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18・名無し、仕事をする。
03リリィ。
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さて。
「私みたいなただの殺しを仕事にしてる紛い物じゃなく、本物の暗殺者だった。まさか今回もナンバーシリーズが関わって…………え? ナンバースリーオーワンまで連れてきたの?」
私は話してる途中で、男の後ろを見て驚愕する。
これは嘘だ。
私のリアクションに男は振り向いて、背後を警戒する。
ほおら、引っかかった。
私はすぐに上着の仕掛けを発動してグライダーを開き、屋上から飛ぶ。
本物のナンバーシリーズならまずこの手のナンセンスな手には引っかからない、後ろに誰がいたとしても死もいとわないので何も気にしない。だがナンバーシリーズを知る奴なら振り返らずにはいられないだろう。
あー、くっそ斬られた腹が痛い。腹立つう~。
飛び立ってすぐに、男はこちらを振り向く。
「ばっかが見るー! ぶったのケツー! 絶対いつか殺す! ばーかばーか!」
私は男に向かってそう捨て台詞を吐いてトンズラぶっこく。
後ろから何やら悔しそうな怒声が聞こえたのでここは痛み分けとしておこう。
しかして、二度目の公爵殺しがやや不完全燃焼だ。
私の傷も死にはしないだろうが浅いわけじゃあない。
さっさと隠れ家に戻って治療しないと……ちくしょう、乙女の玉の肌に傷を付けるなんてマジでいつかぶっ殺してやるからな。勝てないけど。
私は腹部を押さえてふらふらになりながら隠れ家のホテルに着いたが、その時には傷口はほとんど塞がっていた。
確かにスタイル維持の為に腹筋は鍛えてセクシーなお腹ではあるけれども、こんな回復力って……。
あれか、達人の斬撃は切り口が綺麗すぎて綺麗にくっついてしまうみたいな、あれか。
これなら傷跡も残らなさそうだから良いけど、考えれば考えるほど謎だ。
なんなんなのよ、アイツ。
私を妨害するってことはリングストンの手の者ってことなんだろうけど、あんなナンバーシリーズ級のやつどうやって見つけたんだ……?
というかナンバーシリーズでないにしてもなんかしらの関係はあるのなら、王族側の人間、つまりは私の依頼主側の人間って可能性もある。
ハメられたか? もしくはリングストンを消した後に実行犯の私たちを消すつもりとか……?
いや、だとしたらアイツが現れた時点で私の首は跳ねられているだろうし…………うーん。
やめた。
考えても仕方がない、考えるのは私の仕事ではない、ボスの仕事だ。
とりあえず私は一本煙草をふかし、今回の報告の為に急ぎアジトへと戻った。
「気に入らない。気に入らないわね。何よ、その話」
私の話を聞いて、ボスであるリリィは側近のロバートに膝枕をさせながら大きなソファで寝そべり果物をつまみつつ優雅に口を開く。
「も、申し訳ございません。ボス」
私はご立腹なボスに失敗を詫びる。
リリィ。
側近のロバート・ワイリーと共にここ十年でこの大陸の裏社会を牛耳った、悪役どころか邪悪な組織の女ボスだ。
薬物売買、人身売買、強盗、殺人、放火、売春斡旋、武器輸入、地上げ、窃盗、盗品横流し、などなどあらゆる悪事に手を染めて成り上がった超極悪人。
容赦とか情けとかやり過ぎとか罪悪感とか、そういう人間に備わっているブレーキが付いていない。悪行以外での生存が出来ないような人である。
「あー、それはいいわよ。ちゃんとお坊ちゃんには当てたんでしょ? 後で死んだか確認しとくから別にいいわよ。当てたのに死んでないんならフィリップス家が作ったライフルってのがヘボなんでしょ、それはいいの」
ボスは私を見ずにそう言う。よかった……、怒られずに済んだ。
ボスを怒らせると最悪の場合、皮を鞣され剥製にされてアジトの入口に飾られてしまう。
「気に入らないのはその暗殺者モドキよ。多分そいつリングストンの護衛とかじゃないわよ。そんなやつ雇えるんなら前公爵殺しの時に招集されてるはずでしょう。エンデスヘルツのお嬢ちゃんと覆面男と一緒に集められていたはず。あのお坊ちゃんには表の人脈はあってもそんな暗殺者モドキみたいなのに繋がるツテは無いわよ。あったら私の耳に届いているもの」
ボスはブドウをふさからもいで、次々にロバートの口に入れながら考えを述べる。
「……では、何者だったのでしょうか、アイツは?」
私はボスに尋ねる。
まさか通りすがりの正義漢ってことはないだろう。
「ふふ、良いわね、貴女のそういうちゃんと考えないとこ好きよ。まあそうね、通りすがりの正義漢なんじゃない?」
「ええ⁉」
ボスの答えに驚きの声を上げる。
「嘘よ。ちょっとは考えなさいよ、気に入らないわね。お坊ちゃんは来客対応中だったんでしょ? だったらその暗殺者モドキはその来客を守ろうとしたのよ」
ボスは淡々と冷たい声でそう答える。
「私みたいなただの殺しを仕事にしてる紛い物じゃなく、本物の暗殺者だった。まさか今回もナンバーシリーズが関わって…………え? ナンバースリーオーワンまで連れてきたの?」
私は話してる途中で、男の後ろを見て驚愕する。
これは嘘だ。
私のリアクションに男は振り向いて、背後を警戒する。
ほおら、引っかかった。
私はすぐに上着の仕掛けを発動してグライダーを開き、屋上から飛ぶ。
本物のナンバーシリーズならまずこの手のナンセンスな手には引っかからない、後ろに誰がいたとしても死もいとわないので何も気にしない。だがナンバーシリーズを知る奴なら振り返らずにはいられないだろう。
あー、くっそ斬られた腹が痛い。腹立つう~。
飛び立ってすぐに、男はこちらを振り向く。
「ばっかが見るー! ぶったのケツー! 絶対いつか殺す! ばーかばーか!」
私は男に向かってそう捨て台詞を吐いてトンズラぶっこく。
後ろから何やら悔しそうな怒声が聞こえたのでここは痛み分けとしておこう。
しかして、二度目の公爵殺しがやや不完全燃焼だ。
私の傷も死にはしないだろうが浅いわけじゃあない。
さっさと隠れ家に戻って治療しないと……ちくしょう、乙女の玉の肌に傷を付けるなんてマジでいつかぶっ殺してやるからな。勝てないけど。
私は腹部を押さえてふらふらになりながら隠れ家のホテルに着いたが、その時には傷口はほとんど塞がっていた。
確かにスタイル維持の為に腹筋は鍛えてセクシーなお腹ではあるけれども、こんな回復力って……。
あれか、達人の斬撃は切り口が綺麗すぎて綺麗にくっついてしまうみたいな、あれか。
これなら傷跡も残らなさそうだから良いけど、考えれば考えるほど謎だ。
なんなんなのよ、アイツ。
私を妨害するってことはリングストンの手の者ってことなんだろうけど、あんなナンバーシリーズ級のやつどうやって見つけたんだ……?
というかナンバーシリーズでないにしてもなんかしらの関係はあるのなら、王族側の人間、つまりは私の依頼主側の人間って可能性もある。
ハメられたか? もしくはリングストンを消した後に実行犯の私たちを消すつもりとか……?
いや、だとしたらアイツが現れた時点で私の首は跳ねられているだろうし…………うーん。
やめた。
考えても仕方がない、考えるのは私の仕事ではない、ボスの仕事だ。
とりあえず私は一本煙草をふかし、今回の報告の為に急ぎアジトへと戻った。
「気に入らない。気に入らないわね。何よ、その話」
私の話を聞いて、ボスであるリリィは側近のロバートに膝枕をさせながら大きなソファで寝そべり果物をつまみつつ優雅に口を開く。
「も、申し訳ございません。ボス」
私はご立腹なボスに失敗を詫びる。
リリィ。
側近のロバート・ワイリーと共にここ十年でこの大陸の裏社会を牛耳った、悪役どころか邪悪な組織の女ボスだ。
薬物売買、人身売買、強盗、殺人、放火、売春斡旋、武器輸入、地上げ、窃盗、盗品横流し、などなどあらゆる悪事に手を染めて成り上がった超極悪人。
容赦とか情けとかやり過ぎとか罪悪感とか、そういう人間に備わっているブレーキが付いていない。悪行以外での生存が出来ないような人である。
「あー、それはいいわよ。ちゃんとお坊ちゃんには当てたんでしょ? 後で死んだか確認しとくから別にいいわよ。当てたのに死んでないんならフィリップス家が作ったライフルってのがヘボなんでしょ、それはいいの」
ボスは私を見ずにそう言う。よかった……、怒られずに済んだ。
ボスを怒らせると最悪の場合、皮を鞣され剥製にされてアジトの入口に飾られてしまう。
「気に入らないのはその暗殺者モドキよ。多分そいつリングストンの護衛とかじゃないわよ。そんなやつ雇えるんなら前公爵殺しの時に招集されてるはずでしょう。エンデスヘルツのお嬢ちゃんと覆面男と一緒に集められていたはず。あのお坊ちゃんには表の人脈はあってもそんな暗殺者モドキみたいなのに繋がるツテは無いわよ。あったら私の耳に届いているもの」
ボスはブドウをふさからもいで、次々にロバートの口に入れながら考えを述べる。
「……では、何者だったのでしょうか、アイツは?」
私はボスに尋ねる。
まさか通りすがりの正義漢ってことはないだろう。
「ふふ、良いわね、貴女のそういうちゃんと考えないとこ好きよ。まあそうね、通りすがりの正義漢なんじゃない?」
「ええ⁉」
ボスの答えに驚きの声を上げる。
「嘘よ。ちょっとは考えなさいよ、気に入らないわね。お坊ちゃんは来客対応中だったんでしょ? だったらその暗殺者モドキはその来客を守ろうとしたのよ」
ボスは淡々と冷たい声でそう答える。
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