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28・竜騎士、八極令嬢と踊る。

01ウォール・バルカード。

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 俺、ウォール・バルカードは竜騎士である。

 まあ待て、わかる竜騎士ってなんだよって話はわかる。俺は馬鹿だが流石におかしなことを言っているってことくらいはわかる、ちょっとだけ説明させてくれ。

 俺はそもそも騎士の家系であるバルカード侯爵家の嫡男ちゃくなんだった。過去形である。

 数年前、俺も例に漏れず貴族の子息令嬢のつどうう学園の生徒だった。

 それも第一王子プライデル・メルバリアと同じ代、王族や国家を守る騎士の家系に身を置く俺はそれはもう見事に浮かれて取り巻きになった。馬鹿だから。

 第一王子は婚約者が居ながら平民の女生徒にお熱だった、まあ俺もお熱だったアイドルのような存在だ。

 その女生徒リーサにそそのかされた俺たちはまんまと彼女の話を信じて王子の婚約者をおとしめる為の片棒かたぼうかついだ。

 本当におろかで馬鹿だった。

 

 俺はあの八極令嬢はっきょくれいじょう伝説の一人目の犠牲者ぎせいしゃだ。

 調子に乗ってキャロラインを押さえつけていたところを、一撃で吹き飛ばされた。自業自得である。

 その後は騎士道にはんした行いによりなか勘当かんどう状態で、騎士団ではなく一般兵士の寮に入れられ。

 曲がりなりにも侯爵家の人間をどうあつかっていいかわからなかった兵宿舎へいしゅくしゃは俺をメルバリア王国の果ての果てに左遷させんした。

 ああちなみにバルカード侯爵家は二番目の弟であるシェルがぐらしい。結婚もしたとか、式とか呼ばれなかったけど。

 まあ腐っていたのだ。
 自分の弱さに、おろかさに、馬鹿さに。

 そんな時に竜の女王ニィラと出会った、というか拾った。

 竜の女王と言っても長い眠りで力が弱り、見た目はただの女児というか実際よく食べる子供でしかない。

 長男気質の高かった俺は年の離れた妹のように世話をした、まあ実際の年の離れ方は下ではなく上なわけだけど。

 完全に情がいた頃、魔王がニィラをむかえに来た。

 ニィラが国を消し飛ばしかけた程度ていど一悶着ひともんちゃくもあったが、魔王と一緒に居たケリー・パウンダー伯爵令嬢から出たこの国の冤罪裁判やら婚約破棄さわぎは王妃が仕組んだものだったという衝撃的な事実を知り。

 自分の人生の根幹こんかんであった王族や国を守る為の騎士道と、自分の人生が狂ったあの事件も仕組まれていたとか、なんか色々吹っ切れた。

 というかキレた。
 だからこの国を叩き壊すという魔王軍に着いてくことにした。
 だけど誰かを守ることも止められない俺は、ニィラを守ることにした。

 竜の女王を守る騎士、そうこれで俺は竜騎士と自称することにしたのだ。決して竜に騎乗きじょうする訳では無い。ちなみに魔王軍も軍と言いつつ俺とニィラをあわせても四人しかいない。

 まあそれが俺の大体の来歴だ。

 そっからは魔王に半殺し……、いや九割九分殺しにされるまでぼっこぼこにされては回復され九割九分殺しにされては回復されをり返している。

 鍛錬たんれんというか……、おかげさまで当初は六秒毎に回復されていたが今は最長で十六分二十三秒は持つようになった。

 はい、それが俺、よろしく。

 さて、そんな魔王軍所属戦闘員で竜騎士の俺が何処どこにいるのかと言えば。

「……エンデスヘルツ公爵ていか」

 目的地の前で俺はつぶやく。
 因縁いんねん深きエンデスヘルツ公爵家。

 魔王軍は現在、王族と三公爵とそれに付随ふずいする主要貴族の排除はいじょに乗り出している。

 メルバリア王国を滅ぼすというと、八千万の民をまとめて消し去るみたいなことを思い描く人も多いと思うが現実的ではない。

 いやまあ魔王だとか竜とかの非現実が何をいってるんだってなるけど、政治体制をまるっきりすり替わってしまえば良いだけだ。

 なんて簡単に言ってるけど相当ヤバいことをしている、テロリストもテロリスト、完全に逆賊ぎゃくぞくだ。

「お、リングストン公爵がリングストンの街を出たな。これで魔女の姉ちゃんを怒らすことはねえだろ、念の為そっちは俺が行くから、ウォールはエンデスヘルツに行け」

 魔王からの突然の命令により、俺はエンデスヘルツ公爵ていへと足を向けた。

 いやしかし、エンデスヘルツ公爵家か……。

 発展派のトップであり、技術開発を積極的に行う派閥で様々な技術発展に対して技術者同士を繋ぎ、複数の開発でひとつのものを完成させるように思案したり、まとめあげたりしてるのがエンデスヘルツ公爵なのである。

 なんて話より俺が真っ先に思い出すのは、八極令嬢はっきょくれいじょうキャロライン・エンデスヘルツである。

 八極拳はっきょくけんという異国の武術をきわめた化け物だ。

 エンデスヘルツと聞けばいやおうにも思い出す。
 トラウマレベルのあの打を、内蔵全てが裏返るようなあの一撃を思い出し、はらわたがざわつく。

 とはいえ、今あの化け物令嬢はこの国にはもう居ないのだ。
 例の一件で婚約者である第一王子すらも壁に埋めてしまったことにより、国外追放されている。

 なので問題はない、というかむしろ残念だ。
 今の俺なら勝てる。

 この間、魔王軍で城に行った時兵士や騎士を相手にしてわかった。
 どうにも俺は人のいきを超えてしまっている。
 数え切れない臨死体験りんしたいけんは無駄じゃなかったというわけだ。

 いやー、残念だわー、ホント今ならあの女けちょんけちょんしてやれるのにー、国外追放されてるんなら仕方ないよなー、いやー無念無念。
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