその不意打ちである。
どう考えても、ここは俺が終わらせる場面だ。
ロザリオで人を殺した経験や擬似勇者の暗殺成功とか魔王にすら気づかせないほどの気配殺し。伏線はあった。
そんな線は女神にも見えている。
だからこそアビィの奇襲は成立する。
「――――な」
瞬きより速い一瞬を膨れ上がらせた時の中で、女神は呆気にとられて何かを言おうとする。
同時に。
アビィは宙に舞う黄金のロザリオを掴む。
驚いたろう。
イカれているだろう。
これが俺の世界におけるメインヒロインなんだ。
自分の幸せの為なら何でも踏み台にしてみせる、狂人。
虐げられ続けて迫害されたくらいで幸せを諦めない。
手足が動き、声が出て、走って、食べて、自由意志による行動が出来る最高の状況下で、環境とか他者の介入で邪魔をされた程度のことでは止まらないし止まれない。
親だろうと騎士だろうと公爵だろうと王族だろうと聖女だろうと女神相手だろうと、例外はない。
全てを踏み台にして、幸せになることにしたのだから。
アビィは掴んだ黄金のロザリオを、何の躊躇いもなく。
当然のように、ただ幸せに生きていくために。
女神に、ロザリオを突き刺した。
「……あ…………ふふふっ」
女神は一瞬呆気にとられた顔をして、嬉々として笑った。
その瞬間、部屋に張られていた障壁や応戦していた擬似魔王たちは姿を消し。
重力による自由落下で、べしゃりとカーペットの真ん中へと落ちた。
俺は空中でアビィを抱きかかえて、そのまま着地をする。
終わったのか?
「……終わりね。この状態なら、黄金のロザリオを通じて女神を単なる現象へと戻すことが出来る」
部屋の真ん中に横たわる女神に向かって歩みを進めながら、魔女サム・ラスゴーラン・ノアは言う。
終結、これでおしまい。
だらだらとした復活展開やこれ以上のインフレした次なる強敵の乱入もなく、作戦は成功して完了。
腕に抱えたアビィから、緊張が抜けて震えが出ているのが伝わってくる。
「……大丈夫だ。もう終わった」
俺の袖を強く握り締めるアビィに囁く。
多少イカれているがアビィは武術家でも剣士でも騎士でも暗殺者でもない、ただのティーンエイジャーだ。
そんな彼女が、女神との戦いという空前絶後の状況下に参戦して最後の一撃の通した。
流石に疲れるだろう。
俺もやっと、置き去りにしていた緊張が体を巡って少し汗をかく。
終わった…………いや、続くんだ。
これで世界が終わることはなくなった。
世界はこれからも続いてゆ――――。
そんなエンディング間近の空気の中、小さな人影が一つ女神と魔女の間に割って入り。
両手を大きく広げて、立ち塞がった。
プッツンお嬢様アビゲイル・バセット。
これが真の狙い。
アビィはずっと、俺の背中にしがみついていた。
俺がアビィを含む自身の気配を殺し続け、アビィ自身も気配を殺し息を潜めていた。
誰にも気づかれずに、俺の背に張り付き続けていのだ。
俺は前世での自分の死という経験によって、世界から消失出来るほどに気配を殺せるようになった。
死のイメージを明確にする、経験。
この世界において、アビィ以上に自身の死を明確にイメージが出来る人間は他にいない。
アビィの前世、タカダマリエは異世界でも特異な存在だった。
産まれてすぐに難病を発症。
産まれて死ぬまでを、ほぼ病院の中で過ごし。
穴という穴に管を繋がれ声も出せず経口摂取での食事も行えず、胃に直接流動食を流し込んだり点滴にて栄養を摂取し。
身体は動かせず筋肉は発達せずに骨と皮の状態、投薬治療の影響で髪の毛も抜け落ちていた。
月に一度は自発呼吸も止まり、高い頻度で意識も失う。
その度に、次に目覚める確率に絶望し。
目覚めた奇跡にすら、絶望する。
そして、確率通りに当たり前のように死んでアビゲイル・バセットへと生まれ変わった。
アビィにとって自分の死というのは、もっと身近なもので。
当たり前に隣にあったもの。
元暗殺者の俺からすれば、当然ではある。
人はいつだって死ねる生き物だ。
重要な動脈が皮一枚挟んで、ナイフの切っ先が食い込むだけで届くような位置に配置されている。自身が思っている以上に死は身近にある。
でもアビィの場合はそんな話とは訳が違う。
俺は簡単に殺せることや簡単に殺されたことも合わせた目線での話だが。
アビィの前世タカダマリエの人生は産まれた時からずっと……いや、死を抱きかかえて産まれてきたようなものだ。
世界に干渉できず、死を抱いたまま。
世界から切り離されて、生きてきた。
そんなアビィ以上に、己を殺し世界からの消失を明確に想像して思いと想いの重さによって実現出来る人間は他にいない。
実際、この作戦が決行され魔女が一枚目の障壁に触れたところからアビィはその存在を匂わせてもいない。
この世界という物語から、俺という物語からも存在を消していた。
だからこその、最後の一撃担当。
俺でもなく、誰でもなく、アビィだからこその不意打ちである。
どう考えても、ここは俺が終わらせる場面だ。
ロザリオで人を殺した経験や擬似勇者の暗殺成功とか魔王にすら気づかせないほどの気配殺し。伏線はあった。
そんな線は女神にも見えている。
だからこそアビィの奇襲は成立する。
「――――な」
瞬きより速い一瞬を膨れ上がらせた時の中で、女神は呆気にとられて何かを言おうとする。
同時に。
アビィは宙に舞う黄金のロザリオを掴む。
驚いたろう。
イカれているだろう。
これが俺の世界におけるメインヒロインなんだ。
自分の幸せの為なら何でも踏み台にしてみせる、狂人。
虐げられ続けて迫害されたくらいで幸せを諦めない。
手足が動き、声が出て、走って、食べて、自由意志による行動が出来る最高の状況下で、環境とか他者の介入で邪魔をされた程度のことでは止まらないし止まれない。
親だろうと騎士だろうと公爵だろうと王族だろうと聖女だろうと女神相手だろうと、例外はない。
全てを踏み台にして、幸せになることにしたのだから。
アビィは掴んだ黄金のロザリオを、何の躊躇いもなく。
当然のように、ただ幸せに生きていくために。
女神に、ロザリオを突き刺した。
「……あ…………ふふふっ」
女神は一瞬呆気にとられた顔をして、嬉々として笑った。
その瞬間、部屋に張られていた障壁や応戦していた擬似魔王たちは姿を消し。
重力による自由落下で、べしゃりとカーペットの真ん中へと落ちた。
俺は空中でアビィを抱きかかえて、そのまま着地をする。
終わったのか?
「……終わりね。この状態なら、黄金のロザリオを通じて女神を単なる現象へと戻すことが出来る」
部屋の真ん中に横たわる女神に向かって歩みを進めながら、魔女サム・ラスゴーラン・ノアは言う。
終結、これでおしまい。
だらだらとした復活展開やこれ以上のインフレした次なる強敵の乱入もなく、作戦は成功して完了。
腕に抱えたアビィから、緊張が抜けて震えが出ているのが伝わってくる。
「……大丈夫だ。もう終わった」
俺の袖を強く握り締めるアビィに囁く。
多少イカれているがアビィは武術家でも剣士でも騎士でも暗殺者でもない、ただのティーンエイジャーだ。
そんな彼女が、女神との戦いという空前絶後の状況下に参戦して最後の一撃の通した。
流石に疲れるだろう。
俺もやっと、置き去りにしていた緊張が体を巡って少し汗をかく。
終わった…………いや、続くんだ。
これで世界が終わることはなくなった。
世界はこれからも続いてゆ――――。
そんなエンディング間近の空気の中、小さな人影が一つ女神と魔女の間に割って入り。
両手を大きく広げて、立ち塞がった。
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