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27・お嬢様、魔王に会う。
01粉々に吹き飛んだ。
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私、アビゲイル・バセットは伯爵令嬢にして異世界転生者、もとい公爵拉致監禁暴行傷害犯である。
いやーついにやっちまったってやつだ。
でも仕方がなかった。
このままだと発展派と教会派が手を組んで武装決起により国家転覆を行おうとして、内乱により多くの犠牲が出てしまうところだった。
なんてね。
まあ正直私は何人死のうが知ったこっちゃない。
グロリアという可愛い友人がそんなわけのわからないことの片棒を担がれそうになってるのを止めたかっただけだ。
私は八千万の国民より、数人の親しい友人が大事なのだ。
つまり私利私欲の為に私はこの国の公爵を拉致監禁して腕をへし折り顔を蹴り飛ばしたわけだ。
私の執事であり、大昔に暗殺なんてことを生業にしていたナインですらこの作戦にはドン引きしていた。
どうにも私は倫理的なことや道徳心というのがやや欠落しているのかもしれない。
まあ虐げられ続けたアビィに、病院のベッドで一生を終えた高田まりえが混ざり合う今の私に、健全な精神が宿るわけもないのだ。
なんて考えなくても良いことを考えている。
そう、これは現実逃避なのだ。
目の前で起こった非現実的なことに対して、私は現実逃避をせざるを得ない。
マーク様を拉致監禁した甲斐あって、国家転覆から手を引かせることに成功してナインの容赦のない踏みつけで折れたマーク様の腕を手当していると。
突然、建物が吹き飛んだのだ。
ここはバセット家敷地内にある、離れの小屋。
アビゲイル・バセットが虐げられ続け、病に倒れて押し込められていたあの小屋だ。
そこにリングストン公爵のお屋敷からナインがサクッとマーク様を拉致して監禁したのである。
この小屋はバセット家が世間にバレないように私を隔離していた場所であり、人目に付かないしバセット家の人間は既に掌握しているので拉致監禁にはうってつけだった。
それが今、粉々に吹き飛んだ。
よーし、ここからリングストン公爵が王族と手を組んで、発展派は上手いことキャロライン嬢に相談しつつ押さえ込んで血の流れない解決に向けて進むだけだ! くらいのことを考えていた矢先。
なにこれ。
「いやはや、助かったぜ。リングストンの街で手を出すとあの魔女の姉ちゃんが面倒だったからな。おまえがリングストンの街から出てくれたのはラッキーだった」
動揺する私は声の方向にすぐに顔を向ける。
声の主は宙に浮いていた。
空を飛んでいたのだ。
あー、これは見てもより一層分からなくなるやつだわ。
なんか今話の中に出てきた、リングストンの街と魔女ってところからあのグラマラスな美人魔女のことだろう。
つまりこの宙に浮かぶ謎の男も、あのおとぎ話の類いの存在なのだろう。
一応私も異世界転生者という超常的な存在であることと、魔女の魔法を何度か目の前で見ているのでそんじょそこらの人よりもこの手の出来事には耐性があるつもりだ。
しかし何も無い場所に浮かぶ人間を目の当たりにするのは、流石に言葉を失う。
「どうもリングストン公爵、俺は魔王だ。とりあえず死ね」
驚愕する私に目もくれずに男はそう言って、赤く光る右手をマーク様へと向けた。
あー、はいはいなるほど魔王ねぇ。
なんて考えた瞬間。
「うおうっ⁉」
飛び上がった黒い影が魔王の首をナイフで斬り裂いた。
暗闇からの瞬殺、まさに暗殺である。
「いや駄目だ‼ 逃げろ‼ 俺じゃ勝てない‼」
魔王の首を斬り裂いたナインが、着地と同時にそう叫ぶ。
あまりの速さに理解が追いつかない、え? やっつけたんじゃないの?
「へえ、驚いた。坊主なかなか人の域を超えてるな、ウォールくらいなら絶対死んでただろうけど、まあ俺は死なねえから」
そう言いながら地面に降りてきたところで魔王の裂かれた首は完全に繋がっていた。
回復力というか治癒力とかそういう話ではなく。
まるで何も無かったように、魔王の首は元通りになっていた。
「おっと、落ち着け坊主。おまえが凄まじいのはわかったからちょっと黙ってろ」
目にも留まらぬ速さで、私には全く見えていなかったが首元にナイフを近づけていたナインに向かって魔王が言う。
するとぴたりとナインは固まってしまったかのようにそのまま動きを止めた。
「ああ、大丈夫だお嬢ちゃん。ちょいと動きを止めさせてもらっただけだ、俺の目的はそこにいるリングストン公爵だけだ。あんたらには手を出すつもりはねえよ」
ナインのナイフを指でつまむように取り上げながらゆったりと述べる。
「あー……、じゃあこの坊主に免じて少し無駄口叩いてやるよ。俺はこの国をそっくりそのまま頂く為に王族と三公爵、それに付随するやつを消して行くことにしたんだ」
魔王はナイフをふわりと宙に浮かせながら淡々ととんでもないことを語る。
「……な、なぜ?」
怒涛の展開に喉がからからになりながら、私は率直な疑問を口にする。
「なんで……、この国を、い、頂いちゃおうと思った、んですか……?」
しどろもどろの私の問いに。
「へえ、驚いた俺に対して質問できるのか。おもしれえから答えてやるよ。俺は魔王、善を否定して悪を統べる魔の王だ。つまりこの俺の正しさは悪であり、俺が間違いだと思うものが善なんだ。この国は間違えた、だから俺はこの国を否定する。二千年も途絶えずにいけしゃあしゃあと栄えてきたこの国は善さは一回滅ぼさねえと」
魔王としてはね。
そう付け加え、にやりと笑って答えた。
いやーついにやっちまったってやつだ。
でも仕方がなかった。
このままだと発展派と教会派が手を組んで武装決起により国家転覆を行おうとして、内乱により多くの犠牲が出てしまうところだった。
なんてね。
まあ正直私は何人死のうが知ったこっちゃない。
グロリアという可愛い友人がそんなわけのわからないことの片棒を担がれそうになってるのを止めたかっただけだ。
私は八千万の国民より、数人の親しい友人が大事なのだ。
つまり私利私欲の為に私はこの国の公爵を拉致監禁して腕をへし折り顔を蹴り飛ばしたわけだ。
私の執事であり、大昔に暗殺なんてことを生業にしていたナインですらこの作戦にはドン引きしていた。
どうにも私は倫理的なことや道徳心というのがやや欠落しているのかもしれない。
まあ虐げられ続けたアビィに、病院のベッドで一生を終えた高田まりえが混ざり合う今の私に、健全な精神が宿るわけもないのだ。
なんて考えなくても良いことを考えている。
そう、これは現実逃避なのだ。
目の前で起こった非現実的なことに対して、私は現実逃避をせざるを得ない。
マーク様を拉致監禁した甲斐あって、国家転覆から手を引かせることに成功してナインの容赦のない踏みつけで折れたマーク様の腕を手当していると。
突然、建物が吹き飛んだのだ。
ここはバセット家敷地内にある、離れの小屋。
アビゲイル・バセットが虐げられ続け、病に倒れて押し込められていたあの小屋だ。
そこにリングストン公爵のお屋敷からナインがサクッとマーク様を拉致して監禁したのである。
この小屋はバセット家が世間にバレないように私を隔離していた場所であり、人目に付かないしバセット家の人間は既に掌握しているので拉致監禁にはうってつけだった。
それが今、粉々に吹き飛んだ。
よーし、ここからリングストン公爵が王族と手を組んで、発展派は上手いことキャロライン嬢に相談しつつ押さえ込んで血の流れない解決に向けて進むだけだ! くらいのことを考えていた矢先。
なにこれ。
「いやはや、助かったぜ。リングストンの街で手を出すとあの魔女の姉ちゃんが面倒だったからな。おまえがリングストンの街から出てくれたのはラッキーだった」
動揺する私は声の方向にすぐに顔を向ける。
声の主は宙に浮いていた。
空を飛んでいたのだ。
あー、これは見てもより一層分からなくなるやつだわ。
なんか今話の中に出てきた、リングストンの街と魔女ってところからあのグラマラスな美人魔女のことだろう。
つまりこの宙に浮かぶ謎の男も、あのおとぎ話の類いの存在なのだろう。
一応私も異世界転生者という超常的な存在であることと、魔女の魔法を何度か目の前で見ているのでそんじょそこらの人よりもこの手の出来事には耐性があるつもりだ。
しかし何も無い場所に浮かぶ人間を目の当たりにするのは、流石に言葉を失う。
「どうもリングストン公爵、俺は魔王だ。とりあえず死ね」
驚愕する私に目もくれずに男はそう言って、赤く光る右手をマーク様へと向けた。
あー、はいはいなるほど魔王ねぇ。
なんて考えた瞬間。
「うおうっ⁉」
飛び上がった黒い影が魔王の首をナイフで斬り裂いた。
暗闇からの瞬殺、まさに暗殺である。
「いや駄目だ‼ 逃げろ‼ 俺じゃ勝てない‼」
魔王の首を斬り裂いたナインが、着地と同時にそう叫ぶ。
あまりの速さに理解が追いつかない、え? やっつけたんじゃないの?
「へえ、驚いた。坊主なかなか人の域を超えてるな、ウォールくらいなら絶対死んでただろうけど、まあ俺は死なねえから」
そう言いながら地面に降りてきたところで魔王の裂かれた首は完全に繋がっていた。
回復力というか治癒力とかそういう話ではなく。
まるで何も無かったように、魔王の首は元通りになっていた。
「おっと、落ち着け坊主。おまえが凄まじいのはわかったからちょっと黙ってろ」
目にも留まらぬ速さで、私には全く見えていなかったが首元にナイフを近づけていたナインに向かって魔王が言う。
するとぴたりとナインは固まってしまったかのようにそのまま動きを止めた。
「ああ、大丈夫だお嬢ちゃん。ちょいと動きを止めさせてもらっただけだ、俺の目的はそこにいるリングストン公爵だけだ。あんたらには手を出すつもりはねえよ」
ナインのナイフを指でつまむように取り上げながらゆったりと述べる。
「あー……、じゃあこの坊主に免じて少し無駄口叩いてやるよ。俺はこの国をそっくりそのまま頂く為に王族と三公爵、それに付随するやつを消して行くことにしたんだ」
魔王はナイフをふわりと宙に浮かせながら淡々ととんでもないことを語る。
「……な、なぜ?」
怒涛の展開に喉がからからになりながら、私は率直な疑問を口にする。
「なんで……、この国を、い、頂いちゃおうと思った、んですか……?」
しどろもどろの私の問いに。
「へえ、驚いた俺に対して質問できるのか。おもしれえから答えてやるよ。俺は魔王、善を否定して悪を統べる魔の王だ。つまりこの俺の正しさは悪であり、俺が間違いだと思うものが善なんだ。この国は間違えた、だから俺はこの国を否定する。二千年も途絶えずにいけしゃあしゃあと栄えてきたこの国は善さは一回滅ぼさねえと」
魔王としてはね。
そう付け加え、にやりと笑って答えた。
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