202 / 240
47・小娘、何もかもが嫌になる。
05ぐしゃぐしゃに。
しおりを挟む
「ケリーすまん、私たちは降りる」
意識を失ったウォールを膝枕し、穏やかに輝きを失ったニィラが私に答える。
負けた……のか?
いやウォールはともかく、竜の女王であるニィラが負ける? あの自動人形はニィラの心を折るほどのハイスペックだったってこと?
状況が掴みきれないけど、少なくとも魔王軍はルカ以外動けてないってことなのは間違いない。
だからまだ慌てるような状況じゃあない。
ルカがいるならどうにでもなる。最強で最凶だから魔王なんだ。
「まあ、いいんじゃない? 多分もうこの件終わるだろうし、後で不老長寿として人間との生き方とか教えてあげるわよ――――あ」
ニィラの言葉に、以前アジトに突然現れた魔女があっけらかんと反応を示す。
なぜに魔女……? いや、そういえば自動人形を壊したら消しに来るとか言ってたっけ。
だから来たってこと? ということは自動人形自体は破壊には成功していて、ニィラは魔女に……いやそういう雰囲気でも――――。
そんな私の思考を、ぶった切るように。
「終わったみたい。相討ちね、魔王と勇者はどっちも死んだ」
「……え?」
放たれた魔女の言葉に、私はマヌケに声を出してしまう。
相討ち……死んだ?
「な、何言ってんの……そんなわけっ、そんなわけないでしょ⁉ 嘘だ……嘘だといいなさいよ‼ 馬鹿にしないで‼」
私は慌てて、魔女を問いただす。
有り得ない、だってルカが……何言ってるんだこの女。おちょくるのもいい加減にしろ。
「お嬢さん、貴女は私がどういう存在かわかってるでしょ? 魔王と勇者を月に跳ばして月面で戦ってたから流石に見えてはないけど、確実に魔王と勇者の反応は消えた。予想外だったわよ、私の予想だと八割方勇者の勝ちだと思ってたから。まさか相討ちなんてね」
魔女は淡々と、荒唐無稽なことを語る。
荒唐無稽……、でもこいつは魔女だ。
存在自体が荒唐無稽で、ルカとは兄妹にあたる。
嘘をつく理由もない。
こいつが魔王と勇者を月に跳ばすことも、魔王と勇者が月で戦うことも、有り得ることだ。
有り得る。有り得る……けど。
「嘘よ……、だって、魔王が…………最強のルカが……世界を、混乱に、ぐしゃぐしゃに………………」
私は一つも信じずに、信じない理由を述べようとするが上手く言葉に出来ない。
だって……嘘だ。
嘘に決まってる……、絶対にそうだ。
でも根拠が……、否定する根拠が見つからない。
肯定する根拠もない。
でも……だって。ルカが。
一瞬のうちに私の頭と心はぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。
歪んで、壊れて、狂って、奇跡的に保っていたバランスが崩れる。
その崩れる寸前で。
「ニィラぁぁあああああああああぁあぁああああッ‼ 今すぐ全員殺せ‼ 息吹で消し飛ばせ‼ 大陸ごと滅ぼせえええ――――――――ぇええっ‼」
私はニィラに向けて叫ぶ。
わからない、わからないけど。
万が一、いや兆が一、本当なら作戦は失敗だ。
だったら全部消し飛ばして、終わらせる。
混乱や女神信仰の排除とか、贅沢いわずに消し飛ばすしかない。
殺せ、壊せ、崩せ、滅ぼせ。
さあやれ、ニィラ。憂さ晴らしの時間だ。
「……ケリー、私は降りたんだ。もう、終わったんだ。私はウォールと共に幸せに生きて死ぬ」
悲しそうな顔で、ニィラは言う。
ああ、何言ってんだこの馬鹿トカゲ。
ふざけんなよ。じゃあ私は、私は――――――。
「……ッ、ぁぁぁぁぁあああああぁああああ――――ッ‼」
私は叫んで、兵士の手を振り解き。
そのまま手足が拘束されたまま、転がるようにブロックに体当たりをする。
「――な……っ」
ブロックは突然の体当たりに驚いて体勢を崩す。
崩れた拍子に、ブロックは私から回収していた無線コントローラーを床に落とす。
私は拘束されたまま、床を芋虫のように這ってコントローラーを奪い返そうとする。
爆弾設置は不完全だ。
でも戦闘によって城はそれなりに壊れている。
起爆出来れば、この城の全員皆殺しに出来るかもしれない。
いや皆殺しに出来る。
皆殺しにするんだ。
信じろ、不完全さは思いと想いの重さで埋め合わせろ。
殺す殺す殺す殺せ殺し死ね殺す死ね死ね殺せ殺す殺し殺す死ね殺せ死ね殺す殺す殺す死ね殺せ殺す殺す殺す殺せ殺す殺す殺せ死ね殺せ死ね殺せ殺しコロころころころここココころろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ。
歯でも鼻でも舌でも何でもいい、コントローラーの起爆スイッチを――――――。
と、目と鼻の先まで迫ったところで。
コントローラーに剣が突き刺さり、ひしゃげて歪んで壊れた。
「…………すまない、俺は本当に余計なことしか出来ないみたいだな」
剣でコントローラーを突き刺しながらブロックは、私に向かってそう言った。
「………………なんで」
壊れたコントローラーを見ながら、私は大粒の止まらない、止められない涙を流しながらなんの意味もない言葉を漏らした。
絶望、ああなんでルカ。
世界を混乱に、ぐしゃぐしゃに。
結局何も出来なかった。
ああ、嫌になる。
本当に、全部、嫌になる。
世界からの理不尽なほど深い絶望に包まれながら。
魔王軍の侵攻、いや私の物語は。
終わった。
意識を失ったウォールを膝枕し、穏やかに輝きを失ったニィラが私に答える。
負けた……のか?
いやウォールはともかく、竜の女王であるニィラが負ける? あの自動人形はニィラの心を折るほどのハイスペックだったってこと?
状況が掴みきれないけど、少なくとも魔王軍はルカ以外動けてないってことなのは間違いない。
だからまだ慌てるような状況じゃあない。
ルカがいるならどうにでもなる。最強で最凶だから魔王なんだ。
「まあ、いいんじゃない? 多分もうこの件終わるだろうし、後で不老長寿として人間との生き方とか教えてあげるわよ――――あ」
ニィラの言葉に、以前アジトに突然現れた魔女があっけらかんと反応を示す。
なぜに魔女……? いや、そういえば自動人形を壊したら消しに来るとか言ってたっけ。
だから来たってこと? ということは自動人形自体は破壊には成功していて、ニィラは魔女に……いやそういう雰囲気でも――――。
そんな私の思考を、ぶった切るように。
「終わったみたい。相討ちね、魔王と勇者はどっちも死んだ」
「……え?」
放たれた魔女の言葉に、私はマヌケに声を出してしまう。
相討ち……死んだ?
「な、何言ってんの……そんなわけっ、そんなわけないでしょ⁉ 嘘だ……嘘だといいなさいよ‼ 馬鹿にしないで‼」
私は慌てて、魔女を問いただす。
有り得ない、だってルカが……何言ってるんだこの女。おちょくるのもいい加減にしろ。
「お嬢さん、貴女は私がどういう存在かわかってるでしょ? 魔王と勇者を月に跳ばして月面で戦ってたから流石に見えてはないけど、確実に魔王と勇者の反応は消えた。予想外だったわよ、私の予想だと八割方勇者の勝ちだと思ってたから。まさか相討ちなんてね」
魔女は淡々と、荒唐無稽なことを語る。
荒唐無稽……、でもこいつは魔女だ。
存在自体が荒唐無稽で、ルカとは兄妹にあたる。
嘘をつく理由もない。
こいつが魔王と勇者を月に跳ばすことも、魔王と勇者が月で戦うことも、有り得ることだ。
有り得る。有り得る……けど。
「嘘よ……、だって、魔王が…………最強のルカが……世界を、混乱に、ぐしゃぐしゃに………………」
私は一つも信じずに、信じない理由を述べようとするが上手く言葉に出来ない。
だって……嘘だ。
嘘に決まってる……、絶対にそうだ。
でも根拠が……、否定する根拠が見つからない。
肯定する根拠もない。
でも……だって。ルカが。
一瞬のうちに私の頭と心はぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。
歪んで、壊れて、狂って、奇跡的に保っていたバランスが崩れる。
その崩れる寸前で。
「ニィラぁぁあああああああああぁあぁああああッ‼ 今すぐ全員殺せ‼ 息吹で消し飛ばせ‼ 大陸ごと滅ぼせえええ――――――――ぇええっ‼」
私はニィラに向けて叫ぶ。
わからない、わからないけど。
万が一、いや兆が一、本当なら作戦は失敗だ。
だったら全部消し飛ばして、終わらせる。
混乱や女神信仰の排除とか、贅沢いわずに消し飛ばすしかない。
殺せ、壊せ、崩せ、滅ぼせ。
さあやれ、ニィラ。憂さ晴らしの時間だ。
「……ケリー、私は降りたんだ。もう、終わったんだ。私はウォールと共に幸せに生きて死ぬ」
悲しそうな顔で、ニィラは言う。
ああ、何言ってんだこの馬鹿トカゲ。
ふざけんなよ。じゃあ私は、私は――――――。
「……ッ、ぁぁぁぁぁあああああぁああああ――――ッ‼」
私は叫んで、兵士の手を振り解き。
そのまま手足が拘束されたまま、転がるようにブロックに体当たりをする。
「――な……っ」
ブロックは突然の体当たりに驚いて体勢を崩す。
崩れた拍子に、ブロックは私から回収していた無線コントローラーを床に落とす。
私は拘束されたまま、床を芋虫のように這ってコントローラーを奪い返そうとする。
爆弾設置は不完全だ。
でも戦闘によって城はそれなりに壊れている。
起爆出来れば、この城の全員皆殺しに出来るかもしれない。
いや皆殺しに出来る。
皆殺しにするんだ。
信じろ、不完全さは思いと想いの重さで埋め合わせろ。
殺す殺す殺す殺せ殺し死ね殺す死ね死ね殺せ殺す殺し殺す死ね殺せ死ね殺す殺す殺す死ね殺せ殺す殺す殺す殺せ殺す殺す殺せ死ね殺せ死ね殺せ殺しコロころころころここココころろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ。
歯でも鼻でも舌でも何でもいい、コントローラーの起爆スイッチを――――――。
と、目と鼻の先まで迫ったところで。
コントローラーに剣が突き刺さり、ひしゃげて歪んで壊れた。
「…………すまない、俺は本当に余計なことしか出来ないみたいだな」
剣でコントローラーを突き刺しながらブロックは、私に向かってそう言った。
「………………なんで」
壊れたコントローラーを見ながら、私は大粒の止まらない、止められない涙を流しながらなんの意味もない言葉を漏らした。
絶望、ああなんでルカ。
世界を混乱に、ぐしゃぐしゃに。
結局何も出来なかった。
ああ、嫌になる。
本当に、全部、嫌になる。
世界からの理不尽なほど深い絶望に包まれながら。
魔王軍の侵攻、いや私の物語は。
終わった。
33
お気に入りに追加
1,554
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる